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JAPANブランドで新市場に臨む 日本の感性はこうして生かされた


確かな製品力と充実したサポート体制がカギ-「屈折計」アタゴ
光の屈折を利用し糖度や濃度を測定する屈折計。アタゴ(東京都港区)は、同機械で国内80%、国外では30%以上のシェアをもつ。世界最小サイズの糖度計を開発するなど、確かな製品開発力に加え、世界中のメンテナンスセンターからスタッフを招いてトレーニングするなど、サポート体制の整備が同社の成長を可能にした。

世界ナンバーワン屈折計メーカー

1940年の自社ブランド確立以来、順調に成長を遂げてきたアタゴ(写真は、2011年に「グッドデザイン賞」を受賞した同社の埼玉・深谷工場)

1940年の自社ブランド確立以来、順調に成長を遂げてきたアタゴ(写真は、2011年に「グッドデザイン賞」を受賞した同社の埼玉・深谷工場)

屈折計とは光の屈折を利用し、糖度や濃度などを測定する機械だ。アタゴはこの屈折計で国内シェア80%、世界シェア30%以上を誇る世界ナンバーワンの企業だ。トップであり続けるには確かな理由があった。

創業者である雨宮喜平治氏は、就職した商社で計測器の組み立てや分解などを手がけていた。仕組みが分かるようになった後、自ら屈折計を開発。会社を設立し自社ブランドを立ち上げたのは1940年のことだった。

その後、手持屈折計や世界初のデジタル屈折計などを開発し、早くから海外への輸出も行ってきた。屈折計は、食品や飲料という比較的安定したマーケットで糖度計や濃度計として使われている。国の成長に伴い、食文化が豊かになると食のマーケットは拡大し、人々は次第に食の安全や品質に目が行くようになる。大きな収益や企業成長は見込めない分野ではあるが、細く長く無理なく成長できるということが経営にも有利に働き、アタゴは順調に成長を遂げた。

社運賭けたプロジェクトに挑戦

現社長の雨宮秀行氏が専務取締役に就任したのは2000年。社員へのコミュニケーション教育や社屋の改善などに積極的に取り組んでいた。その中、自社が参入していなかったマーケットに競合他社が進出してきた。自社のマーケティングの弱さを実感し急きょ、開発、営業、製造、メンテナンスの各部門からメンバーを選出、競合他社製品をしのぐ新製品を開発するプロジェクトが結成された。

プロジェクトでは、全員に参加意識を植えつける工夫をした。結果を見るたびに、手ごたえを感じるようになった(写真は同社が開発したポケット糖度計PAL-1)

プロジェクトでは、全員に参加意識を植えつける工夫をした。結果を見るたびに、手ごたえを感じるようになった(写真は同社が開発したポケット糖度計PAL-1)

秀行氏はまず「対抗する商品をつくるための期間は半年であること」と「商品コンセプトやサイズなど目指すべき製品像」をプロジェクトメンバーに伝えた。何をつくるのかを全員の頭の中に共通のイメージを持たせるのに2回の会議が必要だった。目指す製品は、折りたたみ式携帯電話と同じくらいのサイズの糖度計。完成すれば、世界最小サイズの糖度計となる。難易度の高い製品開発であり、非常に厳しいことであることは分かっていたが、社運を賭けた挑戦であったので妥協は許されなかった。

技術のメンバーが次々と開発提案してきた製品を突き返し、「できない理由を述べない」ことをルールにした。取り組んだことのないことであっても、「目指すべき製品をつくり上げるには、どうすればよいか」という議論を行い、会議ごとに次のアクションをメンバー全員で協議し決めた。イメージを共有したメンバーの話し合いで決めたことだから、取り組まざるを得ない。進ちょく管理もこまめに行った。PDCAサイクルで業務プロセスを管理することで、全員がプロジェクトの進み具合を意識することができた。

苦しい取り組みではあったが、結果をまとめるたびに手ごたえを感じることができ、メンバー全員が「できる」という確信を持てていた。プロジェクト以外のメンバーからも協力の申し出が相次いだ。秋口にプロジェクトを立ち上げ、年末年始も開発に没頭した。目指す製品は春先にようやく完成した。「『頑張ればできる、努力に対するリターンがある』ということを実感したときの笑顔は忘れられないものだ」と雨宮社長は振り返る。

人材育成面にも波及

競合他社に打ち勝つため全社が集中してプロジェクトに取り組んだことは、人材育成にもつながった。当時のプロジェクトメンバーは現在中堅社員となったが、「あのころの一体感を生かそう、スピリッツを受け継ごう」という姿勢で再度新たなプロジェクトに取り組むようになったという。当時の競合の出現がなかったら、アタゴは今の群を抜いた世界トップ企業にはなれなかっただろう。

「開発好きでものづくりにうるさく、一度決めたら考えや方針を一切曲げない」ことは勝利の方程式であると雨宮社長は考えているという。大手企業が参入するほどのマーケットもない上に大手では採算の取れない分野において、競合他社製品の性能をはるかに上回る製品を作るからこそ、アタゴは世界ナンバーワンのポジションを獲得することができた。

トップ自ら行う競合調査

世界の競業4社への訪問を行った雨宮秀行社長。競う相手を知り自社製品への自信を深めていった(写真は同社が開発した高精度デジタル屈折計RX-5000i)

世界の競業4社への訪問を行った雨宮秀行社長。競う相手を知り自社製品への自信を深めていった(写真は同社が開発した高精度デジタル屈折計RX-5000i)

秀行氏が専務に就任した時に行ったことはもう一つある。それは世界の競合4社への訪問だった。「ライバルがどんな会社でどんな経営をしているのか、どんな技術者がいるのか、どんな工場で製品を生みだしているのか」などがわかれば戦いやすい、と考えたからだ。競合他社にFAXを送り面談を申し込んだところ、4社が訪問を了承してくれた。

世界戦略上大きな武器であった小型デジタル機器を持参すると、ドイツの競合企業の社長からは「その商品を取り扱いたい」という申し出があった。雨宮専務は、その会社が屈折計の製造を中止することを取引の条件として提示した。一日考えさせてほしいと言われ、翌日改めて話をしたところ、交渉は不成立となった。すでに高いシェアを誇っていたこともあり、アタゴとしては非常に強気な条件であったが、「安価な類似製品を開発されたら困る」との考えから、屈折計製造中止を条件に提示したのだ。

海外のビジネスでは意見をはっきり主張しやすい。訪問先ではいろいろな話をし、視察もさせてもらえた。訪問したことで、競合相手を知ることができ、自社製品にも自信を持てたという。秀行氏は2006年に社長に就任した。

充実した製品サポート体制で差別化

アタゴは早くから業界のトップランナーであり、特に手持ち屈折計やデジタル製品の分野では群を抜いていたが、海外でも競争力の高い製品を早くから生産していた。それは、「小さく輸送しやすい、シンプルで売りやすい、使いやすくて壊れないためメンテナンスもあまり必要ない、取扱説明書も必要ない」という特徴を持った製品だ。

世界中のメンテナンスセンターからスタッフを招きトレーニングをする。サポート体制の整備がアタゴの強みになっている(写真は同社が開発した手持屈折計MASTER-53α)

世界中のメンテナンスセンターからスタッフを招きトレーニングをする。サポート体制の整備がアタゴの強みになっている(写真は同社が開発した手持屈折計MASTER-53α)

そのような製品であるにも関わらず、アタゴでは70-80カ所ある世界中のメンテナンスセンターからスタッフを招いて毎月トレーニングを行っている。世界中のユーザーからの問い合わせに対し、近くのメンテナンスセンターを紹介できる体制を整えているところはほとんどない。万一トラブルが生じた場合には製品を送り返してもらうほうが簡単であるが、アタゴではこのサポート体制を維持することに力を入れている。これはユーザーに対する一種の保険のような役割を果たしており、購買動機にもなる。

1回の研修は5-6日間で、シーズンによっては月数回開催することもある。研修では精密機械の原点を理解してもらうために、細かな点まで教える。光の屈折を応用し濃度を測定する屈折計は、時計のような精密な機械だ。精密機械のメンテナンストレーニングは、メンテナンスの精度に大きく関わる。研修に参加したスタッフは帰国後、他のスタッフに技術を伝える人材にもなる。スタッフを派遣する海外企業の負担は往復の交通費だけで、研修中に日本国内でかかる経費はアタゴが負担している。

研修期間中は、懇親パーティーの開催やアタゴの深谷工場(埼玉県深谷市)の見学、周辺観光なども行われる。研修に参加したことが良い思い出となり、業務へのモチベーションや、アタゴへのロイヤリティアップにつながると考えるためだ。「細かな配慮は日本人ならではのものであり、これはものづくりにも生きている」と秀行氏は語る。

トップ自らによる情報収集と市場開拓

秀行氏は年に数回海外に赴く。すでに100カ国を訪れた。代理店のみならず、食品メーカーや飲食店などのユーザーを訪問し、社長自ら生の声を細かくヒアリングし、日本の現場にフィードバックする。現場ではそれを元に製品の改善に着手する。

雨宮秀行社長自ら海外の現場を訪れる。生の声を吸い上げ製品開発に生かすほか、市場調査の意味合いもある

雨宮秀行社長自ら海外の現場を訪れる。生の声を吸い上げ製品開発に生かすほか、市場調査の意味合いもある

トップ自らがユーザーと会社との橋渡しの役割を担い現場に直接指示を出す。このスピードがアタゴの強さの一つだ。メイドインジャパンの製品は元々耐久性が高いことで知られているが、このような取り組みを繰り返すことで強みが際立つ。ユーザーだけでなく、現地の飲食店を利用し、マーケットを把握するようにも努めている。「トップ自らがユーザーを知らないのは致命傷だ」と秀行氏は断言する。

訪問するのは、すでにユーザーのいる国ばかりではない。未開拓の国も訪問し、展示会を視察し代理店を発掘する。最近訪れたのは、イラクやサウジアラビアなどの中東各国や北アフリカで、これらの国へは欧米の競合企業も進出していない。いくら世界シェアがトップであるといっても、その地位に胡坐(あぐら)をかいていては、競合企業に奪われてしまう。ロシアではこの5年間で売り上げが8倍となった。ロシア人も採用し、市場の開拓に積極的に取り組んだ結果だ。今はアラビア人も採用し、新たなマーケットの開拓を始めている。

秀行氏は、今は屈折計に頼らない経営を目指し新たな“人財”も採用、新たな分野を開拓しようとしている。既存の事業分野においても、内製化や部品調達コストの低減に取り組んでおり、その成果は業績にも顕著に表れているという。「何かにとらわれることのない自由な発想を持ち続けたい」という秀行氏は、変化を楽しむだけでなく、自ら変化をつくり出すことで会社を成長させ続ける。

企業データ
会社名 株式会社アタゴ
代表取締役社長 雨宮秀行
所在地 東京都港区芝公園2-6-3芝公園フロントタワー23階
業種 科学機器開発製造販売
掲載日:2014年1月24日


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