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透視図/呼び戻せ外国人観光客−富裕層サービス売り込み

 東日本大震災で急速に落ち込んだ観光需要が復活しつつある。震災後に全国に広がった自粛ムードもしぼみ、観光地に人が戻ってきた。ただ訪日外国人の客足は遠のいたまま。観光地が震災前の活況を取り戻すには外国人観光客の回復が欠かせない。外国人の減少に悩む観光地の状況と、誘客に向けた取り組みを追った。(江刈内雅史)

 【希望の光】

 新千歳空港から南西に特急列車で約30分、車で約40分の距離にある北海道白老町。かつてアイヌ民族のコタン(大集落)が存在したこの地には、その文化を今に伝える「アイヌ民族博物館」が居を構える。アイヌの風俗に触れられ、ムックリ(アイヌの楽器)の制作や演奏、伝統料理や古式舞踊などの体験もできるこの施設には、2009年に約20万人の観光客が訪れた。近年は海外からの来館者も増え、客の3―4割は外国人だ。

 その状況が震災後に一変。「今年は海外のお客さんの動きが鈍いので、昨年より非常に厳しい」と岡田恵介アイヌ民族博物館事業普及係長は嘆く。外国人客がほとんど消え、目下の客足は前年に比べ3割ほど少ない。

 今後は施設や体験型のプログラムを充実させ、来館者を毎年1―2割ずつ増やしていく計画だが、目標達成には外国人客の回復が欠かせない。

 最近は「ようやくアジア圏からのお客さんが動きだした」(岡田係長)と希望の光も見える。7月15日には北海道の玄関口である新千歳空港が旅客ターミナルビルをリニューアルオープン。温泉施設や映画館を設けるなど商業施設を大幅に拡充した。これに合わせ同日に韓国の格安旅行会社(LCC)のジンエアーが仁川―新千歳を定期就航させている。すでに同空港に路線を持つ大韓航空やイースター航空は7月に入って増便し、韓国からの観光客の増加に期待がかかる。

 白老町の近くにあり、北海道有数の温泉街で知られる登別市と洞爺湖町。ここでも外国人客が姿を消した。震災後は二つの街を合わせ「6月までに6万人の宿泊者のキャンセルがあり、かなり痛手を受けた」(小笠原春一登別市長)という。

 温泉を軸にした観光業が主産業のこれらの街にとって、外国人の激減は街の浮沈にかかわる問題だ。この事態に登別市などは5月に台湾の航空会社や旅行代理店を招待し、街の安全と安心をPRした。その結果「1カ月ほどの間に台湾からの客が増えだした」(同)という。小笠原市長は今週に台湾のほか、韓国にも訪れ、安全ぶりをさらに宣伝する予定だ。

 【完全回復遠く】

 JTBが日本人の今年の夏休み(7月15日―8月31日)の旅行動向を調べたところ、今夏に「旅行に行く」と回答した人の比率は、過去5年間で最も高かった昨夏の次に高い15.8%に上った。同社はJTBグループの販売状況や航空会社の予約状況などから11年夏の国内旅行者数を約7230万人と推計。昨年実績比2.7%減と旅行者数が多かった昨年よりは低いが、リーマン・ショック後の不況が響いた09年夏よりは1.4%上回ると予想している。

 自粛ムードでなえていた日本人の旅行意欲が持ち直す一方、訪日外国人客が戻るにはまだ時間がかかりそうだ。日本政府観光局(JNTO)の調査では、6月の訪日外国人数は前年同月比36.0%減の43万3100人。同62.5%減だった4月を底に、減少幅は縮小しているが、完全回復には遠い。福島第一原子力発電所事故が収束しておらず、「旅行の前提となる安全・安心に対する懸念が残っている」(JNTO)ことが尾を引く。

 放射線の被ばくリスクは立地周辺地域を除いてほぼ解消していても、外国人には日本全体に危険なイメージが根強く残っているのが実情だ。その足を日本に向かせるには、訪日意欲をより促進させる施策が必要だ。

 【マルチビザ発給】

 藤田観光が運営する「フォーシーズンズホテル椿山荘 東京」(東京都文京区)では中国人の富裕層を狙った「プライベート スタイリスト サービス」を始めた。テレビや雑誌で活躍しているスタイリストが服飾のコーディネートをしたり、買い物に同行して、希望の店で助言をしたりする。サービス料金は通訳代や車代を含め8時間で30万円からだ。

 日本人だとたじろぎそうな金額でも「日本のファッションへの憧れが強い中国人富裕層には需要がある」(藤田観光)と見込む。「高級なサービスを展開することで日本が元気であることを発信し、より下の層のお客も日本に呼び込む」(同)という腹づもりだ。

 今月から中国人の個人観光客向けの数次査証(マルチビザ)の発給が始まった。これを持つ中国人は3年間の有効期間内なら何度でも来日できる。初回訪問時に沖縄県内で1泊することが条件だが、出入国はすべての都道府県で可能だ。沖縄への訪問客が増えるのはもちろん、東京や京都、北海道など他の人気観光地も周遊する中国人の増加も期待される。こうした環境整備を足がかりに、外国人に魅力や安心をどう訴求していくか、観光地が活況を取り戻すカギとなりそうだ。


【2011年7月26日 日刊工業新聞社】