HOME > 事業を広げる > 地域資源活用チャンネル

地域資源活用チャンネル

コラム

●零細・中小企業を地域資源に

 地域資源というと、特産物や伝統工芸、観光スポットなどを思い浮かべがちだが、東京都北区は区内に点在するモノづくりの零細・中小企業を地域資源ととらえている。また区内に集積する健康・医療・福祉関連の施設も地域資源と考え、この2つの地域資源のコラボレーションによって"健康・医療・福祉産業の一大集積地"という新たな地域資源をつくりだそうと取り組んでいる。

 東京23区のモノづくり中小企業集積地と言われて、すぐに思い浮かぶのは大田区である。確かに同区は機械加工を中心に優れた技術・技能を有する中小企業が集中し、製造品出荷額23区トップを誇る。だが、ほかでも都市化の中に溶け込み、地域の特性を活かして、がんばっているところも少なくない。その一つに北区がある。

 北区は明治の初期に日本の産業化のリーダーの一人である渋沢栄一の提案で、近代的工場のさきがけとなる製紙工場が稼動するなど、もともと有数の工業地域だった。ところが戦後、高度経済成長が始まると都市化が進み、多くの工場は隣接する埼玉、北関東や東北地方に移転していった。

 工場数は1966年をピークに減少し、現在は半分以下になった。製造品出荷額も大田区の40%程度だ。工場数のピークが大田区などに比べる早く来ただけに「残った企業は独自技術を持ち生産技術のレベルが高く、自らモノを創り出す開発型が多い」(北区産業振興課)という。戦前から、または戦争直後に都心からの移転や創業した企業が多く、数世代にわたって区内に住んで経営してきたため、地域への愛着の強い中小企業経営者が多いのも特徴だ。

 北区は区内に点在する零細・中小企業を「都市型モノづくり」と位置付け、その振興のため2005年度から早稲田大学産業経営研究所と連携して「未来を開くものづくり表彰」を実施している。意欲的な中小企業が地域社会活性化の基盤を形成するとの考えからだ。

 受賞企業をみると、狭いニッチ市場で高いシェアを持つ独自製品のメーカーやそこでしかできない技術を持つ機械加工業者などが多い。それぞれの足にやさしい靴を製造する企業やたくさんの障害者が戦力として働いている自動車部品メーカーなどもある。

 表彰にかかわっている早大商学学術院の鵜飼信一教授は「北区は機械加工が集積する大田区と違ったタイプ。中小企業のオヤジが開発に熱い思いをもち、なにより地域に溶け込んでいる」と評する。量産ではなく多品種少量生産で「技能と技術を磨いて生きるという小さなモノづくり企業の基本を堅持している」という。

 北区には健康・医療・福祉関連の施設も集積している。隣の板橋区と組んで2003年にKICCプロジェクト(北区・板橋区・クラスター・コミュニティー)を始めた。これら施設と開発型中小企業という2つの"地域資源"を結びつけようという試みだ。地元の信用金庫や研究機関、大学などの力を借り、異業種中小企業の連携で健康・医療・福祉産業の一大集積地を目指す。

 関連施設のニーズ調査などをもとに、すでに自動排泄処理機や転倒による骨折軽減用パンツなどを実用化した。また両区の中小企業の連携により、医療福祉機器デザインネットワークの構築や中層アパート用階段昇降機の開発など複数のプロジェクトが進行中だ。将来は「健康・医療・福祉産業に関することは北・板橋地区に行けばなんとかなる」と言われるようになることを目標としている。

 今年の中小企業白書は「"少数精鋭"の小規模企業は現場で培われた技術力・ノウハウなどの点で優れ、高い利益率を生み出している企業も少なからずある」としているが、これは北区にもあてはまる。また白書は「地域経済における中小企業の存在は大きく、その形態は多種多様である。小規模企業を含めた中小企業の活力を引き出すことで、地域経済の活性化につながる」と、地域における中小企業の役割の重要性を強調している。

 人口減少時代を迎え、大量生産で世界に製品を販売する企業は別として、多くの開発型中小企業にとっては、ニーズをこまめに取り入れた多品種少量生産が求められる。地域社会に根ざし、日常の安全・安心や便利さ、楽しさといった生活に密着したニーズに対応していくことが、中小企業の一つの方向性を示しているように見える。

 どのこの地域にもアイデアに富み、技術・技能に優れた中小企業は存在するだろう。これを地域資源として活用し、地域の活性化に結び付けようという試みは日本中で可能だ。また、それによって地域の中小企業が安定した経営を実現できれば、地域の雇用、税収などにも貢献する。こうした好循環を生み出すことが地域資源の活用ではないだろうか。

(日刊工業新聞社 山ア 和雄)