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起業のきっかけから困難の乗り越え方、今後のプランまで、先輩起業家に聞きました。

墨田区で小規模保育所をゼロから立ち上げ

お母さんが作るお母さんのための保育園 ~ 保育士さん最優先が成功のカギ ~

共働きの増加で保育園の需要は増える一方だ。特に都市部では保育園不足が深刻で、東京都内では過去最大の27万7708人が保育サービスを利用している。待機児童はなくならず、都内で8586人(いずれも東京都調べ、2017年4月1日時点)

働く親の多くが保育園探しの困難を経験している。見つからない場合は行政や園と交渉したり、育児休業を延ばしたり、もしくは仕事を辞める人もいる。そんな中「保育園がないなら、自分で作ろう」と考え実行に移したのが、宮村柚衣さんだ。

合同会社はひぷぺぽ代表・ちゃのま保育園創業者
宮村柚衣(みやむら ゆい)

目次

事業をはじめたきっかけ

―― 保育園を作ろう、と思ったきっかけを教えて下さい。

私自身、現在5歳と4歳の子どもがいて、保育園探しで苦労しました。下の子が2歳の時、それまで在宅で仕事をしていたのですが、企業に就職したい、と思うようになったのです。秋に区役所に話を聞きに行った時は「待機児童が解消される見込み」と言われました。

ところが、年明けの2014年2月、墨田区から認可保育園入園不許可通知が届きました。そこで、認証保育園に申し込みをしたところ「20~30人待ちです」と言われひとしきり、泣いたり怒ったりしました。

そのうちに、行政に文句ばかり言ってウジウジしている自分が嫌になり、働きたいお母さんが安心して子どもを預けられる保育所を作ろう!と、ちゃのま保育園を設立しました。

―― 発想の転換がすごいと思います。

実を言うと、関西にある実家が社会福祉法人を経営していて、私の母が保育園を立ち上げたことがあります。様子をそばで見ていたため「保育園は作ることができる」と思ったのかもしれません。

私はもともと「新しく何かを立ち上げる」のが好き。以前、司法書士事務所の立ち上げに関わったこともありました。立ち上げ期の1カ月、仕事に没頭して、軌道に乗ったら運営を効率化し、半年後には仕事を家に持ち帰らず残業もしない...そんな経験をしていました。だから「保育園の立ち上げもできる」と思えたのかもしれません。

起業時

―― 小さなお子さんを2人育てながらの起業はご苦労も多かったのではないでしょうか。

保育園の立ち上げ期、子育てや家のことは、夫が全面的にサポートしてくれました。夫は会社勤めのシステムエンジニア。私と正反対の環境で仕事をしています。

彼は私が司法書士事務所を立ち上げた時も私をサポートしてくれたので「この大変な状態は短期的なもので、いつか終わる」と分かっていたようです。

そもそも「ゆうちゃん(宮村さん)は大企業には向いてない。起業した方がいいよ」と言ってくれたのは夫なのです。私は大学卒業後、自営や小規模な事業所の立ち上げをしてきたので、いちど大企業で働いてみたかったのですが、夫の方が私の適性をよく分かっていたのかもしれません。

―― 都市部では、用地の獲得や保育士さん集めに苦労する、と聞きます。建設反対運動などは起きませんでしたか?

それが、幸運なことに、反対どころか歓迎されたのです。保育園を開設したい場所を探し、このビルに目星をつけたところで、上の階に住んでいる大家さんに挨拶に行きました。最初に「ここで保育園を開きたいのですが...」と相談したのです。

大家さんがとても良い方で「高齢者の多い街に子どもが来るのはいいこと」と言って下さいました。その上、大家さんが町内会の副会長さんだったので、ご近所への挨拶回りに同行して下さったのです。

この辺りは下町で親切な方が多くて「保育園を作ろうと思います。ちょっとうるさくなるかもしれませんが、よろしくお願いします」と言うと、歓迎して下さって...。とてもありがたいことです。

保育士さんは、全員、ハローワークに募集を載せて見つけました。すごく良い先生が集まっています。

起業後の課題と対応

―― 今、どのくらいの規模で運営されていますか。

子どもは0~2歳児が19人、先生は9人で、今ひとりが産休中です。この人員配置は、国の基準より、かなり手厚いです。

こういう形になったのは、保育士さんの声をよく聞いて経営に取り入れたからなのです。ただ、開業当初は失敗もしました。

開業当時は私が園長でした。私は「自分が理想的な保育園を作るんだ!」と意気込んで、園内は北欧風のインテリアにしよう、素敵な空間にしよう...と思っていたのです。

今、振り返ってみると、当時の私は「子育て経験のある経営者」だった。子どもを持つ親が働きやすいような素敵な保育園を「経営者目線」で作ろうとしていたのです。一方、保育士さんは「子ども優先」の価値観です。経営とは相いれないことが多々ありました。

例えば、経営の観点で言えば「0歳児は1人の先生が3人見ることができる。そうすれば、先生の人数は最小限になります」という効率思考になります。保育料や補助金の額は一定ですから、先生の数が少ないほどお給料にまわすこともできる...というわけです。

でも、保育士さん達は、そうは考えないのです。実際、見てみるとすぐに分かりますが、0歳といっても月齢により大きく状況が違います。ずっと寝ている赤ちゃん、はいはいする子、よく動く子、おとなしい子...。ひとりの先生が3人を見るというのは本当に最低限の基準であって、子どもとじっくり向き合うのは難しい。保育士さんは、そういうことを言ってきます。

―― どう対処しましたか。

最初は、保育士さん達を説得していました。人員配置もそうですし、壁に子どもの手形を貼りたいと言われた時も同じでした。私が理想とする保育園や、効率的な経営に必要なことを伝えて、納得してもらった、と思っていました。

ところがある時、気づいたのです。私が園に戻ってくると、先生たちのおしゃべりがぴたっとやむ。がんばってもうまくいかず、空回りしているな、と。

家で夫に相談してみたら「俺もそう思うなあ」と言われたのです。夫は会社員です。従業員の立場で見ると、保育士さんたちの言うことが分かる、筋が通っている、というわけです。私は夫を賢い人だと思っていたので、はっと気づきました。

私が経営効率を優先しようとしたのは「この保育園をつぶしてはいけない」と考えていたから。そうではなくて「ここで働くみんながいいようにしたらいい」と発想を変えることにしたんです。ちょうど同じ頃、ある経営者の方から「顧客満足は従業員満足を超えることはない」という言葉を聞いたことも、気づきに影響していたように思います。

―― その後、どうなったのでしょうか。

翌日から、保育士さん達に「私は現場に入りません」と伝えました。毎朝6時半に出勤していたのをやめて、次の4月から新しく園長先生を雇いました。私が園で働くことで1人分の人件費を浮かせることができていたのですが、そこをあきらめたのです。

自分が経営者としての給料をあきらめることで、収支はトントンですが、保育士さん達の雰囲気が変わりました。開園当時、私がこだわった素敵な北欧風インテリアは今、すべてなくなって、子どもの絵やスケジュールの分かるホワイトボードなど、保育士さんが貼りたいものを貼っています。

それから、木曜に開いていた管理職の会議を、保育士さん全員にオープンにして情報を共有するようにしました。

先生の数に余裕があるので、保育士の先生のお子さんが熱を出してお休みしても現場は回るようになりました。ある時、うちの園の保護者会とご自分のお子さんの運動会が重なった保育士さんがいました。それを知った周囲の先生が「絶対、運動会に行って!」と言っていました。犬が好きな先生は、飼っている犬が死にそうな時はお休みを取ります。皆がそれぞれ、仕事のほかに自分の大切なものを持っている。それを皆で大事にする文化が出来て来たなと思っています。

―― 保育士の先生たちは、仕事にやりがいを感じつつ、休みを取れない現場に疲弊して辞めていくことが多いです。

制度を活かすにはどうしたらいいか考えることが大事です。例えば今度、ある先生が結婚して新婚旅行に行きます。旅行に行く先生だけが幸せになるのではなく、その先生のヘルプをする先生に手当を出す。それによって、みんなが幸せになります。

うちの園では、事務を園長がやるのではなく、事務が得意な先生に手当を出してやってもらっています。適材適所、仕事が増えた分はきちんと手当を出すこと、が大事だと思っています。

今後の展望

―― 今後の展望を教えてください。

現場を保育士さんに任せることで、うちの園はうまくいっています。ただし、私自身はやっぱり経営が好き。保育士さんの持つ技能やノウハウを使って、子育て応援の新製品を作りたい。新事業を立ち上げようと準備をしているところです。