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地域資源活用チャンネル

コラム

●地域ブランドと物語(ストーリー)

 地域ブランドを育てるのは、われわれ利用者の役目かもしれない。食べ物なら、地産、無添加、鮮度に徹底してこだわってみる。町おこしなら、観光と暮らしが共存しているか、みやげ物店の勝手口から聞こえてくる生活の息づかいに、そっと耳を澄ましてみるのもよい。地域ブランドへの関心や理解を深め、贔屓のブランドをもてば、旅行や出張の楽しさも一味違ったものになるのではないか。

 鳥取市の鹿野町は、城下町の歴史が息づく家並みを町づくりに活かしている。NPO法人の「いんしゅう鹿野まちづくり協議会」が中心になり、古民家をコミュニティ活動の拠点施設として整備するなど、町をあげて魅力ある故郷づくりに取り組んできた。活動に参加する小林清さんに、拠点施設の一つである「夢こみち」を紹介してもらった。手ごろな価格で鹿野の家庭料理を味わえる、鳥取でも評判の食事処である。

鳥取市鹿野町。どこにでもある田舎の町並みだが、創意工夫で多くの観光客を呼ぶことができる

鳥取市鹿野町。どこにでもある田舎の町並みだが、創意工夫で多くの観光客を呼ぶことができる

 人気の「菅笠弁当」は、鹿野笠を逆さにし、盆の代わりに使うことから、その名が付いた。うどの新芽の天麩羅、しその葉の佃煮など心づくしの手料理が、菅笠に季節の彩りを添える。五穀米のご飯と汁物が付いて1,000円とはありがたい。お店の方が聞かせてくれる「物語」が美味しさを引き立てる。野菜は近所の畑で朝採れたものを使い、料理を盛る猪口や小鉢は町内の婦人たちが自宅から持ち寄ったものという。

 最近は団体客も増えているそうだが、40人を超えると満足なもてなしができなくなるため、お断りすることもあるとか。あくせくせず、欲張らないところが、鹿野流の町おこしなのだろう。郷里の鹿野をこよなく愛する小林さんは、「地元の良さを見失わないようにしたい」と話す。鹿野の良さは、初めて訪れた人も、お盆に里帰りしているような、懐かしい気分にさせてくれるところか。世界遺産の認定を受けたり、行列のできる店をつくったりするだけが地方の町おこしではない。穏やかな暮らしそのものが観光資源なのだと、実感させられる。

 「旅館経営は地域の特色をからめて物語をつくれるかどうかがカギ」と話すのは、長野県千曲市の上山田温泉で旅の宿「滝の湯」を経営する武井功さん。バブル崩壊で売り上げが落ち込んだ創業80年近くになる老舗旅館を、先代から引き継ぎ、上山田ならではの趣向を凝らしたもてなしと経費削減により、利益の出る体質に変えた。「手打ちそばなら、そば粉がどこの産地のもので、どんな水を使って打っているか。物語をつくり、そばと一緒に味わってもらう。旅館の裏山で採れた山菜も、物語があれば付加価値になります」(武井さん)。利用者の心を打つ「物語」とは、ブランド提供者の生き方を綴ったノンフィクションなのだろう。

 那覇空港のみやげ物店には、「紅いもタルト」の類似品がずらりと並ぶ。沖縄みやげの定番となった「紅いもタルト」は読谷村の村おこしから誕生。「紅いもタルト」の成功により、読谷村特産の紅いも生産量は3倍に増えた。開発元のお菓子のポルシェ(沖縄県中頭郡読谷村)では今年7月、「地産や無着色への信頼が損なわれかねない」(澤岻カズ子社長)と、販売差し止めを求め、類似品を販売する業者を提訴した。読谷村と苦心して書き上げてきた「物語」を守る闘いでもある。

 利用者が地域ブランドの「目利き」になり、郷里に愛着や責任をもって頑張る地域や企業には温かく、賞味期限を偽るなど人気にあぐらをかいているところには厳しく対応する。有権者のような心持ちで地域ブランドに接していけたらよい。

(日刊工業新聞社 岡田 直樹)