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時流読流/観光庁、問われる手腕

 昨秋からの世界同時不況によりそれまで堅調だった訪日外国人客数が激減している。時期を同じくして発足した観光庁は09年が通年稼働を始める事実上の元年。政府は観光を景気低迷打開策の重点テーマの一つに“指名”しテコ入れする方針で、目まぐるしく変わる経済環境の中「訪日外国人客の増加」「日本人海外旅行客の増加」を軸に早くもその手腕が試される。(大島直之)

 先ごろ日本政府観光局(JNTO)が発表した2月の訪日外国人旅行者数は旅行関係者に大きな衝撃を与えた。前年同月比41・3%減の40万8800人。これは大阪万博の反動で減少した71年8月(前年同月比41・8%減)に次ぎ、統計調査開始の1961年以降で2番目の減少率となる。世界の主要12カ国・地域すべての訪日客が減少。ウォン安が続く韓国の54・5%減をはじめ旧正月が影響する中国、台湾、香港もそれぞれ25・9%、48・0%、60・4%といずれも大きな落ち込みだ。

 政府は訪日外国人旅行者数を2010年までに1000万人、2020年までに2000万人に増やす目標を掲げている。ただ、ここ数年はアジアを中心に堅調な伸びだったが昨秋からの世界同時不況で楽観ムードは一気に吹っ飛んだ。08年の訪日客数は835万人で前年比で0・1%増。一見横ばいに見えるが前半の6月時点で10・0%増で推移したことを考えれば後半の失速ぶりが分かる。

 これに対し政府の経済財政諮問会議では観光を経済活性化の重点テーマと定め新たな策を打ち出す。中でも起爆剤と期待されるのが中国に対する訪日ビザ取得の緩和だ。

 観光客に対するビザ免除恒久化は香港(04年4月)、台湾(05年9月)、韓国(06年3月)と各国・地域で適用し訪日客増加となって表れている。中国は04年から団体客であることを条件に段階的に緩和してきたがまだ他国に比べて厳しい。このため現在義務付けられている添乗員2人の同行を撤廃し、代わりに保証金を用意させるなどの方向で年内実現を目指し検討する。

 従来、外務省や法務省、警察庁は「不法滞在者が増える恐れがある」とビザの緩和には慎重な姿勢だが実現すれば訪日客の増加の特効薬となるのは必至だ。

 【民間からノウハウを】
取り組みには旅行業を中心に民間会社の商品やノウハウをうまく活用することも有効だ。旅行会社側も少子高齢化による市場縮小を見込み、訪日外国人客向け事業を重点戦略に掲げ始めた。

 外国人旅行客が訪問する都心部、地方の比率はおよそ7対3。これまで東京、京都・大阪がほとんどで、訪問先を地方に拡大することでさらに日本の自然、文化をアピールし地域振興の底上げにつなげる狙いだ。

 すでに訪日外国人の顧客獲得に向けて商品拡充に取り組む旅行会社がある。訪日客向けツアーを約40年手がける老舗、JTBグローバルマーケティング&トラベル(東京都品川区)が展開する「サンライズツアー」は関東、関西のみだったツアー発着地を昨秋から地方にも拡大した。地方空港から入国した場合でもツアーに参加しやすくなることを受けて利用者が徐々に増えている。

 また、エイチ・アイ・エス子会社で同じく外国人向け旅行商品を扱うエイチ・アイ・エス・エクスペリエンスジャパン(東京都新宿区)は、昨秋から埼玉県と提携し埼玉県内の祭り、名所など観光資源を取り込んだツアー商品を販売している。東京と隣接する地理的優位性を生かして、訪日外国人客の“横取り”を狙う。

 旅行会社や地方自治体の訪日客の誘客は今後も過熱すると見られる。航空、鉄道などの公共交通機関も参加することで地域資源を発掘し、さらに魅力的な旅行商品の提供が期待できる。

 【日本人も海外旅行を】
一方で国際交流は双方向が有効との観点から、日本人の海外旅行客数(アウトバウンド)を増やそうとする動きもある。余暇の過ごし方の多様化により若年層の海外旅行客の減少傾向が続いている。「観光は相互交流こそ重要。人口比率からすればもっと日本人観光客が増えていいはず」(西松遙日本航空社長)という声もある。日本からの出国者減少に歯止めをかけることで海外と日本の交流が深まり訪日客の増加になるとの考えだ。

 08年の日本人海外旅行者数は1598万7000人。00年に1781万9000人と過去最高を記録したが、01年には9・11米国同時多発テロ、03年はイラク戦争、新型肺炎(SARS)騒動といったマイナス要因が相次ぎ、ここ数年は伸び悩む。

 昨年は燃油サーチャージの高騰で旅行市場全体が低調だった。近場で人気だった中国も毒入りギョーザによる食の安全への懸念、四川大地震と立て続けに問題が発生し、商機と期待した北京五輪もうまく顧客開拓には結び付かなかった。

 ここ数年でさらに課題となって浮かび上がるのが、若年層の出国者数の顕著な落ち込みだ。年齢層別人口に対する出国者の割合(出国者比率)を見ると、20―34歳は00年に22・8%だったが07年には19・2%に下落している。

 観光庁は09年度に現状分析をしながらまずは若年層が海外に関心を持つための施策を探ろうとしている。例えば海外修学旅行の実施拡大のための環境整備や若者向けの割引航空券の企画・販売要請を検討している。

 【旗振り役の機能発揮】
このような状況の中、今後観光庁に求められるのは対外的な窓口と同時に調整役としての役割だ。訪日外国人、地域観光資源のビジネス育成はそれぞれ複数官庁の所管にまたがる。農業、水産業、林業の農林水産省、環境・エコツーリズムの環境省、産業観光の経済産業省と各省の施策と密接にかかわる。さらにビザ発給の外務省、文化交流の文部科学省といった具合に複雑に入り組む案件が多い。観光庁には民間企業を巻き込み全体をまとめるコーディネート機能が重要になる。

 今回の世界同時不況は成長著しい新興国を巻き込んだことで、改めてグローバル経済の波の大きさを知らされた。それだけに国際競争力の維持・強化のため、今後も国際交流の活発化は避けられない。観光庁は国を挙げたこれら取り組みの旗振り役としてもさらに重要な役割を担うことになる。


【2009年4月6日 日刊工業新聞社】