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地域資源活用チャンネル

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未来を築く地域発イノベーション/つくばエクスプレス沿線

 研究機関が集積するつくばと東京都心を結ぶ鉄道、つくばエクスプレス(TX、秋葉原―つくば間、58.3キロ)沿線で起業や新産業創出を支援する動きが活発になっている。2005年に開業したTX沿線に立地する企業、研究機関などの連携を進め、産業振興につなげようという試みだ。鉄道開業を生かして、広域に分散していた企業や研究機関の集積を有機的に結びつける仕組みは類がなく、今後の成果に期待が膨らんでいる。(千葉・斎藤正人)

 東葛川口つくば(TX沿線)地域新産業創出推進ネットワーク(TKTネット)は千葉県と埼玉県、茨城県などの企業約500社と大学・公的研究機関、自治体、金融機関が形成している。経済産業省が推進する「産業クラスター計画」に基づき00年に発足した。千葉県の総合産業支援施設「東葛テクノプラザ」(千葉県柏市)が中心的な運営組織となり、会員企業の新事業、新産業の創出を支援することで地域の産業振興を図っている。

 TKTネットの対象地域は柏市など千葉県北西部の8市(東葛地域)と船橋市、埼玉県の川口市など7市、茨城県つくば市、TX沿線地域の東京都千代田区、荒川区など。TX開業以来、交通の便が格段に良くなったこともあり企業間の行き来は活発だ。「東葛テクノプラザの貸研究室にもつくば市や東京都内から入居する企業が増えている」(山本修一東葛テクノプラザ所長)という。

 東葛地域や船橋市、川口地域には、もともと高度経済成長に伴う住工混在問題を避けて都内などから移ってきた製造業が多く集積している。これらの企業が持つ産業の基盤的な技術に、つくば市や柏市などに集積する先進的研究機関の研究シーズを加えて、高度なイノベーションを生み出す狙いだ。重点分野は、切削や研削、プレスなどの基盤的技術に加えて表面改質、センシング・計測技術、理化学機器の開発など。将来的にはロボットや燃料電池分野へ進出するクラスター形成を目指す。

 TKTネットが行っている会員企業の支援は(1)出会いの場の創出(2)事業化サポート(3)情報提供(4)販路開拓(5)人材確保・育成―がある。東葛テクノプラザや川口商工会議所、つくば研究支援センターといった各地域の拠点組織の事業と重複している部分はあるが「ネットワークでできることはネットワークでやる。分野で絞る方が効果的」(山本所長)という。

 一方、TX沿線に着目した民間の動きもある。09年11月、元コンパック日本法人社長の村井勝氏が、事業化創造支援組織としてTXアントレプレナーパートナーズ(柏市)を設立した。村井代表は「TX沿線には起業を可能にする施設、人材などがそろっている」と話す。TKTネットや東葛テクノプラザなど公的な組織、施設などとも連携しながら、起業支援を進める考えだ。

【事例】

 09年7月、TKTネットの参加企業を中心とする研究体が、関東経済産業局が公募した「地域イノベーション創出研究開発事業」に応募し、採択を受けた。同研究体が取り組むテーマは「リアルタイム発生ガス分析システムの開発」。

 東葛テクノプラザ(千葉県産業振興センター)がコーディネーターとなり、システム開発ではTKTネット参加企業のツルイ化学(神戸市兵庫区)とパーク(千葉県浦安市)が連携。このほか産業技術総合研究所と神奈川大学、キヤノンアネルバテクニクス(川崎市麻生区)が研究体に加わっている。

 研究体ができたきっかけは、08年に東京へと進出したツルイ化学が、関東の企業との関係を深めようとTKTネットに参加したこと。同年にTKTネットが開催したMOT(技術経営)実践講座にツルイ化学の三島有二主事が参加し、パークの中妻卓史社長と意気投合。

 もともとツルイ化学は産総研などとリアルタイム発生ガス分析システムの研究に取り組んでいたことから、パークのソフトウエア開発技術を生かして一層の高性能化に取り組むことにした。

 ツルイ化学は関東に実験場所を持たないため、東葛テクノプラザが施設内の一角をラボとして提供。

 今年3月にも試作機を完成、4月以降はテストや顧客の声を反映した用途開発を進め、実用化を目指す計画だ。

【東葛テクノプラザ所長・山本修一氏に聞く】

 TKTネットの中心的な運営組織である東葛テクノプラザの山本修一所長に、取り組みの成果や今後の計画について聞いた。

―約500社という多くの会員企業をTKTネットに引きつけておく仕掛けは何ですか。

 「中心的なメンバーの東葛テクノプラザと川口商工会議所、つくば研究支援センターがそれぞれの地域の会員企業の声を吸い上げながら、連絡会議で話し合い事業計画を策定することでニーズに合った多様な支援をしている。例えば大企業と中小企業とのマッチングではあえて大企業側を1社に絞ったり、理化学機器を製造する17社が集まった『先端理化学機器開発隊』をネットワークの"売り"としてさまざまな研究会や大学に持っていったり。試行錯誤しながら内容を少しずつ変えてきている」

―具体的な成果は。

 「定量的な成果をつかむのは難しいが、TKTネットが開催したイベントや研究会の中で出会った企業同士が、経済産業省や文部科学省が募集している競争的資金に共同で応募する事例なども出てきている」

―10年度の計画は。

 「この不況下でも研究開発に熱心な企業は多い。国による事業見直しで不透明感はあるが、今年度効果のあった取り組みを中心に新しいアイデアを取り入れ、会員企業の支援を継続していきたいと考えている」


【2010年1月27日 日刊工業新聞社】