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2015年12月 3日

地元の果実にこだわる手づくりジャムで農業振興をサポート-瀬戸内ジャムズガーデン-

キーポイント
  • 原料の産地で起業する
  • 持続可能な農業を勘案した農産物の取引

瀬戸内の海上交通の要衝であり、万葉集にも詠まれた周防大島。現在の正式名称は屋代島だが、7世紀の周防国の大島であったことから今でもそう呼ばれる。
 その周防大島で地元の果実にこだわってジャム・マーマレードをつくるのが瀬戸内ジャムズガーデンだ。自称「ジャム屋」を名乗る代表取締役の松嶋匡史さんは、京都の出身ながら脱サラして2003年に瀬戸内ジャムズガーデンを創業した。そのきっかけは14年前にさかのぼる。

地元・周防大島の果実にこだわりジャム・マーマレードを手づくりする

地元・周防大島の果実にこだわりジャム・マーマレードを手づくりする

パリで専門店に圧倒される

2001年、松嶋さんは新婚旅行で訪れたパリで偶然立ち寄ったコンフィチュール(フランス語で「ジャム」のこと)の専門店に圧倒されてしまった。店内の壁一面に並べられた豊富な商品。しかも、それらのジャム・マーマレードは単品の果実でつくられたものでなく、バナナとラム酒、いちごとブラックベリーにピンクペッパーを混ぜたものなど、日本では発想しないような多様な原材料の組合せでつくられていた。
 「そうした創作ジャムがそれほど日本になかった頃でしたから、瓶に表示された原材料の豊富さにびっくりしました」
 当時の衝撃を松嶋さんは振り返る。そして、創作ジャムに魅せられた松嶋さんは自ら事業を起こす決意をした。そのため夫人を説き伏せて、ジャム工房で研修を受けるため夫婦で週末に長野県に通った。また、岐阜、長野、東京で評判のジャム店へ行っては製法や充填方法を教えてもらった。
 果実を下処理してから小さな鍋で煮込む。下処理の仕方、煮込むときの火加減・まぜ加減、味の付け方などを膨大な種類の果実を用いながら試行錯誤を繰り返し、独学でジャムづくりを習得していった。
 そんな修行を2年間積み、2003年に個人事業として瀬戸内ジャムズガーデンを起こした。まだ、サラリーマンとの2足のわらじだったが、夫人の郷里である山口県・周防大島のいちじくを原料に46瓶のジャムをつくった。第1号商品だった。余談ながら、柑橘類の皮を取り除いてつくるのがジャム、皮も含めたままつくるのがマーマレードだ。

果実の生産地で商品をつくる

周防大島は瀬戸内海の温暖な気候から、みかんやいよかんなどの柑橘類を中心に40種の果実が栽培される。松嶋さんは、地元の古刹で住職を務める岳父に門徒の農家を仲介してもらい、熟れ過ぎて市場に出荷できないいちじくを分けてもらって第1号商品を完成させた。そのジャムも1瓶(155グラム)650円とやや高い。岳父を介して卸した地元の道の駅も「売れるかな?」と懐疑的だったが、陳列してまたたく間に完売してしまった。
 翌2004年には周防大島に夏季限定のカフェをオープン。ジャムも販売した。さらに2007年には松嶋さんは会社を退職し、本格的に事業に専念することになった(2011年に法人化)。
 「当初は出身地の京都で町家を改装してジャム店を始めようと思ったのですが、最終的には妻の郷里である周防大島で開業しました」
 ジャムづくりで重要なのが原料の果実だが、それを京都のような都市部で常時入手しようとしても限度がある。しかし、農家の近くにいれば果実の出来栄えや生産状況などをつぶさに把握できる。産地(周防大島)の果実にこだわった手づくりのジャムという商品コンセプトには、その経営手法のほうが理に適っている。岳父の門徒である8軒の農家と契約を結び、松嶋さんは4人のスタッフと共にジャムづくりを始めた。

温暖な瀬戸内海を眺望する瀬戸内ジャムズガーデンのカフェ

温暖な瀬戸内海を眺望する瀬戸内ジャムズガーデンのカフェ

原料がもつ本来の味・香りにこだわる

果実は、生で食べる時期とジャム・マーマレードに加工して食べるのに適した時期とは必ずしも一致しない。松嶋さんは農家とのやり取りを繰り返すうちにそれを学んだ。例えばかぼすのマーマレードの場合、かぼすは収穫期の9月に摘み取らず、その後3カ月ほど樹上で完熟させ、酸味をまろやかにしてからマーマレードの原料にする。
 「かぼすは熟すと緑色から黄色になります。通常、黄色くなったかぼすは生食用として出荷できません。ところが、ジャムの原料にするなら、緑色では酸味が強すぎますが、黄色くなると酸味がまろやかになっておいしくできるのです」
 かぼすに限らず、松嶋さんはすべての原料(果実)がもつ本来の味・香りにこだわる。
 「果実そのものの味と香りを活かしたジャムづくりをしますので、同じ商品でもその年によって味が同じとは限らないのです。むしろ、微妙に異なる味が当店のジャム・マーマレードの特徴ともいえます」
 瀬戸内ジャムズガーデンのジャム・マーマレードは、香料・保存料などの添加物は基本的に使わず、糖度も日本のジャムの最低基準の40度に抑えている。また、原料の果実の味と香りを活かす製法にこだわる。このこだわりから生み出されるストーリー性が商品の付加価値を高めている。

農家の収益が上がるような取引を実施

創業以来、松嶋さんはすべての原料を地元農家との契約で仕入れ、彼らが栽培しない果実(ブルーベリーや杏など)は自ら生産している。現在、契約農家は52軒。果実の種類によって多少異なるが、生産の全量を買い取ったり、同社に卸された数量のすべてを買い上げるなど、農家の生産性と収益を尊重した契約を結んでいる。また、単価も市場価格の10倍で農家と取引きしているものもある。大切な原料の供給元である農家の生産意欲と農産物の付加価値を高め、維持するためだ。
 「なんでも安ければいいというものではありません。農家の利益が上がらなければ供給が途絶える危険性があり、ジャムづくりも持続できなくなってしまいます。フェアトレードがなにより重要だと思います」
 そうした活動も認められ、2015年の6次産業化優良事例表彰・農林水産大臣賞の栄に浴した。

地域ブランドを確立して広く訴求したい

現在、年間で150種以上の商品を揃え、毎年10種ほどの新商品を開発する。正社員・パートなど従業員は26人。新商品は30・40代の女性を中心に開発する。年商は7000万円。販路の内訳は、店舗40%、卸40%、通販20%で、卸先は地元と県内外のホテル・旅館、飲食店、食品小売、駅・空港の売店など約100店舗だ。
 今年の初めには生産量や種類を拡大するため工房を拡大して2倍の生産量を可能にした。とはいえ、すべてが手づくりのため生産者も増やさなければならない。
 「今年から営業も始めようと思っています」
 これまで営業活動は一切していなかったが、今後は生産量の拡大に対処するため、また、地域色を保持しながら地域ブランドを確立させるためにもさらに広い地域へと商品を訴求させていく。さらに将来的には、周防大島の観光需要を取り込むため、農村テーマパークを創設する構想も温めている。地域と農業の振興。「ジャム屋」の夢は果てしなく大きい。

企業データ
企業名 or 店名 株式会社瀬戸内ジャムズガーデン
代表者 松嶋匡史
所在地 山口県大島郡周防大島町日前331-8

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