起業の先人に学ぶ(2018年版)

困難や苦労、失敗と成功…様々な体験を乗り越えて今に至る、起業以来の道のりを伺いました。

楽しい!おいしい!安い!「食」を通じて、だれもが差別なく幸せになる社会を実現する【(株)サイゼリヤ】

理系大学を卒業した若者が進んだ飲食業の道。「理系脳」だから作り出せた「おいしさ」と「価格」。成功飲食チェーン「サイゼリヤ」の快進撃について、創業者である正垣会長に聞いた。

株式会社サイゼリヤ代表取締役会長 正垣 泰彦 氏
URL:https://www.saizeriya.co.jp/corporate/index.php

目次

大学時代のアルバイト、コック長の一言が変えた

―― 皆さんご存知のサイゼリヤですが、正垣会長から見たサイゼリヤとはどんなお店なのでしょうか?

そうですね「お年寄りから子どもまで、家族や友人といろんな事を話しながら食事を楽しめる店」を作りたいと思っています。ワインを飲みながら、財布の中身を気にしないでおいしく食べられると気分が良くなって、自分の考えや本心を家族や友人に話すことができるようになるものです。イタリア語では、「la buona tavola(ラ・ボナ・タボラ)」=楽しい食事という意味の言葉があります。皆がおいしく気分よく食べられるためには安くなければならない。だから「安くておいしい」というのが大切なんです。

―― お年寄りのお話が出てきたのはちょっと意外だったのですが、創業当初からそう思われていらっしゃいましたか?

その時は、お金のある人も無い人も差別なく幸せになることが一番の目標でした。もちろん、高齢者の時代が来ることは分かっていたので、サイゼリヤのコンセプトも、お年寄りの人たちも楽しめて、おいしくて安いというものに変わっていきました。

―― 東京理科大を卒業されていますが、外食の道に進まれたのはいつなのでしょうか?

大学3年生のとき、帰宅途中にある飲食店に1年間ずっと「アルバイト募集」の張り紙が貼ってあり、なぜ1年以上もそれが貼り続けてあるのか気になって、あるとき従業員に聞いてみたんです。そしたら「仕事が大変で給料も安いからだよ」と言われました。どれほど大変なのか益々気になって働いてみようと思ったのです。大量の皿洗いやゴミ捨てでしたが、私は全然大変じゃない。むしろ楽しいくらい。他の人の分まで仕事をやってあげていたら、皆喜んでくれる。それが私にとって楽しかったんです。そのうち板前さんから「料理を教えてやるから明日から来い。金は出さないけど」と言われ、朝から通って料理を教えてもらったりしました。それもまた面白くて仕方がなかったんです。大学4年生になり、卒論を書くためにアルバイトをやめたいと告げたら、「おまえは、食べ物屋の素質がある。独立してやってみたらどうだ。俺達も辞めておまえについていくから。」と言われたんですね。そこまで言ってくれるならやってみようか、と半分おだてられて始めたんです。

順風満帆というわけにはいかなかったスタート。しかし、その気づきに成功の種が

―― レストランの立ち上げは順調でしたか?

全く順調ではなかったんですよ。お客様が来ない。移ってきてくれたスタッフにも給料が払えない。「安くておいしい料理を出したらお客様は来てくれる」と信じてやっていましたが、1日に10人も来ない。

―― その状況を打破するために何をしたのでしょうか?

お客様が来ない理由を挙げたら、いくらでも出てきました。店舗は2階にあったのですが、1階では八百屋さんが商品を並べて店の入口への階段を塞いでしまうとか、コックさんの腕が悪いとか、客層には遊び人が多くて真面目な人たちが入店しづらいとか(笑)。でも、本当の理由は違ったんです。「自分が何のためにこの店をやっているのか、自分がお客様にどういう価値を提供したいのか」ということが曖昧だったんです。そんな時に、火事で店が全焼しました。燃えている自分の店を見て、心の中で「やっとこの仕事を止められる」と思いました。それで、母に連絡して「大学を卒業してサラリーマンになって借金を返すよ」と言いました。すると意外なことに母は「もう1回やってみなさい」と言うんですよ。

―― お母様、凄い方ですね。

そうですね(笑)。母が何度も言うもんだから、私はもう1回、店をやってみることにしました。お客様は相変わらず来てくれませんでしたが。それでも、従業員は「給料はいらないからここで働きたい」と言う。どうにかこの従業員たちに給料を払ってあげなくちゃいけないと思って、なぜお客様が来てくれないのかをずっと考えていたんです。そしたら、自分の考えが間違っていることに気付いたんです。「自分は安くておいしい料理を出しているのに、お客様が来ないのは客層が悪いからだ」とか「立地が悪いからだ」と考えていたんですね。
でもそうではなくて、「ここは最高の立地で客層も悪くない。自分が高くて不味い料理を出していたからだ」と考えたんです。しかし、料理の腕は簡単には上がらないので、価格を3割引にしたんです。それでもお客様は来なかった。今度は5割引にしたけどお客様は来ない。試しに7割引にしてみました。するとお客様がドッと来ました。朝から晩まで行列ができました。

―― 利益は心配ではなかったのですか?

どうしたらお客様が来るか、というとりあえずの実験だったので、心配にはならなかったです。お客様が来すぎて、これはダメだと思って値上げをしたら、客足はぱったりと止まってしまいました(笑)。結果として「お客様が来たいと思う値段はこれくらいだ」というのが分かりました。この値段で料理を出すためにメニューを売れ筋のみに絞り、食材ロスを減らしました。それからは、あまりにお客様が途切れずに来るものだから、近くに2号店を出しました。

―― 多店舗展開の第一歩ですね。

どんどん同じ店を出していけば、食材は大量仕入ができて経費削減につながる。店舗間で食材の融通もできてロスも減る。従業員シフトの融通もできる。それでもお客様は減ることなくどんどん来る。市川市内に4店舗を出して、どの店も大繁盛でした。

―― この時に、今のサイゼリヤの原型が出来あがったのですね。

そうですね。お客様に並ばせるのは申し訳ないので、近くに店舗を出し続けていたところ、結果として1,500店舗が出来たようなものです。「自分たちがやっていることでお客様が幸せになり、お客様のためになるなら遠慮しなくていい、世界中どこにでも出そう」という思いに至りました。

―― 何店舗くらいの時に、そう思われましたか?

4~5店舗の時にすでに、500店舗、1,000店舗のチェーンになることを思い描いていました。お客様が喜んで食事をして、お年寄りの方も来て……というところまで思い描いていました。「何のために店をやるのか、将来どうしたいのか」をとことん考えていたんです。

―― そのようなビジョンは正垣会長の中から自然と湧き出てきたようなものですか?

母の影響だと思いますね。母は、「目の前に起きる困難は、全て自分のために起きているので、それを活かしていけばいい」という考え方をする人でした。例えば、父が浮気をして外に子どもを作ったことがありました。すると母は「自分が悪いから夫は浮気をしたのだ」と考え、その子を引き取り育てました。原因があって結果があるのだから、自分に起きる事象の全ては自分が原因である。自分がやったことに対する責任、というのは徹底していました。企業経営者の取るべき姿勢というのを母から学んだと思いますね。

理系だからこその戦略が花開く

―― サイゼリヤと同じ頃、ニトリ、ジャスコ、イトーヨーカドーなど、チェーンストア理論を学んだ経営者が一気に多店舗展開をして成功していました。

その時にはサイゼリヤもある程度のチェーンになっていました。私もチェーンストア理論は勉強していました。チェーンの凄さは、科学できること。世の中は変化していますから、科学・分析することで自らを変化させていくんです。改善し続けることができれば、どんどん良くなっていく。まずは一つの業態に絞って徹底的に改善を重ねて確立させていくべきだと私は考えています。

―― 正垣会長は、飲食業の産業化、というお話をよくされています。

飲食業界は未だ産業化されていませんね。だから、他の業界と比較して賃金が低い。それでは良い人材は入ってこない。産業化できれば、生産性も上がり、賃金も上がり、そこで働く人々は、物理的にも精神的にも幸せになれる。それをやるために、自分たちはチェーンストアを作っています。

サイゼリヤの未来戦略

―― 今後の展開、たとえば海外展開について教えてください。

現在7個の海外法人がありますが、まずはその地域の方々に喜んでもらえるように展開していきます。また世界中の人たちに豊かになってもらいたいので、将来的にいろんな国にも展開できたらと考えています。

―― 農業の産業化というお話もありましたが……

そうです。これがチェーンストアの凄さ、計画生産です。小麦粉やトマトなど、食材がどれだけ必要かは全部わかっているので、それを世界中で一番作りやすくてコストの低いところで作ればいいのです。そうすると、種の段階から、自社で無駄なく使えて、お客様に一番喜ばれるものを作ることができます。結果として、どこよりも安くていいものが提供できるようになります。そうすることで、農家も計画的に無駄なく生産し、コスト削減できる。また、生産品を全て買い取ることで、農家の収入も安定します。

―― 今後、サイゼリヤ以外の新業態も出していかれる予定ですか?

サイゼリヤは、50年前から伸びてきた業態であり、必ず成長が止まる時が来る。世の中は変化しているから、今まで成功してきたブランドは必ず増えなくなり、時流に合わなくなる時が来て潰れる。そうすると、次の新サービス、かつ、今のサービスに関連したサービスが必要になってきます。例えば、小商圏でも成り立つ飲食店。少ない客数と従業員数で成り立つフォーマットが必要です。そして、店舗を簡単にたくさん出せるもの。なおかつ利益も出ていて、生産性も高く、産業化しうる業態。そういう業態を開発することが必要だと思っています。

―― 最後に、中小企業経営者、起業しようと思っている方向けに何かメッセージをお願いします。

「何のために、誰のために、やるか」です。世の中をより良くしていくこと。そして従業員のため、社会のため、国のため、世界のためにやっていくことが大事です。ビジネスをやることで皆が幸せになっていく方向に向かっていかなければならない。ビジネスとは、進化することなのです。