製造/関東 「樹脂成形アルミ金型の表面への鉄合金めっき処理による高機能金型の事業化」

鉄めっき技術で技術提案型企業に転身

 ある会社の研修旅行のバスの車中、及川渉社長が景色を眺めていると前の座席から「アルミに鉄でめっきするとおもしろそうだ」という雑談が聞こえた。つい身を乗り出して「やれますよ」と話しかけると、「ではやってみよう」とすぐに意気投合した。

 雑談の主は当時、東京都立工業技術センター(現東京都立産業技術研究センター)で金属熱処理を研究していた竹内榮一工学博士。この1年後の97年、栃木県の支援を受けて「アルミニウム合金への鉄合金めっき技術」の本格開発に着手した。

 アルミ部品の耐摩擦・摩耗性を高めて自動車・二輪車に適用し、軽量化につなげるのが狙い。竹内氏を技術顧問に迎え、二輪車のブレーキディスクなどで実証を重ねて2000年に実用化にこぎ着けた。

 鉄めっき技術は高い評価を受け、05年に「素形材産業技術賞・中小企業庁長官賞」、06年に「表面技術協会技術賞」、07年に「日本熱処理技術協会賞・技術開発賞」を受賞した。特許も日本をはじめ、米国、欧州、中国などの各国で取得している。

 現在は二輪車のエンジン関連部品に採用されている。需要増に備えて専用工場を新設し、09年に稼働する予定だ。

 同社は1949年に大企業の下請けめっき工場として創業し、自動車、医療、半導体へとすそ野を広げてきた。こうした中、偶然の出会いから生まれた新技術は“技術開発型企業への転身”への足がかりとなっている。

日本プレーテック(株)


会社名
役割分担
■コア企業
日本プレーテック(株)
めっき処理技術、事業化統括
(有)ベストテクニカル金型設計・試作、試験・評価



日本プレーテック(株) 及川 渉 代表取締役社長<br>「アルミ金型の表面に鉄合金めっきを施すことによって硬さと耐摩耗性を与え、長寿命化を図り、試作から量産加工まで対応可能な高性能な金型を作ることができます」

日本プレーテック(株) 及川 渉 代表取締役社長
「アルミ金型の表面に鉄合金めっきを施すことによって硬さと耐摩耗性を与え、長寿命化を図り、試作から量産加工まで対応可能な高性能な金型を作ることができます」

【鉄めっき技術の可能性を広げた1本の電話】

 鉄めっき技術は電気めっきによる鉄めっきと熱拡散処理を複合した表面改質技術だ。鉄めっきでアルミ表面を硬化し、熱拡散処理で密着性を高める。また同処理によって表面に亀甲模様の亀裂が発生するが、これが摩擦部分の潤滑油の油道の役割を果たし、耐摩擦・摩耗性が高まる。

 この特徴を生かし、自動車などの摺動部品への採用を狙った。アルミ板材と鋼板といった異種金属同士のスポット溶接は専用機でないと難しいが、鉄めっきによって一般的な鋼板用の溶接機で容易に溶接できるようになることもわかった。

 自動車にとって軽量化は最重要テーマのひとつ。市場規模も大きいだけに「当初はアルミ部品への適用しか頭になかった」(及川渉社長)という。この認識を変えたのはベストテクニカル(栃木県足利市)の浪岡健社長の1本の電話だった。

 ベストテクニカルは試作品や多品種少量生産向け樹脂成形アルミ金型を手掛けており、型分割や切削シボ加工を得意としている。「アルミ金型による量産は長年の研究テーマだった。鉄めっき技術の記事を読んで『これだ』と確信し、すぐに受話器に手を伸ばした」と浪岡社長。

 及川社長も「目からうろこが落ちたようだった」と振り返る。この数カ月後、07年度の新連携事業に応募した。


【小型部品の量産に道、テーマは精密・大型に】

 開発から約1年半が経過。試作金型による実証試験では繊維強化プラスチック(FRP)の小型部品を7万5,000個つくり、問題ないことを確認した。「通常の樹脂であれば数百万個の量産に耐えられる」(浪岡社長)という。

 現在はアルミの種類や形状を変えた複数の金型でめっきの厚さや表面分布状態を精査している。部品のような凸部分には厚さ、数マイクロメートルで均一にめっきできるが、精密金型の細い溝や小さい穴の奥といった凹部分への均一めっきは難しい。

 金型への負荷が大きい大型部品の成形、アルミの熱膨張率を抑えるための冷却・温度管理もテーマとなっており、毎月の会合で改良策を練っている。


【金型革命で膨らむ100億円事業を描く】

 アルミは熱しやすく冷めやすい。このため樹脂成形サイクルを大幅に短縮できる。現在は加工しやすいアルミの試作金型で検証した後、量産用の鋼材金型をつくっているが、実用化できれば試作金型をそのまま量産金型に転換できる。

 また工程が減り、短納期化を図れるとともに、材料の無駄もなくなる。まさに『金型革命』を起こせるだけの潜在力を秘める。

 すでに自動車、家電などの複数のメーカーから引き合いが寄せられている。樹脂成形金型のすそ野は広く、市場規模は約1兆円と見られており、この1%でも食い込めれば100億円事業も夢ではない。

 日本プレーテックのめっき技術とベストテクニカルの金型技術を駆使して開発を急ぐ鉄めっき金型は両社の未来も形づくる。