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地域資源活用チャンネル

いきいき活用事例

山梨

伝統の絹に「物語」を織り込む

前田源商店・前田一郎取締役(左)と田辺織物・田辺丈人さん

前田源商店・前田一郎取締役(左)と田辺織物・田辺丈人さん

「幻の織物」を現在に

 光の当たり具合や眺める方向によって、1枚の薄手の布が赤紫色に、あるいは橙色にと表情を変える。触れると、さらりとしていながら柔らかさがある。甲斐絹(かいき)のこうした特徴は「先練り、無撚り」から生まれたものだ。「先練り」は織る前に生糸を精練する方法で、糸が柔らかくなる。糸にひねりを加えないと絹本来の風合いが保たれるが、まとまりにくくなる。このため「先練り、無撚り」の織物には熟練した技術と時間をかけた手作業とが求められる。

 甲斐絹のルーツは400年前に南蛮貿易で伝来した「海気(かいき)」と呼ばれる先染織物だ。光沢や感触が好まれ、甲斐絹は高級絹織物として江戸時代から昭和初期にかけて人気を集めた。しかし太平洋戦争勃発により生産量は激減。戦後、羽織などの和服を着る人が少なくなり、化学繊維が普及するにつれ甲斐絹は姿を消し「幻の織物」と呼ばれるようになった。織機や染色機の導入が進むに従い、熟練した手作業を必要とする甲斐絹を復刻するのはもはや困難と言われていた。

 伝統の続く郡内地域(山梨県東部)は今も織物産業が盛んである。実際に目に触れる機会は減っても、甲斐絹は郡内産織物のシンボルとして伝わり続けた。郡内で織物業を営む5社(現在は4社)が「幻の織物」の復活を目指して2002年に「甲斐絹座」を結成したのは、「地域の絹織物につながりを生み出したい」という思いからだったという。服、ネクタイ、座布団、傘などそれぞれの専門分野はまちまちだ。構想から8年かけて方向性を模索し、交流会や勉強会を重ねた。なかでも金沢在住のマーケティングプランナー・出島二郎氏との3年にわたる研究会で「ものづくりへの哲学」を学んだという。

地域性と歴史を感じさせる製品

 「復活」とは言え採算性などを考えると、手織りの甲斐絹をそのまま再現し工業的な生産ベースに乗せるのは無理がある。甲斐絹座代表を務める前田源商店の前田一郎取締役は、妥協したくない点として「山梨県内で工程が完成すること」をあげる。

 2006年春には甲府で育った蚕由来の生糸で傘や座布団、シャツなどの甲斐絹製品を試作。現在、国内では中国やブラジル産の生糸が主流となっており地元の素材を使うのは珍しいという。染色には富士山の湧水を用いている。硬度が高く塩素をあまり含んでいないため発色がよく、また微妙な色合いの再現に適しているという。富士山には古来より霊峰として信仰の対象となってきた背景もある。新しい図案は甲府のデザイナーに依頼する考えだ。

甲斐絹サンプル

甲斐絹サンプル

 現在の悩みは宣伝方法。山梨県富士工業技術センターでは、明治〜昭和期に生産された甲斐絹の見本を所蔵しており、ホームページ「甲斐絹ミュージアム」で公開している。しかしHPではデータや絵柄は伝えられても甲斐絹の肌触りや風合いまでは分からない。興味をもつ人が実際に生地に触れられるようなショップを設けるなど、「甲斐絹座の主体」と言えるものを作りたいという。2005年春にプレゼンテーション・ツールとして、パンフレットや柄・生地のサンプル、繭(まゆ)を収めた「甲斐絹BOX」を制作。眼や肌で甲斐絹やそのルーツを味わえるつくりになっている。

 量産が難しいなどの事情から、今は受注生産が中心。「時間はかかるかもしれないが、情熱をもって生地への思いを表現し、満足してもらえる製品を作りたい」と前田代表は語る。地域性や歴史、自然の恵みや伝えられてきた技など、商品が背負っている「物語」を伝えるのが目標だ。

【コメント】前田一郎代表・田辺丈人さん
納得して買ってもらえる「ものづくり」

甲斐絹で作られたネクタイやスカーフ

甲斐絹で作られたネクタイやスカーフ

 商品を高速道路のパーキングエリアで販売したことがある。しかし売れ行きは思わしくなく、「中途半端はよくない」と実感した。品質を落とし身近な「おみやげ」を目指すか高級路線を貫くか、どちらかに特化すべきだと思う。甲斐絹の場合は後者を選んだ。高級品だからこそコンサルティング・セールスにより良さを分かってもらい、納得して買ってもらわなければならない。実際のビジネスとしては販売会社を作るなどして、パッケージなどのデザインもしっかりやっていくべきと考えている。地元の人が身に付けられる商品を目指し、バッグやネクタイなどの試作も進めている。「ものの価値をきちんと理解している」層にアピールできる商品を作りたい。

 最初は世間に受け入れられなかったものが今では有名になっている例はたくさんある。既存の考えを追いかけるだけではいけない。

会社概要

団体名:甲斐絹座 事務局[(株)前田源商店]
住所:山梨県富士吉田市下吉田1503-4
業種:織物製造販売
電話:0555-23-2231
URL:http://www.kaikiza.com/(甲斐絹座)
http://www.fitc.pref.yamanashi.jp/index-museum.htm(甲斐絹ミュージアム)