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第55回 最高峰の産業技術で次々に海外展開を実現[I.S.T]

2015年10月13日海外進出

社名の意味は、産業技術の最高峰

株式会社I.S.Tは、同社の代表取締役会長兼社長である阪根勇さんによって1983年にスタートした研究開発型メーカーである。社名のI.S.Tは、「Industrial Summit Technology」の頭文字を取ったものであり、「産業技術の最高峰を目指す」という意味が込められている。

この名の通り、同社の技術力は極めて高く、航空機や新幹線などで使われている不燃機能繊維、コピー機などに使われるトナー定着用耐熱チューブ、ステルス戦闘機の構造材や表面材に使用される耐熱樹脂など、優れた製品を数多く開発、製造している。特に、トナー定着用チューブは世界市場シェアNo.1を誇る。

世界シェアNo.1を誇るI.S.T社製の「ポリイミド・トナー定着チューブ」(写真左)、I.S.T社製のポリイミド樹脂「Pyre-M.L.」「SKYBOND」(写真中央)、I.S.T社製の不燃縫製糸「ISTFLONヤーン」(写真右)

世界シェアNo.1を誇るI.S.T社製の「ポリイミド・トナー定着チューブ」(写真左)、I.S.T社製のポリイミド樹脂「Pyre-M.L.」「SKYBOND」(写真中央)、I.S.T社製の不燃縫製糸「ISTFLONヤーン」(写真右)

アメリカのデュポン社との出会い

I.S.Tと海外との接点は、1985年、アメリカのデュポン(E.I.DuPont)社と、耐熱不燃複合繊維を共同開発したことに始まる。当時、I.S.Tは、ガラスやフッ素樹脂などを自社独自の技術で複合させた糸を開発し、その糸が、世田谷区で起こった地下通信ケーブル火災をきっかけに、ケーブル耐火カバー用の縫製糸として日本電信電話公社(現NTT)に採用されていた。阪根さんがI.S.Tを立ち上げてから、わずか2年後のことである。

デュポン社との共同開発は、この実績が認められての話だった。阪根さんは、この共同開発で、アラミド繊維とフッ素樹脂を複合化させた耐熱複合繊維の開発を成功させ、その後、この技術を基にシリコーンゴムとフッ素樹脂を複合化させ、大手OA機器メーカーの複写機用特殊ローラーを開発することとなる。
 このわずか2年間の実績は高く評価され、同社の技術開発力の高さは業界内で評判となった。その後、I.S.Tには、さまざまな技術開発の依頼が舞い込むようになったという。

I.S.Tは、その後も、OA機器関連のパーツに関する優れた開発を数多く成し遂げ続けてきたが、I.S.Tの事業に特に大きな影響を与えたのは、1991年の「トナー定着用ポリイミド・シームレスチューブ」の開発だった。ポリイミドは、スーパー・エンジニアリング・プラスチックと呼ばれ、高耐熱性、高絶縁性、低誘電率、そして高強度を併せ持つ超高機能樹脂である。これは、例えば、フレキシブル基板として、CD読み取りレンズと機体との接合部や、携帯電話の屈折部分などに広く使用されている。

このポリイミドを使用したトナー定着用チューブの開発が、プリンター・複写機の印刷技術を、さらに高速でかつ省電力な方向に進化させることを可能にしたのである。開発された本製品は、瞬く間に世界のデジタルプリンターの市場に普及し、I.S.T社製のトナー定着用チューブを搭載したモノクロ・レーザープリンターの世界市場シェアは一時期70%に迫る勢いだった。

高い研究開発力や技術力に対する自信と、それへの他社からの信頼の厚さ

その後もトナー定着用ポリイミドチューブの事業は拡大を続け、納入先からは更なる性能の向上やコストの削減を求められ、自社で原材料から手がける必要が出てきた。ちょうどその時、デュポン社が電線被覆用のポリイミド樹脂の事業売却を検討しているという話を聞きつけ、I.S.Tは1994年にM&Aというかたちでこの事業を受け継ぐことに成功した。

この結果、I.S.Tは、ポリイミド原料の開発から製造、販売までのノウハウや体制を手に入れることになった。I.S.Tは、アメリカ・ニュージャージー州に現地法人I.S.T(USA)を設立し、そこで、ポリイミド樹脂事業を始めることになった。I.S.T(USA)では、現在、ポリイミド樹脂の製造、海外市場の開拓、そして高分子材料の研究開発を行っている。

I.S.T USAの外観(ニュージャージー州のデュポン社パーリン工場内に設置されている)

I.S.T USAの外観(ニュージャージー州のデュポン社パーリン工場内に設置されている)

I.S.Tがデュポン社からポリイミド樹脂事業を受け継いだ話は、アメリカの他の企業にも知られることとなり、さらなる展開につながっていく。1996年、事業転換を図っていたモンサント(Monsanto)社が別のポリイミド樹脂事業のM&Aの話を持ちかけて来たのだった。

このポリイミド樹脂は、航空機のエンジンカバーや、B2ステルス爆撃機、F22ステルス戦闘機の機体などにも使われている耐熱コンポジット用のポリイミド樹脂である。
 I.S.Tは、このオファーを受け、モンサント社からもポリイミド樹脂事業を取得し、マサチューセッツ州に現地法人I.S.T(MA)を設立した(現在はニュージャージーに集約)。

さらに海外展開は続く

I.S.Tは上記の他にも、2005年、中国広東省の羊毛ニット糸製造工場を取得し、中山I.S.T有限公司を設立し、中国への展開も積極的に行っている。中山I.S.T有限公司は、香港やベトナムにも近いため地の利を活かし、I.S.Tの中国でのビジネスの拠点となっている。

中山I.S.T有限公司の外観(中国広東省)"

中山I.S.T有限公司の外観(中国広東省)

また、2012年には、繊維強化プラスチック(FRP)の量産体制を行う拠点として、中国浙江省に、寧波スーパーレジン有限公司を設立した。

I.S.Tの基礎にあるもの

他社からの事業を、友好的M&Aというかたちで受け継ぎ、次々に海外展開を実現してきたI.S.T。友好的M&Aは、海外企業のみならず国内企業とも数多く行っている。このようなことが実現できるのも、自社の高い開発力や技術力に対する自信と、それへの他社からの信頼の厚さが背景にあるためだろう。

創業者の阪根さんは、元々は国内大手メーカーで製品の開発に携わっていたが、独立して、現I.S.Tを創業した。大変、研究開発に熱心であるが、国内外の企業とM&Aを戦略的に実現させていくなど、研究者であると同時に優れた経営者でもあると言える。2014年、阪根さんは、経済産業省の推薦により旭日双光章を受章した。

また同社では常時、従業員の3分の1が研究開発に従事しているという。I.S.T がいかに研究開発を重視しているか、その真剣さがうかがえる。I.S.Tは、際立った研究開発型メーカーとして、今後も、世にまだ無い新製品を開発し、世に出し続けることを使命として、さらに成長していくだろう。

企業データ
企業名 株式会社I.S.T
代表者 代表取締役会長兼社長 阪根 勇
所在地 滋賀県大津市一里山5丁目13番13号
業種 不燃複合繊維、ポリイミド樹脂を軸とした機能性材料、OA機器用機能性部材などの研究開発および製造

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