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第50回 廃業の危機から脱した老舗のビジネス戦略[日吉屋]

2015年6月22日輸出

京都に160年の歴史を誇る老舗・和傘店がある。屋号は日吉屋。和傘といっても現代人にとって、歌舞伎などの古典芸能および茶席などの伝統文化以外に触れる機会はほとんどない。ゆえに老舗・日吉屋にもつい最近までその存続が危ぶまれる時期もあった。
 江戸時代には庶民の人気を博した和傘だが、時代が下り、昭和初期のピークを経るとその需要は激減した。当然、全国の多くの和傘製造者が廃業し、京都では日吉屋だけが製造・販売を続けていた。が、20世紀も終わりになると、いよいよ年商は160万円となり廃業するか否かの危機に陥った。
 そんなとき、和歌山県新宮市の公務員・西堀耕太郎さんが日吉屋に婿入りした。やがて西堀さんは伴侶の実家の家業に魅せられ、公務員を辞して京和傘職人の修業に入る。そして2004年、日吉屋の5代目当主に就き、それを機に経営危機から事業再興への転換が始まった。

老舗・日吉屋の京和傘。骨組みの美しさが和傘の特徴だ

老舗・日吉屋の京和傘。骨組みの美しさが和傘の特徴だ

伝統工芸品からオンリーワン商品へ転換

当主となって3年目の2006年、西堀さんは日吉屋の事業の舵を大きく切った。 それはある日のことだった。いつものとおり、和傘づくりの工程である天日干しをしていた西堀さんは、傘を通して目に映る灯り(陽光)の美しさに感動した。と同時に、これを活かし、和傘を照明へ応用できないかと思案した。そして、試行錯誤で独自の和傘型の照明器具をつくり、国内の展示会へ出展した。しかし、来場者は珍しそうに西堀さんの和傘型照明器具を眺めるものの、実際に置ける場所がないと製品としての評価は厳しいものばかりだった。
 そんな厳しい評価を機に西堀さんは、同展をきっかけに知り合った照明デザイナーと協力し、実用的な照明器具を共同開発。同年「古都里(kotori)」の商品名で発売にこぎつけた。和傘の特徴をふんだんに取り入れた照明器具というユニークな製品の誕生だった。
 「和傘を照明の傘として用いるうえでこだわったのは、和傘の骨組の美しさを見せること、および和傘の特徴である開閉機能を盛り込むことでした」(西堀さん)
 そうしたこだわりを表現した古都里(kotori)は、2007年にグッドデザイン賞中小企業庁長官特別賞を受賞するなどデザイン性、機能性が高く評価された。

和傘を照明器具にアレンジして誕生した独自商品「古都里(kotori)」

和傘を照明器具にアレンジして誕生した独自商品「古都里(kotori)」

その目は海外へ

和傘の新しい製品を企画・開発した西堀さんだが、これを国内だけで販売しても限度があると考えた。ただ、海外に目を向ければその可能性はグッと広がる。そう読んだ西堀さんは2008年、京都商工会議所が出展した「メゾン・エ・オブジェ」(パリ)に参加。さらに翌年はドイツの「アンビエンテ」「テンデス」、米・ニューヨークの「ICFF」、そして2010年は中国上海の「100%DesignShanhai2010」、2011年はイタリア「ミラノサローネ」と相次いで海外の展示会に出展した。その際、経済産業省の地域資源活用新事業展開支援事業やJAPANブランド育成支援事業の補助金を活用した。

海外の展示会を活用しながら市場を開拓していく日吉屋。現在15カ国で和傘型の照明器具を販売する

海外の展示会を活用しながら市場を開拓していく日吉屋。現在15カ国で和傘型の照明器具を販売する

数年にわたり海外での展示を繰り返すうち、西堀さんは海外のマーケットニーズを取り入れた新しい製品も開発した。それは、洋傘の素材であるスチールやプラスチック、ステンレスなどを用い、紙を張らずに和傘の骨組みの意匠を見せる可動式の照明器具であり、「MOTO」の商品名で2010年に発売した。
 この2つの照明器具を主に積極的に海外展開を図り、現在では世界15カ国で商業物件(BtoB)主体のビジネスを展開している。具体的には、インテリア系の代理店を介して建築会社などへの営業・販売に注力し、年商の約10%を海外で売り上げている。

洋傘の素材を用い、和傘の骨組みの意匠を見せる可動式照明器具「MOTO」

洋傘の素材を用い、和傘の骨組みの意匠を見せる可動式照明器具「MOTO」

現地のバイヤーを取り込むことが重要

2008年から海外へ販路を開拓してきた西堀さんは、海外進出のポイントとしてつぎの4つを挙げる。
(1)現地の生活で実際に使える商品である(消費者が欲しくなるデザイン・価格)
(2)オンリーワン商品か圧倒的なオリジナリティーをもつ商品
(3)現地の安全基準、規格に適合する
(4)適正価格、適正な掛率の商品である(代理店が扱えること)
そのうち(2)のオリジナリティーとは、非常にユニークで付加価値の高いことを意味し、そのユニークとは、意外性やギャップ、驚きのあることなどを指す。
 海外で売るには、オンリーワンか圧倒的オリジナリティーをもつ商品であることが重要であり、さらに商品の生い立ちとしてのバックグランドがあることも大切だと西堀さんは考える。
 また、海外市場を開拓するためには、商品開発段階から現地のバイヤーを取込むことも重要と西堀さんは力説する。海外市場の嗜好性や法的規制、値ごろ感がわかるからだ〔上述の4ポイントの(1)、(3)、(4)〕。
 実際、西堀さんも照明器具ビジネスを通してそれを実感してきた。そして、その経験をもとに2012年末にT.C.I研究所を設立した。その目的は、伝統工芸の海外進出をサポートすることにある。
 現在、数十社のクライアントを抱え、伝統産業品を海外展開するために、企画・開発から販路開拓・アフターフォローまでワンストップのアドバイザリー・サービスを提供している。

企業データ
企業名 株式会社日吉屋
代表者 西堀 耕太郎
所在地 京都市上京区寺之内通堀川東入ル百々町546
業種 京和傘、和風照明の製造・販売、ほか

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