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産業観光で地域おこし(上)〈西日本編〉大人のための趣向満載

 例年以上に厳しかった残暑も緩み、いよいよ秋の観光シーズンを迎えた。この秋は果実狩りや紅葉狩りなど定番とは少し離れ、産業観光を楽しんではいかがだろうか。最近は全国の自治体や地元産業団体が地域おこしも兼ね、工場や鉱山、道路など産業施設を観光資源にして、旅行客を集めようという動きも活発になっている。その土地独特のユニークなツアーも企画されており、これまで抱いていた産業のイメージとは違った側面を体感できるはずだ。

【軍艦島】
 長崎市の沖合にある軍艦島(正式名称=端島)のクルーズ観光が人気だ。海底炭坑の島として栄えた島には最盛期5000人が暮らし、人口密度は東京都の9倍に達したという。朽ち果てた高層ビル群は今なお残っており、見る者を引きつける。

 1974年以降、無人島だった軍艦島だが、「廃虚ブーム」や産業観光への関心の高まりから、観光資源として活用する案が浮上した。長崎市などは07年度から総額1億9000万円をかけ、着岸時の桟橋や見学通路など施設整備を進め、09年春に一般市民の上陸を解禁した。

 上陸解禁に合わせ、クルーズ船が運航されることとなり、5社が営業を始めた。そのうちの1社、やまさ海運(長崎市)は1年間で約5万2000人の輸送実績を残した。今後は修学旅行生らを対象とした教育旅行専門ガイドの養成のほか、オリジナルグッズ製作などにも乗り出す考えだ。伊達昌宏社長は「より付加価値の高い軍艦島観光を提供したい」と話している。(西部・宗健一郎)

【別子銅山・東平地区】
 愛媛県の観光地と言えば道後温泉が有名。しかし、最近は新居浜市にある別子銅山の産業遺産群の一角にある「東平(とうなる)」が人気を集めている。

 別子銅山は約280年にわたって採鉱され、1690年後半には世界最大の産出量を誇った。東平地区は1916年に採鉱本部が置かれ、最盛期には学校や病院、映画館、郵便局などがあり、鉱山関係者約3800人が住んでいた。

 現在は森林に囲まれ、貯鉱庫跡や第三通洞跡などが当時をしのばせ、その姿はペルーの空中都市、インカ遺跡「マチュピチュ」を思い浮かべる。そこで09年から「東洋のマチュピチュ」として売り出すと、一挙に注目度が高まった。また、高速道路や本州四国連絡橋の休日料金1000円も追い風になり、中国地方の日帰り旅行客や関西からのツアー客が増えている。

 東平地区には東平歴史資料館があり、鉱山の町として栄えた東平の歴史や生活の様子をパネルなどで分かりやすく紹介。全盛期の町並みをジオラマで再現している。(松山支局長・香西貴之)

【中小工場見学】
 中小企業の町、大阪府東大阪市では"モノづくり観光"が人気を集めている。金属加工や部品製造などを手がける中小企業の工場を訪ね、製造業の現場を直接見学できる。東大阪"モノづくり観光"活性化プロジェクト協議会に参加するアオキやハードロック工業、上田合金など中小企業36社が工場見学に協力。中小企業経営者の生の声を聞くことができ、部品加工や金属研磨作業なども体験できる。

 08年に始まってから、特に修学旅行での人気が高い。同協議会には全国の小、中、高校から問い合わせが寄せられており、10年度は20校以上を受け入れる予定だ。

 JTB西日本(大阪市中央区)も4月から東大阪のモノづくり観光を商品化。一般の団体も利用できる。すでに学校、企業、自治体などから計800人以上の申し込みを受けている。(東大阪・錦織承平)

【市内有力企業周遊】
 広島県府中市では、府中商工会議所が中心となって産業観光を振興している。毎年8―9月には工場見学やモノづくり体験などを組み合わせた親子向け、大人向けの各ツアーを会議所が主催。また、見学受け入れ企業との調整や一般の観光、飲食などを含めたツアー立案の相談を受けている。

 市内にある鋳物や工作機械、家具、作業服、スニーカー、味噌(みそ)など、多岐にわたる工場を周遊できるのがセールスポイント。09年度は160件3000人が同市を訪れた。 府中は律令(りつりょう)時代に備後国府が置かれていたという歴史ある町。婚礼家具の産地として全国的に知られるほか、リョービ、北川鉄工所などの上場企業、無線操縦ヘリでシェアトップのヒロボーをはじめとする、さまざまな分野の中小製造業者が集まった産業の町でもある。

 04年、会議所は乏しい観光資源の中で町に人を呼び込もうと、地場産業に着目。企業に呼びかけ、モノづくり体験ツアーや工場見学ツアーを観光の目玉にした。現在は主催ツアーの参加者の年齢構成や男女比率などを詳細に分析し、観光のさらなる充実を図っている。最近は地元産業界の出資で飲食店併設の複合施設にリニューアルした老舗割烹旅館「恋しき」(宿泊は不可)などが人気だ。(福山支局長・森野学彦)

【ストーリー性ツアー】
 山口県の宇部、美祢、山陽小野田の3市が共同展開する産業観光では、化学など素材型の工場を訪れるバスツアーが人気だ。石炭、セメントなどツアーごとに「ストーリー性を持たせている」(宇部観光コンベンション協会)という大人向けの構成が好評の要因だ。

 一番人気は石灰石鉱山とセメント工場間の約28キロメートルを結ぶ、宇部興産専用道路の走行体験が組み込まれたツアー。今年度は合計10回開催する。

 「これといった観光資源がない」(同)ことが企画の出発点。07年度の事業開始後、ツアー構成の改善や企業OBの説明員採用など手を加え、09年度は一般募集と受注型合わせて約50回開催、合計1100人超の参加者を集めた。

 事業開始当初から補助金などをあてにせず、産業観光だけで収益確保を目標としてきた。参加者数は年々増加しており、これまでのところ事業としての計画もクリアできているようだ。(北九州支局長・大櫛茂成)

【伝統にふれる】
 堺市は刃物や線香など市の伝統産業に触れることができる観光ルートの整備に力を入れている。特に堺刃物伝統産業会館(堺HAMONOミュージアム、堺市堺区)は、主力観光スポットの一つ。包丁やはさみなどの展示・販売を通じ「堺打刃物」のPRに取り組んでいる。他にも刃物を研ぐ体験教室を開設。見学者から好評を得ているという。

 線香製造も堺の有力な伝統産業として、老舗企業が本社を構えている。そこで、堺刃物伝統産業会館などで線香作りの体験教室を実施し、認知度アップや土産品の販促につなげる。また、金太郎がまたがったデザインを特徴とする「堺五月鯉のぼり」の工房も紹介、観光客誘致による産業振興に努めている。

 今後は湾岸部に集積しているエネルギー関連や先端技術を持つ企業の工場見学を盛り込む。堺市では今年度中をめどに、最先端と伝統の双方の産業を紹介できるモデルツアーを構築し、中国など海外の観光客の誘致にも取り組む。(南大阪支局長・梶田良一)


【2010年9月23日 日刊工業新聞社】