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起業のススメ 社会人起業VS学生起業

工学と医学を結ぶ強い思い イービーエム株式会社代表 朴栄光氏

「絶対医師になろうと思っていたが、気付いたら医師をトレーニングする側になっていた」と話すのは、イービーエムの朴栄光社長だ。心臓外科手術用のトレーニングキットを開発、販売する。心臓の拍動を再現した装置「BEAT(ビート)」と、実物に近い感触の血管モデル「YOUCAN(ヨウカン)」だ。

外科手術のトレーニングは、豚の心臓やマネキンのようなタイプを使うのが一般的だが、「いつでも、どこでも、何度でも」をコンセプトに、装置の小型化と常温保存での練習を可能にした。YOUCANの縫合精度の評価サービスも実施し、前回結果や熟練者の結果と比較できる。

朴は「冠動脈バイパス手術(心筋梗塞の治療法の一つ)はいかに上手く血管を縫えるかが、手術成績に影響する。100回も縫えばだいたい上手くなるが、患者で練習する時代は終わった」と話す。現在、BEATは国内の約200大学や米国、中国など海外の医療機関に販売している。個人で購入する医師もいるという。

医者へのあこがれと挫折

朴は芝浦工業大学の3年生の時、「一生、夢中になれて直接、人の役に立つ仕事がしたい」と考え、医師を目指した。国公立大の学士編入学を目指し勉強した。山口大学の筆記試験を通り、面接で「大学で学んだ工学の知識を生かし、医学と工学の両方のかけ橋になれるような人材になりたい」と自信を持って志望動機を語った。だが、面接官から「所詮、学部生の半人前じゃないか。それで工学を語れるの?」と言われ不合格に。「鼻っ柱を折られました」。

それでも、医師への道は諦めず、力を付けるために医療よりの研究ができる場所をインターネットで調べた。そこで見つけたのが、人工心臓を研究していた早稲田大学大学院理工学研究科(現・早大理工学術院大学院先進理工学研究科)の梅津光生教授だ。朴は直接、梅津教授に会いに行った。事情を話すと「それならうちに来なさい」と言われ、早大大学院に進学した。

2004年4月、同研究室は文科省の知的クラスター創成事業「岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター」のメンバーとして、事業化を視野に入れた研究・開発が始まり、入学したばかりの朴も参加した。教授から与えられた課題は「手術する側のロボットはいろいろある中で、手術される側のロボットを開発せよ」だった。

朴は患者ロボットにテーマを絞り、現在の製品のもとになる心臓拍動装置と血管モデルの開発に取り組む。若手の医師から「難しい手術はエキスパートにまわり、若手の医師が手術経験を積みにくい」という現状を知り、手術トレーニングの必要性を実感する。朴は「第一に、トレーニングはいつでも、どこでも、何度でもできなければいけない。第二に、リビングルームにも置けるようなデザイン。第三に、縫合結果を定量的に評価できるように」と考えた。外科手術のトレーニングで一般的な豚の心臓や、マネキンのような形の練習機器ではこれらの点を解決できていないと感じたのだ。

米国での手ごたえを大田で実現へ

試作品を完成させ論文を書いた後「実際に現場の医者に届けたい」と思うようになった。その実現のために、起業の道を選んだ。2006年に早大の博士課程に進学して試作品の改良と研究を続ける一方、同年8月に大学からの資金援助を受けず自費で起業した。さらに朴を動かしたのが米国での3週間の短期留学だ。「手術室まで先生を追いかけるなど心臓外科医の日常をよく理解し、医療の本場、アメリカでこのシミュレーターが必要とされていることがわかった」という。そして「売れる、売れない」ではなく、どうやって市場を作っていくかという観点に切り替えた。

大学では研究はできるが、製品として実用化するノウハウはなかった。心臓の拍動再現装置は品質や設計を見直す必要があり、東京都大田区の町工場に協力を仰いだ。血管モデルは、樹脂の中にコラーゲンや和紙用のパルプ、繊維質を入れるなど試行錯誤を繰り返した。他の研究室で扱っていた生分解性高分子材のポリ乳酸でできたナノシートも試した。「感触、弾性、硬さなどを科学的に評価し、材料、製法、設計など全て検討した」。現在の製品になるまでに7年を要した。

目指すは国際標準化

製品が完成するまでは、造影剤の注入器や豚の肺を膨らます装置などの研究受託で売上げを立てた。「会社として離陸するため」だが、手術シミュレーターと相乗効果があるものを選択した。製品の完成後は販売面でも苦労した。米国の大学病院から代金が支払われないなど、理不尽な苦労や失敗を重ね、ビジネスの厳しさを学んでいった。この10年で「胆力を身に付けた」という。

また、朴は論文を重視し、自分で開発した手術トレーニングの効果の検証など、これまでに4つ発表した。「医療系のビジネスは、どんなマーケティングや広告よりも、きちんとした論文を出すことが有効。しっかり検証した上で、論文を発表していけば、トレーニング法の国際標準を作ることも可能だ」と大きな夢を持つ。

現在は、心臓弁や大血管用のトレーニング器具の製品化に取り組む。これからも「現場で必要とされているものをエンジニアリングして、工学的に新しい医療を作っていく」考えだ。

(敬称略)

朴栄光氏

大学発ベンチャーの優位点は信用力。学生でありながら研究者やエンジニアの肩書で一流の教授らと一緒に仕事ができ、心臓外科の最先端に触れられた。大学で使えるものは、どんどん活用していくべきだ。ただ、研究室で実用モデルを作り起業するところまではできるが、どうやって稼ぐかは教えてくれない。

重要になるのは社会とのバランス感覚だ。安易な起業ブームに乗るのは危険。起業とは、少しでも良い社会や未来を実現するためのアプローチ。漠然と起業を目指す学生は、まず博士課程に行って思考力を鍛え、起業に向けた課題を明確にしてはどうか。課題さえ明確になれば、大体のことは解決できる。案外、お金や信用はボトルネックじゃない。世の中には、背中を押してくれる人たちはいっぱいいる。

企業プロフィール

社 名 イービーエム株式会社
法人番号 9010801016029
代 表 朴栄光(ぱくよんがん)
事業内容 医療用機器、医薬品の研究・開発・製造・販売および輸出入 医療用生物試料の加工、販売及び輸出入
所在地 東京都大田区大森南4-6-15
設立年月 2006年8月

掲載日:2016年3月 7日

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