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起業マニュアル

起業を思い立ったその瞬間から、実際の起業準備そして開業まで。
起業を目指す人のこんなときどうする?に応えます。
起業した後
リスクマネジメントの基礎

目次

企業を取り巻くリスクとは何か

リスクとは何か

 企業は、つねにさまざまなリスクにさらされています。たとえば、工場が火災で焼失したとします。これにより、企業の生産活動は停止し、操業停止の危機というリスクにさらされます。また、規制緩和や強化、消費者ニーズの多様化などの社会の動きそのものが、企業の利益に大きな影響を与えることもあります。すなわち、すべての企業は、どんなに業績が順調に推移しているとしても、つねに事業縮小や最悪の場合、倒産というリスクにさらされているのです。このように、

    「リスク」とは、損失の起こる不確実性のことをいいます。

 交通事故の発生を例にあげて考えてみましょう。ある交通事故は偶発的なもので、もし雨が降っていなかったら、あるいは体調不良でなかったら、起こらなかったかもしれません。体調不良という「損失生起要因(損失を起こす要因)」と雨が降っていたという「損失拡大要因(損失を大きくする要因)」によって、事故は引き起こされ、事故による損失(刑事上の責任、損害賠償、医療費など)を生むのです。こうしたリスクの発生するメカニズムを図示すると以下のようになります。

リスク発生のメカニズム

 つまり、「リスク」とは、損失の生起要因・拡大要因があれば損失を生じる可能性があり、しかも突発的に発生し、その大きさも甚大なものになりえる状態と理解することができます。

リスクの種類と企業の対応

 企業が直面するリスクには具体的にどのようなものがあるのでしょうか。一般的には、次の5つに分類できます。

(1)財産損失のリスク
 火災・爆発・地震・風災害(台風など)・盗難などによって、企業が所有している財産が損なわれるリスクのこと。

(2)収入減少のリスク
 企業の売り上げや利益が減少するリスクのこと。たとえば、取引先の倒産など。

(3)賠償責任のリスク
 企業が株主、従業員、消費者から賠償責任を問われるリスクのこと。たとえば、製造物責任や役員賠償責任を問われての訴訟など。

(4)人的損失のリスク
 経営者、重役、あるいはその他の従業員の死亡・事故・疾病・不健康・信用損失などのリスクのこと。

(5)ビジネスリスク
 新製品開発や海外進出などの営業戦略上のリスク、および株式投資・商品取引・為替相場・他社への融資などの資産運用上のリスクのこと。

 以上のように多種多様なリスクが企業を取り巻いています。しかし、これらのリスクに対して無防備で、次のような問題を抱えている企業もあります。

  • 安全に対する意識が欠如している
  • 安全に対する投資を軽視あるいは無視している
  • 安全を人的依存にすりかえている(注意をすれば事故は起こらないなど)
  • 天災による被害、損失は人間の責任の範囲外の出来事という認識が強い。しかし、実際には対策により被害、損失は防止、低減できる。天災は人災ととらえるべきである
  • 政治、経済、技術、社会の動きに連動した経営環境の変化におけるリスクが十分に評価、分析されていない
  • 企業に内在するリスクの予見と分析がなされていない

    <例> ・経営者の判断ミスにおけるリスク(新規事業進出、事業規模拡大の失敗など)
         ・特許侵害、訴訟問題による損失
         ・経営者、管理責任者の事故や病気による企業のリスクなど

 こうしたリスクにかかわる意識や対応の欠如は、ひとたびリスクが発生した際には、企業の存続すら危ういものにします。そういった事態を防ぐためにも、リスクマネジメントが求められてくるのです。

リスクマネジメントの考え方

 リスクマネジメントとは、

   企業経営上発生するリスクについて、
   最小のコストでこれを防止したり適切な処理を行い、
   損失や被害を最小限になるようにコントロールすることです。

 そして、リスクマネジメントの究極の目的は企業の倒産防止にあります。災害や事故あるいは突発的なリスクは現実のものとしていつ襲ってくるかわかりません。そのようなリスクを完全に掌握することは不可能です。しかし、いったんリスクが発生してしまうと、「計画した利益が見込めなくなる」「臨時の費用が発生し資金損失を生じる」「損害賠償などの損害の発生、物的・人的損失、信用の失墜」などその被害は計り知れないものがあるのです。
そこで、これらに対するリスクマネジメントでは、

  • リスクの発生そのものをできるだけ抑制する対策をとる
  • それとともに、リスクが発生した場合でも企業経営に影響を与えない方策をとる

ことが基本的な考え方となります。

  今日では、リスクマネジメントは経営管理のひとつとしてとらえられています。しかし、生産管理、販売管理、財務管理、労務管理などの経営管理は多くの企業で展開されているのに対して、リスクマネジメントについては少数の企業にとどまっているのが現状です。経営の安定化を考えれば、すべての企業にとって、こうした損失の極小化を図る管理も必要といえ、今後は、重要な経営管理手法として定着してくるでしょう。

リスクマネジメントの進め方

 リスクマネジメントは、次のような1~4のサイクルで行われます。

リスクマネジメントのプロセス

リスクの発見・確認

 まず、企業の内外に潜んでいるリスクの発見と確認を行います。これには、前述した損失発生原因となる「損失生起要因・拡大要因は何か」という観点から潜在リスクを洗い出します。その際には、

  • 固定観念や既成概念にとらわれない
  • 組織内外のあらゆる情報を活用する

といったことに注意を払います。
 リスクを発見する方法には次のものがあります。

(1)フローチャートによる方法
 生産工程や各業務プロセスの各段階をフローチャート化し、各過程でどのようなことが起こりうるかを検討する。

(2)チェックリストによる方法
 資産・負債・利益や生産・販売・財務・労務・法務・情報などのカテゴリーをカバーするチェックリストを作成し、潜在リスクを発見する。

(3)過去の損失記録による方法
 自社の過去の損失記録や他業界・他企業の損失実績といった経験データから現在のリスクを抽出する。

(4)実地調査による方法
 文書だけではわからない情報を実際に見ることで認識する方法。工場内の危険物の有無や配置場所の確認、防災装置などの検査などがこれにあたる。

(5)現場からの報告による方法
 第一線の担当者からリスクとなりそうなことを報告させ、情報収集する方法。

(6)各種情報源からリスクを確認する方法
 内部情報源(財務データ、契約書類)や外部情報源(実態調査表、専門機関紙、研究会など)など、既成の情報・データからリスクを確認する方法。

リスクの分析

 確認された潜在リスクを分析します。分析では、リスクの測定を行い測定値から影響度を評価します。リスクの測定では、

  • 損失の発生頻度はどれくらいか(事故発生件数や発生確率)
  • 損失の強度(損失額)の見込みはどのくらいになるか

という2つの数値を割り出します。この2つの測定値の組み合わせからリスクは次のようにA型~D型に分類でき、それぞれに合ったリスク処理を適用します。

リスクの分類

リスク処理の考え方

 A・C・D型のリスクは、各種リスク処理を通じて
 B型のリスクにシフトさせていくことが求められてきます。

リスクの処理

 リスク処理が必要なA・C・D型のようなリスクに対し、リスクコントロールとリスクファイナンスの2つの処理技術(ツール)からアプローチします。これらのツールを組み合わせ、最小のコストで最大のリスク処理効果を得るような方法を検討していきます。

リスク処理

(1)リスクコントロール(リスクの除去・軽減)
 リスクコントロールとは、発見・分析されたリスクを除去・軽減する対策を立てることです。事故発生前の対策に重点を置き、リスクをB型にできるだけ近づけようとする処理です。これには、リスクの「除去」と「軽減」があります。

a.リスクの除去
 リスクの除去とは、リスクの発生源になるヒト・モノ・カネ・情報とのかかわりを断つこと、つまり危険を伴う活動を停止・断念することです。
 たとえば、可燃性の商品を置かないことで火災による潜在的損失を除去することや、製薬会社が製造物責任リスクを回避するために、ある医薬品の製造・販売から撤退することなどがあげられます。これが新規事業からの撤退であればリスクは除去されますが、同時に利益獲得のチャンスも失うことになります。

b.リスクの軽減
 リスクの軽減は、損失の「予防」と「低減」の2つに分けることができます。

   ・損失の予防:損失の頻度を減少あるいは排除することを目的とする
            :損失発生原因に結びつく要因を減少させ、排除する
   <例>・地震や火災予防のために建物を耐震、耐火構造にする
        ・盗難予防のために入退室管理や戸締まりを厳重にする
        ・品質管理、安全管理、従業員の教育・訓練
        (人のモラルの低下から生まれる損失生起要因・拡大要因の低減)をする

   ・損失の低減:損失の強度を減少させることを目的とする
            :損失生起要因・拡大要因の危険状態の排除が対象となる
   <例>・スプリンクラー、自動火災警報装置の設置、消火設備の充実
        ・クレーム処理体制の整備(PL法や他の訴訟問題の防止策として)
        ・事故発生後の援助活動の策定

(2)リスクファイナンス(リスクの保有・移転)
 リスクファイナンスとは、リスクコントロールの努力にもかかわらず発生してしまったリスクに対して、経営活動への影響を防ぐため、最小のコストで最大の効果をあげようとする対策のことです。この主なものとして、リスクの「保有」と「移転」があります。

a.リスクの保有
 損失の発生に対し、自己の資金でそれを補填することです。積立金・引当金などの準備金の設定、利益の内部留保金などがあげられます。

b.リスクの移転
 自社の損害を他者にカバーしてもらう方法です。たとえば、各種保険、共済や基金といったものがあります。

リスク処理の成果の監視・評価

 リスク処理の実行に対して、最小のコストで最大のリスク回避という観点から、その成果を監視・評価します。もし、コストが予想以上に高い、あるいはリスク処理効果があがっていないなどの問題が発見されれば、リスク処理(リスクコントロールとリスクファイナンス)の方法を修正することになります。また、昨今のように経営環境の変化が著しく、つねに新しいリスクを背負わなければならない状況においては、リスクマネジメントのサイクルのなかで、新しいリスクに対処できる体制を見直していくことが必要です。

リスクマネジメントにおける留意点

 「リスクマネジメントの進め方」ではリスクマネジメントの展開の仕方を述べてきました。それでは、リスクマネジメントは、いつ、どのようなときに、どのような人が、それを進めていくことになるのでしょうか。以降では、5W1Hの視点でリスクマネジメントの留意点を説明します。

WHAT(目的は何か=目的の明確化)

 自社にとってリスクマネジメントを行う目的や必要性を明確にします。

WHEN(いつ行うか)

 リスクマネジメントの実行の時期は、必要に応じて、継続的に行うもの、定期的に行うもの、随時行うものなどがあります。
   <例>・随時行うものとして新規事業進出や事業拡大の実行
       ・定期的なものとして地震・火災の訓練

WHERE(どこの部署で行うか=組織体制)

 リスクマネジメントは全社的・統合的に取り組む必要があります。そのためには、次のような組織体制が望まれます。

  • 経営者がトップマネジメントの立場からリスクマネジメントに関与する
  • 総務・人事・経理・法務・生産などの各部門の責任の範囲内でリスクマネジメントを行う
  • 全社横断的なリスクマネジメントの部署またはプロジェクトを設置する。そこには強力な権限をもったリスクマネジャーを置く

WHICH(どちらを優先するか)

 安全性と必要コストのどちらを優先するかを検討します。一般的には、安全性を追求すればそれだけコストはかかり、軽視すれば損失額が膨らみます。そこで、予想損失額とコストの「均衡点」を割り出し、その分のコストをかけるリスクマネジメントが理想的です。

WHO(誰がやるのか)

 「リスクマネジメントは誰が実行するか」ということについては、推進の責任者である「リスクマネジャー」を中心に全社員が行います。場合によっては、経営者自身がリスクマネジャーとなりリスクマネジメントの推進役を果たします。また、コンサルタントなどの外部専門家のサポートも検討します。

HOW(どのように成功させるか)

 これまで述べてきたことのまとめになりますが、リスクマネジメントをどのように成功させるかは、

  • マネジメントサイクルのなかで正しい進め方・適切な手法で行う
  • トップダウンによる全社的なリスクマネジメントを行う

ということが必要になります。


最終内容確認 2013年10月

  • googleplus
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経営管理から決算書の作成まで

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