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起業マニュアル

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起業した後
既存顧客の深耕を図る

目次

なぜ既存顧客の深耕か

 市場を切り口として企業が売上高を拡大するための方策を考えると、大きく2つの方向性をあげることができます。ひとつは、新規顧客(市場)を開拓することであり、もうひとつは、既存顧客(市場)を深耕するという方法です。
  新規顧客の開拓は販売戦略上非常に重要な手段ですが、取引先になるまでには比較的長い時間を要するケースが多いでしょう。まずはアポイントメントをとるところからはじまり、自社の企業概要や商品の説明を行ったり取引条件を話し合ったりと、何度も通うことで十分な信頼関係を構築する必要があります。しかし、このように時間をかけたからといって実際の取引にまでつながらない場合も多々あります。
 一方、既存顧客(市場)の深耕は、すでに取引先との信頼関係が築かれているため新規開拓に比べて時間の面でもコストの面でも効率的な点が多く、積極的に取り組む価値のある経営課題であるといえます。
  新規顧客の開拓と既存顧客の深耕とでは、企業戦略上の特性はまったく異なります。この2つの方向性、つまり自社がターゲットとする顧客層を曖昧にしていては、いかに優れた販売アイデアを実行に移そうと、大きな効果は期待できません。
  たとえば、ある中小の食品スーパーがすべての顧客を対象とした福引セールを行ったとします。全顧客を対象としているため、一見の客でも福引は可能です。つまり、福引を目当てとした顧客が来店することで、目先の売上高は短期的には増加するかもしれません。しかしこれらの顧客は、このスーパーに対して「また来店しよう」と思うほどのストアロイヤルティ(店舗への忠誠心)を抱くでしょうか。このスーパーの施策には、長期的な売上拡大の視点が欠落しているとみることもできます。
  この事例のような中小の食品スーパーでは対象商圏が限られており、新規顧客の動員にはおのずと限界があります。また、新規顧客の開拓に膨大な販売促進費用をかけるだけの余裕もありません。そのため、同スーパーの戦略としては、時間面でも、コスト面でも既存顧客の深耕のほうがより効果的であると思われます。さらに、

   既存顧客の満足度を高めていくことで、
   その評判が口コミで広がり、新規顧客の獲得にも効果を発揮する

という好循環が生まれてきます。

既存顧客深耕の実践ポイント(1)

 以下に、既存顧客の深耕を実践するためのポイントを紹介します。

自社の顧客構造を分析する~ABC分析~

 ABC分析とは、現在の自社の顧客を取引金額に応じてABCの3段階でランク付けするものです。

   ABC分析により、現在の自社の売り上げがどのような得意先で構成され、
   どの得意先が収益の中心となっているのかを把握することができます。

 まず、売上高の大きい顧客から順に並べ、全売上高に占める得意先の売り上げの割合(=構成比)を計算します。
 そして、得意先の構成比の累計額を計算していき、

  • 上位80%以下に位置する得意先 ......Aランク
  • 上位80%超95%以下に位置する得意先 ......Bランク
  • 残りすべての得意先 ......Cランク

とします。たとえば、次のY製作所の例(表1)では、Aランクに属しているD社とE社の売上高だけで全売上高の80%を占めています。つまり、Y製作所の取引先数は全部で10社ですから、20%の得意先だけで売上高の80%を確保していることになります。このような顧客構造はけっして特異な例ではなく、「2/8(にはち)の法則」と呼ばれるほど多くの企業でみることができます。

【表1】Y製作所の顧客(取引先)構造 (単位:千円)

売上高 全売上高対比 ランク
D社 500,000 42% 80% (A)
E社 450,000 38%
F社 150,000 12% 15% (B)
G社 40,000 3%
H社 20,000 2% 5% (C)
I社 20,000 2%
J~M社 10,000 1%
合 計 1,190,000 100% 100%

 この分析からは、まず現時点での自社の生命線ともいえるD社、E社に対して、手厚い対応をして関係を強固にしていくことが大切であることが読み取れます。

 しかしいくら関係強化を図っても、突発的な事由によってD社、E社との取引が突然停止することも考えられます。したがって、残りの取引先のなかから、将来の主要取引先候補を選定し、重点的に関係を育てていくことも同時に重要な施策になります。

インストアシェア(ISS)を調査する

 次に、表2のようにインストアシェア(取引先における自社製品の取扱シェア。以下、ISS)を調査します。Y製作所では精密部品を製造していますが、各取引先は当然、Y製作所以外のメーカーからも精密部品を仕入れています。たとえば、同じAランクに属しているD社とE社とではISSに大きな開きがあります。また、BランクのF社に至っては、ISSは1%にしか過ぎません。一方、H社については、すでにISS100%を達成しており、H社が大きく売上高を伸ばさない限り、これ以上の開拓余地はないといえます。
  さらに、全取引先ベースのISSは6%強に過ぎません。つまり、既存の顧客に開拓の余地が十分残されている以上、あえて新規開拓を行う必要はないと判断できます。逆に既存の取引先に開拓の余地がない場合は、新たな取引先の獲得に向けた活動に着手する必要があるといえます。
  このようにISSの調査は、既存の取引先に対してどの程度開拓の余地が残されているかを把握することが最大の目的となります。

【表2】取引先内におけるY製作所のシェア (単位:千円)

精密部品の仕入高
(ほかの仕入高は含まない)
Y製作所からの仕入高
=Y製作所の売上高
ISS
(単位:%)
D社 2,000,000 500,000 25%
E社 800,000 450,000 56%
F社 15,000,000 150,000 1%
G社 100,000 40,000 40%
H社 20,000 20,000 100%
I社 600,000 20,000 3%
J~M社 50,000 10,000 20%
合 計 18,570,000 1,190,000 6%

 また、ISSはその会社が自社に対してもっている信頼度・満足度と受け止めることもできます。たとえばF社のISSが1%しかないということは、自社に対してほとんど信頼感をもっていない可能性が高いのです。
  そのような場合は自社がF社に対して十分な営業体制・フォロー体制がとれているかどうかを確認することが大切になります。たとえば仕入高の合計がもっとも小さいH社のISSが100%であることを考えると、自社は小企業向けの対応は得意だが、F社のような規模の大きい企業向けの対応が不得手ということも考えられます。

   このようにISSが極端に低い会社については、
   その会社の状況に応じた適切な対応ができているかどうかを確認し、
   できていない場合はそれを改善する

ことが大切です。

既存顧客深耕の実践ポイント(2)

重点取引先の選定

 ABC分析とISS調査などの分析結果をマトリックスに表し(図1)、各取引先に対する今後の対応の方向性を決定していきます。縦軸に売上高(各取引先におけるY製作所製品の仕入高)、横軸にISSを取ります。

【図1】取引先のポジショニングマトリックス

【図1】取引先のポジショニングマトリックス

(1)1~3の取引先→【成長・投資戦略】

 このカテゴリーに属する取引先群は、自社が将来にわたって成長していくうえでもっとも重要かつ魅力的な顧客です。そのため、労力・時間ともに最重点のフォローをする戦略をとる必要があります。

1の取引先:労力・時間ともに最重点フォローを心掛けます。

2の取引先:ISSのさらなる向上が目標となります。
  そのためには、商品・サービスの両面から自社の魅力を訴求していく必要があります。

3の取引先:取引先の成長を促進するフォロー活動が重要です。
  具体的には、情報提供や販促支援など、サービス力の向上をめざします。

(2)4~6の取引先→【選別・維持戦略】

 このカテゴリーの取引先群は、今後さらに成長が見込めるかどうかを判断する段階に位置しています。そのため、現状の売上高・ISSを維持する程度の労力・時間を配分し、成長が見込まれるようであれば、【成長・投資戦略】を、そうでなければ【撤退戦略】を採用します。

 4の取引先:ISSのアップが第一目標です。取引先の信用・信頼を得るための活動が求められることになります。 ISSアップが見込めるようであれば【成長・投資戦略】を採用します。

 5の取引先:現状維持が基本戦略となります。

 6の取引先:現状維持が基本ですが、売上高の減少傾向が強い場合は速やかに【撤退戦略】へ移行します。

(3)7~9の取引先→【撤退戦略】

 撤退の準備あるいは撤退を図る戦略です。

 一方、取引先に対する今後の方向性(戦略)を決定する要素として、「各取引先の成長性(売上高伸長率や取扱商品の将来性など)」を加味すると、図1のマトリックスで得た結論を若干修正する必要が生じます。それを表3に示します。

【表3】成長性を加味した場合の取引先に対する今後の方向性

売上高 ランク ISS 成長性 今後の方向性
D社 500,000 A 25% C 選別・維持戦略
E社 450,000 A 56% B 成長・投資戦略
F社 150,000 B 1% A 成長・投資戦略(*1)
G社 40,000 B 40% B 選別・維持戦略
H社 20,000 C 100% C 選別・維持戦略
I社 20,000 C 3% A 選別・維持戦略(*2)
J~M社 10,000 C 20%
C
撤退戦略
合 計 1,190,000 6%

(単位:千円)

(*1)F社の成長力はきわめて高いにもかかわらず、ISSは1%程度でしかない。新商品の投入やサービス力の向上などF社への対応を強化していくことで、売上高・ISSともに向上させることは十分可能であると考えられる。そのため、F社に対しては【成長・投資戦略】を採用する。

(*2)I社については売上高・ISSともに非常に低いレベルにあるため、本来ならば【撤退戦略】をとることが妥当である。しかし、I社の社長は熱意溢れる人物であり、優れたリーダーシップの下ここ2年間で売上高を倍増させている。I社は今後さらに成長していくと考えられるため、【選別・維持戦略】に修正し様子をみていくことにする。

最終内容確認 2013年10月

  • googleplus
  • hatena
  • pocket
  • line
  • evernote

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