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人事・労務
人事管理の基本

目次

1.人事管理をめぐる問題点

企業活動を支える資源は4つあるという。それは、人的資源・物的資源・資金資源・情報資源である。「企業はヒトなり」という言葉があるように、この4つの資源のなかでもとりわけ人的資源が企業に及ぼす影響は大きく、それを有効に活用するためのマネジメントは企業経営のなかでも重要な意味をもっている。
「人的資源=人材」は、企業を構成し、その推進力となるものである。したがって、この企業の活力たる人材を、いかに活用し、いかに管理していくかということのもつ意味は、非常に大きいといえる。
とくに、景気回復に力強さがみられず企業環境が厳しい現在、人材をどれだけ有効に活用していくことができるかは、企業にとって死活問題である。企業の存続と繁栄のためにも、人事管理上の問題点を早期に発見し、将来あるべき姿を明らかにして、適切な人事管理が行なわれなくてはならない。
そこで、いま人事管理をめぐる問題として考えられる点を以下にあげる。

  • 年功序列や終身雇用といった日本型雇用システムの限界が顕在化している
  • ポスト不足や昇給率の低下など減量化が求められる経営状況のなか、社員のモラールがダウンしている
  • ゆとりのある生活を求める「脱会社人間」や、仕事にやりがいを求める「自己実現願望」といった労働者の就業意識の多様化に、企業が適応できずにいる
  • 女性の社会進出や高齢化社会の進展によって新たな労働市場が形成され、これらの労働条件や勤務形態の異なる人材の活用が、社会的要請として求められている
  • 新しい人事管理制度が構築されているが、長年にわたって浸透し機能してきた体制との整合や移行において摩擦が生じているこれらの問題を自社に照らし合わせてみよう。人事管理の改革は必要ないだろうか?

これから改革しようとする方向性に間違いはないだろうか?不必要な改革に着手してはいないだろうか?
自社の現状を把握し、今後の経営計画や目指すべき企業像などと照らし合わせ、より適切な人事管理の実現を検討していく。

2.人事管理の基本

人事管理とは、企業経営のために「人的資源である労働者」を最適最大限に活用することを目的とした諸施策、諸機能のことをいう。

人事管理のなかに含まれるものとしては「募集・採用」「人員配置・人事異動」「人事評価制度」「教育(能力開発)」「労働時間」「賃金」「福利厚生」「退職」「雇用調整」など一連の施策や制度のすべてがあげられる。
これらが十分に機能することによって、人事管理の目的は達成される。やみくもに新しい制度を取り入れるのではなく、自社の現状に合わせ、目的に合致した施策を導入していくことが必要である。
ここでは、人事管理のプロセスにのっとり、それぞれの機能概要についてみていく。

1)人員の募集・採用から人員配置まで

まず人事管理に必要なのは、自社にとって必要な人材を、必要なだけ採用し、適材適所に配置することである。各部門ごとの雇用計画をもとにして、関連する法規制に正しく整合させ、管理していく。

(1)募集・採用

採用計画に基づき必要人員の採用を行なう。
まず、募集の段階では、自社の望む人材をより多く集める努力が必要である。企業のビジョンをいかにアピールし、他社との差別化をいかに図るかを検討する。こうして集めた応募者のなかから優秀な人材を採用するが、この場合の「優秀さ」は、「企業ニーズに適応した能力を有する」ことを意味する。
また、応募者にとって、人事担当者はその企業の判断材料となるので、魅力ある優秀な担当者を配置する配慮が必要である。

(2)人員配置と人事異動

人員配置と人事異動は、常に適材適所の観点から行なわれる。
どんなに優秀な人材でも、不適任な職務で能力を発揮することは難しく、そのまま放置すると意欲を失ってしまう。意欲を喪失した存在は、周囲に悪影響を及ぼすことにもなりかねない。「適任者を配置する」ことが、人材の有効活用の出発点である。
また、職務に対し「恒常的に」適任者であることは難しいため、「人事異動」が必要となる。これには、ある一定の時期をもって行なわれるものと、企業の必要によって適宜行なわれるものとがある。基本的には
  • 長期にわたる勤務により熟練し、上級の職務を希望するようになった
  • マンネリ化し、能力的にも意識的にも向上がみられなくなった
  • 常に適材適所の配置をすることによって、企業の活性化を図りたい
といった場合の対策である。
労働者に数多くの職務を経験させるジョブローテーションは、若年層の適性発見や、中堅・管理者層のゼネラリスト的能力養成に効果的な手段である。

2)能力開発をすすめる社員教育

労働者に最大限の仕事をしてもらうためには、業務の遂行能力の向上が必要である。そのため、人事管理においても能力開発をすすめる教育は重要な施策として位置づけられている。
基本的には以下の3つの教育方法がある。

(1)O.J.T(On the Job Training:職場内訓練)

これは、実際の職務を通じて必要な知識や技術などを身につける教育方法である。
上司や先輩によって、経験からしか得られないノウハウや知識などを教えることができるため、実務に最適な教育方法とされる。
しかし、教える側(上司)と教わる側(部下)の、意識や意欲、相手に求めるレベルなどがよく理解されていないと、摩擦が生じ、その後の業務に支障をきたすことにもなりかねないため、注意が必要である。

(2)Off.J.T(Off the Job Training:職場外訓練)

これは、企業内で行なわれる集団教育、企業外で行なわれる講習会や通信教育などである。
新入社員の教育から管理職教育まで、職務内容や職位、職種別によってそれぞれに適応した教育が行なわれる。
ただし、画一的な教育になりがちであることから、個々のニーズに合った内容や方法を十分に検討のうえ、行なう必要がある。

(3)自己啓発

個人が自らの能力を、自らの努力において高めようとするものである。
自己啓発によって個人の資質が向上すると、O.J.TやOff.J.Tをより一層効果的にすることが可能になる。
自己啓発の出発点は、個々人が自己の能力の特色や長所・短所を正しく自覚することである。このため、人事考課の結果を個別に公開することが求められる。人事考課の結果から、不足している点の指摘や改善方法を具体的に指示されることで、正しい自己啓発が行なわれる。

3)人事考課制度

人事管理のうえで、従業員一人ひとりにどのような道を選択させ、どのような管理を行なうかということはきわめて重要である。これによって、個人の活性化、有能な人材への育成方法、仕事への充実感の高揚などが違ってくるからである。このため、個々人を正しく選別するための客観的な評価が必要となる。この評価の具体的手段が、人事考課である。
人事考課においては、給与や賞与、配置、昇進、能力開発などの評価基準を得ることを目的に、個人に関する能力・成績・適性その他基礎データを収集、整備、蓄積する。

これまで人事考課は、ただ個人の選別の手段として考えられがちだった。そのため、選別は時として差別につながり、労働者のやる気を喪失させるだけで、資質の向上にはつながりがなかった。しかし、人事考課はあくまでも個人の能力を把握することによって適切な能力開発や育成を行なうという目的のための手段なのである。
したがって、人事考課制度は十分な準備と社員の合意のもとに導入されることが必要である。計画的な導入を行なうことによって、人材育成や組織の活性化に大きな効果をあげることができる。

これらのことから、人事考課導入の留意点としては

  • 考課基準を全労働者に公表する
  • 結果を個々人に公開し、不足している点を具体的に指示し、改善方法を示し、意欲と業績の向上を期待する
  • 企業の求める能力水準や業績値を示し、個々人の具体的な目標を明らかにする
  • 職務に関係ないことは評価に影響させない
  • 客観性をもって評価する

ということがあげられる。

人を評価するというのは、大変難しい作業である。人事考課を適切かつ効果的に行なうためには、考課する者に対する考課者訓練も必要である。

4)労働時間の管理

日本企業では、長年にわたって「労働時間が長い=よく働いている」といった意識が培われてきたが、経済状況の悪化や就労意識の変化により、短時間の効率的な労働が目指されるようになった。完全週休二日制の導入や有給休暇の取得促進など、取り組み方は企業によってさまざまである。
労働時間の短縮は、社会的要請でもあるが、人件費の削減にもつながるうえ、労働者の健康管理の面からも望ましく、企業ニーズにも労働者のニーズにも合った傾向といえる。
また、労働時間管理のなかで最近普及してきたものが「フレックスタイム制」などの変則的な労働時間制度や「裁量労働制」である。これらは社員が自己の判断に基づいて生活と仕事の調整を図るもので、プライベートの充実と、仕事に対する目的意識の明確化・効率化を目的としている。「労働時間=量」よりも「労働の成果=質」を重視したもので、能力主義の人事管理のもとに採用される。

5)賃金の管理

賃金とは、「給与」「手当」「賞与」など、労働に対する報酬として支払われるすべてのものを指し、雇用する側とされる側の関係の根幹をなすものである。
内容としては、定期給与と特別給与に分けて考えられるのが一般的である。定期給与は基本給や諸手当からなり、特別給与は「賞与」に代表され、労働者側からは定期給与の補足・生計費補助の意味合いが強く、企業側からは成果・業績配分の意味をもつ。
もともと、賃金は労働者の「最低生活を支える水準」を維持するものだったが、最近では「よりよい生活水準の向上」が求められ、ゆとりのある生活が営まれる水準に達しているかどうかが注目されるようになった。賃金水準は、労働者の勤労意欲に直結するものであるから、慎重に管理する必要がある。

6)福利厚生についての管理

労働の対価としての賃金とは別に、企業が労働者とその家族を対象として福祉向上のために行なう諸施策が福利厚生であり、企業と労働者の関係を健全に保つ意味をもつ。
「法定福利費」としては社会保険料・年金の負担が主で、「法定外福利厚生費」としては保健衛生、生活援護、慶弔・共済・保険、文化施設の整備などがあり、それぞれに応じて支出する。
プライベートの充実や生活水準の向上が求められるなかで、福利厚生の充実は労働者の勤労意欲の向上とともに、企業の大きなセールスポイントともなる。自社の負担能力との調整を図りつつ、充実させていくことが望まれる。

7)退職・雇用調整についての管理

採用があれば、当然退職・解雇などによる雇用調整がある。企業ニーズや労働者個人のニーズによって、人員を調整しなくてはならない場合が生じる。
労働者が会社を退職するには、死亡、定年、契約期間満了などによる「自然退職」と、労働者の意思による退職や合意退職といった「任意退職」とがある。そのなかでも最も頻繁に起こりうるのが定年制による「定年退職」である。
定年制は、高年齢労働者の交替を促すもので、日本型雇用制度のなかでも特徴的な労働形態といわれる。高齢者の増加にともない、勤務延長や再雇用制度などを導入する企業が増えているが、リストラクチャリング(事業内容の見直し、再構築)によって、反対に早期退職を勧め、雇用調整を図る企業もある。
ところで、雇用調整とは、労働力を短期的に調整することで、一般的には人材の削減を意味する。人材サイクルにおける入口から出口へという順序で適用されていくことが多く、まず採用の削減や停止で人員増加を抑える。第二段階としては配置転換や出向、転籍などによる人材活用の場の変更を図る。そして最終的には希望退職の募集や、解雇による人員の規模縮小という手段がとられることになる。
強硬な雇用調整の実施は従業員のモラールをダウンさせ、企業の活力低下などにつながる。調整を行なう場合は慎重に行なわなくてはならない。

3.いま求められる人事管理

経済に好況不況の波があるのは当然で、労働市場はそういった景気の波の影響を直接受ける。そこで、状況が変化するたびにその場限りの人事管理を行なっていたのでは、企業の発展は望めない。長期的な視野に基づいた人事戦略が、企業の長期的な経営目標を支援するのである。
経営環境や労働市場の変化が著しい今日のような時代においては、いつどのように状況が変わっても即応できる、柔軟な人事管理が必要なのである。
こうしたことをふまえたうえで、これからの企業を支える人事管理を考えると、
  1)顧客ニーズの変化スピードに適応できる「マーケット連動型の人事管理」
  2)多様化する労働市場から適切な人材を確保できる「雇用柔軟型人事管理」
という2つがあげられる。

では、これから望まれる2つの人事管理について考えてみる。

1)経営環境の変化のスピードに適応する人事管理

市場の成熟化が進展し顧客のニーズの多様化が進むなか、その変化のスピードも日々加速する一方である。
こうした背景のもと、企業は「独創的な商品やサービス」「複雑化、細分化するマーケットへの対応」などといった新たな企業行動を追求していかなければならない。
そこで、企業が求める人材の要件も、「時代感覚に優れ、独創的な発想と思い切った改革のできる人材」へと変化し、企業としては、このような人材を有効に活用していく施策・体制を確立していくことが望まれるようになった。

その実現のため、企業が注目し、見直しはじめたこととして
  (1)能力重視
  (2)個性重視
  (3)専門性の追求
といった観点からの人事管理があげられる。
これらの具体的な取り組みとしては、以下のような試みがなされている。

(1)能力重視の人事管理

これは、年齢による人事評価を否定し、その能力によって人材を評価し、職務や職位を与えるものである。「能力主義人事制度」として体系づけて取り入れる企業も増えており、それに合わせて「能力給」や「業績給」「年俸制」などが導入されるようになり、給与体系も変わってきた。

(2)個性重視の人事管理

これまでの人事管理は、人材を企業ニーズに合わせていくことが基本だった。しかし、変動する時代のニーズに適応するには、異質で新しい発想、思い切った改革のできる人材が必要である。企業カラーに染まらない、豊かな個性が求められるようになった。
画一化されない教育方法を考案したり、新商品や新規事業、職務や職場の体制の改善など、さまざまな点において「企画・提案制度」を取り入れ、個性の発揮を奨励する企業もある。

(3)専門性を追求した人事管理

厳しい企業環境に対応できるのは、豊かな個性と高い専門能力である。人材の適性や能力をフルに発揮できる職務や職位を与え、専門能力を十分に活用する体制を確立することが企業能力をもアップさせる。
経営を支える基幹的人材である「管理職」や「専門職」のもてる能力を発揮できる勤務形態、体制、組織のために「管理職・専門職制度」を整備する企業も増えている。

2)労働市場の多様化に適応する人事管理

労働市場は流動的に変化している。たとえば「就職氷河期」という言葉がうまれ、失業率が過去最高を記録するほど求職難が叫ばれてはいるが、その数年前にはたいへんな求人難だったわけである。また、将来的には出生率の低下などから若年労働者が不足していくことが予想され、高年齢労働者は増加する。 このように、変化の激しい労働市場を十分に考慮し、長期的な視野に立った採用や雇用調整に取り組まなくてはならない。これは長期的な経営計画の達成のためにも重要なポイントである。

そこで、必要とされるのが、「中長期的な経営計画の明確化と、それを背景とした柔軟な人材戦略」である。 以下に、その流れをまとめてみる。

 a)経営計画をもとに必要人員や必要時期を明確にする。
 ↓
 b)たとえば、
   ・企業固定型のコア人材として期待できる新規学卒者には、長期的な視野のもとにゼネラリスト養成の教育を施す
   ・専門能力を有する即戦力としては、企業間を流動するフロー人材を中途採用などで補充する
  といった人材戦略を考える。
 ↓
 c)労働市場の状況をみて、
   ・将来不足すると思われる若年労働者の、必要人数の確保はできているか
   ・高齢化社会への対応として、高年齢労働者を活用する必要はないか
   ・今後雇用機会の増加が見込まれる、女性の有効活用の場はあるか
   ・パート労働者で対応できる業務・職場はないか
   ・外国人労働者を活用する際の受け入れ体制はあるか
  といったことを考慮して雇用し、それぞれに適した人事管理を実施する。

このように多様な人材を雇用していくと、それに合わせて職務内容や労働条件、教育方法なども多様化、複雑化していく。そしてそれを経営体制や計画、各種法規制と整合させ、適切に管理していかなくてはならないのである。 人材の多様化、つまりこれからの人事管理は「量の管理」から「個の管理」へと移行していくと思われる。しかしこれは、社員一人ひとりの個性の発揮を組織目標の遂行にどう結びつけていけばいいか、という大きな課題も含んでいる。どんなに優秀な個性も、それぞれの方向性がバラバラでは、組織においては何の意味もなさない。

つまり、「個々人の独創性を存分に発揮させる」ことと「企業の経営目標の達成」とを確実に結びつけ、さらなる発展のために施策するものが、本当の「個性重視の人事管理」といえる。 企業ニーズ、市場ニーズ、労働者個人のニーズ、それぞれをふまえた適切な人事管理こそ、企業経営の目標達成を遂行するものなのである。

最終内容確認日2013年10月

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