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飲料・食品メーカー、農業支援の動き加速−原料を長期・安定調達

 飲料や食品などのメーカーが農家との契約栽培拡大や自家農園の運営に力を入れている。これらの取り組みの進展で原料を長期間、安定的に調達でき、品質管理やコストダウンが見込める。契約農家にとっても販売先を確保できる利点がある。農村の高齢化で耕作放棄地が増えており、国内農業の競争力強化や規模拡大のため、メーカーの支援は不可欠。企業による契約栽培や自家農園の動きは、放棄地問題の有力な解決策にもなりそうだ。(編集委員・嶋田歩)

 九州地区を中心に茶園育成の新産地事業を展開している伊藤園。茶園の面積は計300ヘクタールに達する。契約栽培の茶園と合わせ、今後は全国で約850ヘクタールの茶園面積を中期的に2000ヘクタールに増やすことが目標だ。

 新産地事業をスタートしたのは2001年。耕作放棄地の増加に悩む地方自治体や農事組合法人の相談を受け、宮崎県都城地区を皮切りに大分県臼杵・杵築地区、鹿児島県曽於地区、長崎県西海地区など提携先を増やしてきた。

 耕作放棄地をまとめ、新たに茶園事業を始めようとする自治体などに伊藤園が生産方法や品質管理法を指導。さらに生産された茶葉を一定価格で全量買い取る。伊藤園は地元法人に出資はせず地元の市町村や事業者を前面に立てつつ、機械化や茶木の新品種提供などをサポートし、利益を分け合うとの考え方だ。

 茶園の生産効率を上げるには、大規模化や機械化が欠かせない。「事業スタートから年月が経つにつれ、自治体や農業者の理解も深まり、茶園も大規模化ができるようになった」と担当者は胸を張る。できた茶葉を伊藤園が全量買い取ることにより、農家側は収入の安定化が図れる。

 メルシャンも農業生産法人を通じてワイン用ブドウの自家農園「マリコヴィンヤード」(長野県上田市)を運営。ブドウの苗木が成長したこともあり、13年度の収穫率は前年度の約60%から80%に向上する見通し。赤ワイン用の「メルロー」「カベルネ・ソーヴィニヨン」、白ワイン用の「シャルドネ」品種を栽培。自家農園と並行し長野県塩尻地区と山梨県、秋田県、福島県のブドウ農家とも契約栽培を拡大する。

 農家にとってワイン用のブドウは生食用に比べ買い取り単価が安い。しかし化粧箱に1房ずつ詰めるといった手間が不要になるなど作業コストを大幅に減らせるため、手取りの金額は生食用とさほど変わらない。何よりメルシャンに生産したブドウを長期・安定的に購入してもらえる安心感がある。「そのためワイン用のブドウに切り替える農家も増えている」(同社)としている。

【農家、契約栽培で収入確保】
 キリンビールはビール原料であるホップの年間使用量の約1割に相当する238トンを国内農家から調達する。その中で主力とする遠野ホップ農業協同組合(岩手県遠野市)とは、50年間の付き合いがある。46の生産者が6地域で年間62トンのホップを供給する。

 遠野産ホップの使用をうたった限定商品「一番搾り とれたてホップ生ビール」は13年で発売から10年。「遠野でとれたホップを使い宮城のキリンビール仙台工場が生産する取り組みは、東北の『やればできる』の心意気を示したものと言える。(地元材使用の)ビールを飲むことで元気になりたい」。本田敏秋遠野市長は契約栽培が地元経済に寄与していることを強調する。

 カルビーやカゴメなどもジャガイモやトマトの契約菜園や農家との取引制度を強化。このような取り組みに力を入れる一番の理由は、原料の安定調達だ。生産コストの低減に加え、国産原料による製品の高付加価値化も期待できる。

 農家側も収入を安定化させるメリットがある。農作物は気温や降雨などによって収穫量や品質が大きく変動する。手塩にかけて良い農産物をつくっても、収穫量が過剰になって単価が下がり収入が減ってしまうケースもある。そうした心配も契約栽培によって解消される上、栽培技術や最新の品種を企業から提供してもらえる利点がある。

 飲料メーカーなどの農業参入や支援の動きに対し農家は「支配下に置かれる」、「もうからなくなったら撤退するのではないか」といった懐疑的な声もあったが、メーカー側の努力により実績が出てきたことで誤解は解けつつある。農家の平均年齢が66歳以上となり高齢化が深刻となる中、耕作放棄地の問題や農業改革問題は避けて通れない。メーカーの栽培品の買い取りや農業支援が課題解決に向けた一助になりそうだ。


【2013年5月2日 日刊工業新聞社】