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次世代加速器の国内誘致に期待感−候補地の取り組みと今後の課題

 宇宙の始まりはどんな状態だったのか―。この謎に迫るのに使う次世代加速器「国際リニアコライダー」(ILC)が2020年代半ばにも世界に1カ所完成する。日本は東北・北上山地と九州・脊振(せふり)山地の2候補地を研究者らが科学的判断で今夏にも一本化し、日本への誘致を政府間協議に委ねる。期待高まる国内候補地の取り組みと今後の課題を探った。

 【東北・北上山地/雇用創出、復興の原動力に】

 東日本大震災からの復興と再生の原動力―。東北の産学官が結成する東北ILC推進協議会は、東北地方へのILC建設意義をこう位置づけた。ヒッグス粒子発見以上の研究成果が確実視されているほか、産業振興や雇用創出、地域振興など多くの分野に波及効果が見込まれる。これらの“果実”を着実に取り込むための課題を探った。

 生産誘発額は建設から運用の30年間で約4兆3000億円、全国ベースで約25万人分(年平均8300人)の雇用機会が発生すると見積もった。

 この額にはILCがもたらす産業界への影響は含まれていない。事務局の東北経済連合会産業経済グループの有原常裕部長は「これでもかなり控えめ」と話す。

 同協議会はILC候補地の北上山地(岩手県奥州市)を核に国際研究機関、産業集積地域を形成し、中長期的には仙台市や盛岡市、さらに被災地など周辺都市へも波及する「イノベーション・コリドー(回廊)」を整備する構想を描いた。

 最先端の研究成果を関連産業に落とし込み、先端技術・産業の発信地としての「東北ブランド」を確立。医学や超伝導、新光学素子、先端素材で新産業を興す一方、建設やメンテナンス、機械加工、制御など加速器関連産業の技術革新を引き出す。有原部長は「この成果をアジアにも波及させ、成長センターとして東北、日本の再生に貢献したい」と意気込む。

 課題は実行力だ。東北大学大学院理学研究科素粒子実験研究室の山本均教授は「研究面での成果はすでに保証されている。さらに地質としても申し分ない」と断言する一方、「何もしなければ産業・地域への波及効果はない。夢だけではダメだ」と話す。

 成功の条件は「海外研究者の生活環境の整備と、世界中の技術が東北に集まる千載一遇のチャンスを生かそうとする貪欲さ」(山本教授)。そのために国際水準の教育体制などを整えて、研究者と家族にとって理想的な環境をつくること。さらに産業界も受け身ではなく、積極的に成果を取り入れる体制を事前に整えることなどを挙げる。

 「ハードルは高い。だが真の国際学術・産業都市を形成できれば、得られる成果は想像以上だ」(同)と太鼓判を押す。誘致する岩手県、地元自治体などは波及効果を最大化できる新しい都市像を懸命に模索中だ。

 山本教授は「作り込めばバラ色の未来が待っている」ときっぱり。策定した“未来予想図”をいかに実行するのか、東北の本気度が問われている。(仙台・千田恒弥)

 【九州・脊振山地/産学官連携し気運上昇】

 九州でのILC実現に向けた活動の中心は07年に発足した先端基礎科学次世代加速器研究会(小柴昌俊会長=東京大学特別栄誉教授)だ。候補地の福岡、佐賀両県や九州大学、佐賀大学、九州経済連合会(九経連)が中心となって産学官体制を整え、活動をけん引する。また九州全域にとどまらず山口県や沖縄県も会員とした広域連携体制にも発展した。

 予想される経済波及効果は着工から8年間累計で1兆1000億円。経済界は「大きな経済効果がある」(九経連企画調査部)と期待する。産業ではILCに欠かせない測定のほか、がん治療などの医療、新素材、情報通信などの分野への進展が想定されている。

 九州は候補地が比較的都市に近く、候補地を囲む交通や生活のインフラが既に整っているのが売り。「世界中から来る研究者への対応が既にできることが強み」(福岡県商工部新産業・技術振興課)と自信をみせる。

 研究会が12年3月にまとめた国際研究都市構想「サイエンスフロンティア九州構想」では外国人対応の教育、医療機関の集積や国際会議への対応力、アジア主要都市との交通ネットワークなどを挙げ、研究の円滑な実施に必要な社会的条件を満たしているとする。

 研究会は最近、一般の理解も広めようと30人程度で専門家の話を聞き意見交換も行う「サイエンスカフェ」を定期的に実施。12年10月には200人を超すシンポジウムを開いた。今後は産業界に向け具体的に企業とどうかかわる可能性があるか分かりやすい説明に力を入れていく方針だ。

 また地元経済界との連携も拡充する。そのために「どのような組織で取り組むかを含めて経済団体などと協議を進めている」(同)という。

 先端技術の産業化に欠かせない研究機関でも準備が進む。九州大学は12年10月に先端素粒子物理研究センターを開設。素粒子物理学を研究、教育する国際拠点の形成に乗り出した。センターは理学研究院を母体とする大学全体の共同施設。ILC計画の推進も重要な役割だ。

 センターは3部門で構成するが計画に最も関係するのが実験推進部門。現在のセンター人員19人のうち14人を占めており、物理だけでなく土木建築や経済の研究者も所属している。土木建築分野は建設に、経済分野は都市構想の推進にそれぞれかかわるからだ。

 センターには経営者グループなどから話を聞かせてほしいとの依頼が増えている。川越清以センター長は「ILCへの理解が着実に広がってる」と手応えを感じている。(西部・関広樹)


【2013年1月4日 日刊工業新聞社】