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起業のススメ 社会人起業VS学生起業

バーチャル・リアリティ(VR=仮想現実)が身近になってきた。1000円を切る価格の段ボール製VRメガネも登場し、スマートフォンと一緒に使用すれば、360度のパノラマ映像などのVRを体験できる。ユーチューブやフェイスブックなど無料で見られるVRの映像コンテンツも増えている。この時流に乗って業績を伸ばしているのが、青木崇行社長率いるカディンチェだ。撮影と編集だけでなく、再生アプリの開発やVRコンテンツのウェブ配信プラットフォーム、ストリーミング配信システムの提供も対応しているのが特徴だ。「VRはスポーツ観戦や音楽コンサート、不動産の物件案内、ホテルの案内サイトなどその場に行ったかのように体験できる」と話す。

昨年は、NHKの東日本大震災後の報道映像や、テニスの錦織圭選手と車に同乗体験できるジャガー・ランドローバー・ジャパンのVR映像コンテンツを制作した。製薬会社のファイザー向けに、バーチャル工場見学のコンテンツ制作と再生アプリを開発した。「VR関係は2年くらい前から始めて、ここ1年集中的に実施している」と好調だ。

3年で退職し大学院に戻る

青木は慶応義塾大学環境情報学部と慶応大大学院政策・メディア研究科修士課程で、センサネットワークやユビキタスコンピューティングを研究した。起床したら、センサーが検知し、自動でお茶を沸かしたり、トースターがパンを焼いたりしてくれるものだ。「(通信機能を持った)情報家電は当時の技術的なトレンド。その時に何ができるかを考えていた」。大学院卒業後は「一番、オーディオ・ビジュアル×インターネットに近そうな会社」と感じたソニーに入社した。コーポレートR&D A3(エーキューブド)研究所に研究員として配属された。ここで、5年後に共同創業した内田和隆と出会う。内田は東京工業大大学院理工学研究科の修士課程修了後、同部署に配属された。2人は同期としてすぐに打ち解け、エジプト旅行をする仲になった。

研究所では液晶・プラズマテレビの「ベガエンジン」や「ブラビアエンジン」の高画質化処理のアルゴリズムを研究した。だが、「インターネットの時代なのに、電器の仕事ばかり。その上、研究所は機密がガチガチでオープンにやれなかった」。大学院での研究が生かせず、他部署との連携もしづらかった。ある日、ソニーが開発した人型ロボット「キュリオ」をインドで科学技術教育に使うプロジェクトの社内公募があった。研究所以外の仕事もしたいと思い、応募した。だが、上司から「やっても意味がない。他にやるべきことがある」と一喝された。メンバーに選ばれたが、辞退した。また、「1年中、研究所の中でコンピューターの前にいる毎日。まるで動物園に入れられた狼。暮らしてはいけるけど、自由がなかった」。3年で退職した。

青木は「自由に研究できる風土」を求めて、古巣の慶応大大学院政策・メディア研究科に戻った。博士課程で修士時代の研究を引き続き行いながら、非常勤講師や助教として大学で働いた。一方、同期入社の内田はA3研究所での研究生活を楽しんでいたが、ハワード・ストリンガーCEO時代に研究所自体が廃止になった。内田もソニーを退職し、青木に「一緒に起業しないか」と話を持ちかけた。資本金を50万円ずつ出し合い、2008年8月に2人で会社を設立した。設立から現在まで、社長の青木が企画営業、専務の内田が開発という役割分担は変わらない。

苦労の末、パノラマ画像がヒット

事業内容は、室内空間の3次元モデル化のサービスを考えた。建物の写真を1000枚撮り、レーザースキャナで測定した建物の3次元形状と重ね合わせて、3次元のCGとして作るもので、物件の案内など不動産関係向けを想定した。内田はこのアイデアで情報処理推進機構(IPA)の未踏事業に採択され、補助金を貰いながら、開発を進めた。だが、自動化できたのは7割で、残り3割は人間の手直しが必要だ。「モデルルーム1つ作るのに1カ月で数百万円かかる計算になってしまった」。そこで、手直しに時間がかかる3次元の情報を削り、2次元の写真だけで構成したパノラマ写真を自動作成できるソフトを開発した。グーグルストリートビューの室内版のようなものだ。

この事業が成功するまでは、知り合いにゴルフ場のウェブサイトを制作する仕事を紹介してもらうなど、苦労もあった。「資金的に苦しかったが、借金はしてなかったので自分たちが数カ月我慢すれば持つ」と、青木と内田は無給で社員の給料だけ出したこともあった。「起業したのにウェブ制作など誰でもできるような仕事をしていて、何やっているんだろう」と悩んだ時期もあったという。

そんな頃、生活雑貨の販売店「MINIPLA」の銀座店から、「ウェブ上でウィンドウ・ショッピングができるバーチャル・ショップを立ち上げたい」という話が舞い込んだ。このソフトで作成し公開されると評判になった。伊勢丹、東急、大丸、近鉄、西武の各百貨店をはじめ、ニッセンやサカタのタネなどが相次いで採用した。ソフト開発にあたって小売店の利用は想定していなかったが、「違う分野で使える」という評価をもらい横展開した。

立体動画を撮影する機材(手前右)

立体動画を撮影する機材(手前右)

パノラマ動画の時代が到来

だが、はやり、すたりが早いのがウェブ業界だ。一巡すると、継続的な利用は少なかった。「小売店向けにネットワークができたので、何かできることがないか考え」、アップルのiBeaconを使い、クーポンや情報を提供できるシステムを開発。セイコーミュージアムなどに納入したが、こちらは小売店の利用自体が広がらなかった。

そして迎えた2012年、VRの開発環境が変わり“パノラマ動画の時代”が到来しつつある。2人は「ソニーで学んだ映像処理技術と、大学で学んだネットワークが生かせる。今がチャンス」と、この流れにいち早く対応し、パノラマ動画コンテンツの制作やウェブ配信プラットフォームの提供を始めた。VRは静止画から動画になることで、映像コンテンツとして楽しむだけでなく業務用への用途拡大が可能になる。店舗や工場の管理用に使えるからだ。ドン・キホーテに店舗管理システムを納入した。メーカー向けには、「本社から地方の工場のライン変更を確認できる」といった用途を提案している。

さらに、期待を寄せるのは東京オリンピックだ。「当社ならリアルタイムに配信して、家にいながら、スタジアムにいる体験ができる」と新しい動画での楽しみ方を提案している。青木が期待したVR新時代がいよいよ幕を開けようとしている。

(敬称略)

青木崇行氏

大企業に入って1つの歯車になるより、起業して小さいチームで働くことは担う責任の範囲が広くなる。ダイレクトに世の中と触れ合え、楽しい。厳しいこともあるが、学ぶべきことも多い。社会には、既存の企業では解決できない隙間や、埋められてない穴が、まだまだたくさんがある。それに取り組むことは、価値があることだと思う。

企業プロフィール

社 名 カディンチェ株式会社
法人番号 1010701024254
代 表 青木崇行
事業内容 VRコンテンツの制作・ソフト開発
所在地 東京都品川区小山6-7-12
設立年月 2008年8月

掲載日:2016年3月30日

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