起業の先人に学ぶ(2018年版)

困難や苦労、失敗と成功…様々な体験を乗り越えて今に至る、起業以来の道のりを伺いました。

川上から川下まで。農業の変革に取り組むベンチャー企業「アグリゲート」

農業に縁もゆかりもない福岡出身の若者が見た、「若者が全く働いていない農村」の風景。農業に携わりたいと考え20代半ばで創業。農地で作物を作るだけではなく、都会で自らの手で売ることにまで取り組む。今までなかった農業ビジネスが動き出している。

株式会社アグリゲート 代表取締役CEO 左今 克憲氏
URL:http://agrigate.co.jp/

目次

川上から川下まで、農業の全てに取り組む

―― まず、アグリゲートが展開するビジネスについてご説明をお願いします。

大きく2つのビジネスをやっています。一つ目は、生産から販売までを手掛けるビジネスであり、SPF(Speciality store retailer of private label Food)と名付けています。ユニクロの食農業版みたいなイメージでしょうか。2つ目は、プラットフォーム事業と呼んでいますが、生産から販売までの各プロセスで接点のある事業者の方々に使っていただく、人材支援、マーケティング支援、IT支援のサービスをしています。

―― 生産から販売までを手掛けているということは、農場を持っていらっしゃるのですか?

はい。農場を持っています。それ以外にも仕入先としては、中央卸売市場、地方卸売市場、JA、農業生産法人、個人生産者、地域商社が含まれます。物流に関しても、センター運用を含め自分たちでやっている部分もあれば、外注する部分もあります。

―― 青果店を運営されていますね。何店舗を展開されていますか。

2018年3月現在で13店舗です。卸売りもやっていますが、売上比率で言うと9割がこの青果店の直販によるものです。

―― お店を拝見しました。規格外の野菜など大手スーパーでは売られていない野菜も売っていますね。

味は全く変わらないのに、ちょっと形が悪いということだけで廃棄されているものがあまりに多いのです。もったいないことです。その点をお客様にきちんとお伝えして販売しています。

―― 2つ目の事業の柱、プラットフォーム事業についてですが、人材支援とは具体的にどのようなものなのでしょうか。

コンサルティング、教育サービス、人材紹介、業務の請負というかたちになります。コンサルティングは、地方の農家や商社、農業生産法人がこれからどのような方向に進めばいいのかを指導しています。教育に関しては、弊社のノウハウをお伝えするというものになりますが、そこから、自分たちの事業にどう活かすのかを考えてもらいます。紹介と請負に関しては、実際に人を送り込むことも稼働し始め、業務の請負もしています。

―― マーケティング支援とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

主たるクライアントは地方自治体です。彼らが予算を使って地方の農産物を売り込んでいるのですが、販売先と距離のある状態でうまく行っていないケースが多いので、その点についての提案やアドバイスをさせてもらっています。

―― IT支援とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

生産者は、生産段階から出荷までのプロセスがアナログなところも多いので、全てのプロセスをITで管理していくという支援をしています。すでに私達自身で取り組んでおり、その経験と運用をもとにクラウド型サービスで提供しています。

農業に取り組もうと決意した大学時代

―― アグリゲートの創業の部分についてお聞きします。左今社長が農業や農産物を扱うビジネスをやろうと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

大学時代に東京から故郷の福岡まで、国道を通って2か月くらいバイクで旅行していた時に、どこに行っても田畑で若い人を全く見ないことに気が付きました。また、地方の疲弊状態を目の当たりにして、「なんとかしなければならない」との危機感から農業に興味を持ち始めました。

―― それで、青山学院大から東京農工大学へ転籍されたのですね。とはいえ大学まで移ってしまうというのは珍しいパターンだと思いますが(笑)。

そうですね。バイク旅行が終わったら、すぐに大学の編入試験のための勉強を始めました。

―― 東京農工大学を卒業後、農業系ではなく人材系の会社(インテリジェンス)に就職されています。

起業することは考えていたので、大学では研究室に入ることはせず、ベンチャー企業でずっとインターンをしていました。その経験の中で「ビジネスをやるには人が大切だ」ということを感じまして、就職活動では人材系の会社にいくつもアプローチしました。

―― 就職をして、そこでは何を得ましたか?

かなり勉強になりました。言葉は悪いですが「一人ブラック企業」のような感じで、言われなくても自ら様々なことに取り組んでいました(笑)。1年目は営業をやって、2年目は大手企業へ営業に行けるようになり、その活動の中で「どうして農業では人を集められないのか」の答えがわかるようになりました。農業は給料が低くて未来がない、と思われていたのです。

自ら現場に飛び込んで気がついたこと

―― その後、会社を辞めて起業しようと思われたきっかけは?

2年目の時に、社会人でも出られるビジネスコンテストに出て農業のプランを出した結果、3位に入賞しました。同時に、世の中の人は農業に対する知見が足りていないことに気づきました。自分自身もそうです。きちんとした知識を付けるには、現場に入ってやらなければ情報は得られないと痛感しました。

―― アグリゲートを創業されました。いきなり青果店をオープンされたのでしょうか。

違います。会社を辞めたものの何をやっていいかわからず、4年間くらいスモールビジネスをやっていました。例えば、野菜を仕入れて催事で売る、ECサイトを立ち上げる、農業生産法人のコンサルティングをやる、などです。農産物を年間1億円以上も売ると、それはもう神のような扱いを受けるんですよ(笑)。そういうことも知りました。

なぜ、いま青果店なのか?

―― それの後に取り組んだのが「旬八青果店」ですかね。お店のコンセプトを教えてください。

2012年に新婚旅行でニューヨークへ行きました。そこでホールフーズ・マーケットを見たのです。昨年Amazonに買収されて話題になったスーパーマーケットです。このホールフーズ・マーケットは、こだわったものを扱っているけれど構えてはいなくて、価格は少し高めです。全体のデザインとして上手くこだわりを醸し出している。この業態をとても魅力に感じ、それを日本風にアレンジしたのが「旬八青果店」です。「旬八青果店」はおしゃれに見えて、細部を見たら実はそうではない(笑)。あえてそのようにして、お客様が入りやすい演出をしています。

―― 旬八青果店は若い店員さんが多いのですが、大変フレンドリーな接客が印象に残りました。

接客は付加価値を付けられるところだと考え、力を入れています。私は「畑よりの知識を伝える」と言っているのですが、生産者が「この傷の付いた理由はどうだ」とか「この部分はこうやって食べれば美味しい」といった言葉を、丁寧に伝えるようにしています。

―― それから「旬八」というロゴがかわいいです(笑)。遠くからも目に付きますし、白地に黒文字が清潔感を与えています。絶妙なセンスを感じますね。

デザインは大事だと思っていまして、「旬八青果店」を作った時も、業態イメージは私とデザイナー、コピーライターの3人で創りました。私が、「旬八青果店はこういう概念で、こういう風に展開していく」という事業計画を語って、2人に理解してもらって作り上げました。

―― これまで旬八青果店の展開は順調だったのでしょうか?

実は、過去に23店舗を出店したのですが、そのうち10店舗を閉店しています。環境の違うところに出店し、どの立地だったらどういう結果になるとか、ノウハウを集めてきました。

―― 今後は何店舗まで広げる計画ですか?

2020年までに100店舗にしたいと思っています。全店舗が独立店舗である必要はないと思っています。4月上旬からはファミリーマートの一部店舗で「旬八青果店」コーナーを出す予定です。それを含めての100店舗です。

青果店は驚くべき高収益業態に変貌

―― 旬八青果店は儲かっていますか。

かなり儲かる業態になってきました。モデル店の月商は600万円ほどです。このモデルを手本にして、他の店舗のオペレーションの改善を図っています。そうすることで、営業利益率は25%くらい行くようになってきました。

―― それは素晴らしいですね。成功要因は何ですか?

プロセスに分解したときに、生産、物流、製造、販売があって、それぞれが筋肉質であったうえで、かつ、連携しているところだと思います。店舗だけではないのです。この取り組みは相当難易度が高く苦労しました。各店舗がモデル店と同じ水準の数字を出せるように、一気に走り始めた状態です。

―― もうひとつの業態「旬八キッチン」の位置づけや狙いについて教えて頂けますか。

「旬八キッチン」は成長ドライブになると思っています。そもそも粗利が高いですし、お客様と話をしていると「美味しい野菜をリーズナブルにすぐに食べたい」という要望が大変多いことを感じています。そういうニーズに応えていきたいと思いますね。もう一点、食品のロス(廃棄処分)をできるだけ出さないという機能も果たしています。

―― 「旬八大学」という講座もやっていらっしゃいますが、これはどういうものでしょうか?

これは創業理由にさかのぼるのですが、食に興味を持ってくれる人材をとにかく巻き込みたいという意図があります。どういう切り口でもいいので農業に接点を持ってもらって、優秀な人たちに農業の各現場で働いてもらいたいというのが狙いですね。

アグリゲートが見通す未来戦略

―― 今後のアグリゲートさんの戦略について教えて頂けますか。

旬八青果店は、初期投資が300~400万円で出店できますので、しっかり増やしていきたいと思っています。増やせるだけ増やして、東京をハブとした物流を作っていきたいですね。そのハブへの登録者や参加者が増えてきた時点で、プラットフォーム事業のサービスが立ち上がっていくのだろうと思います。

―― 海外展開の取り組みは?

はい、考えています。都市部での展開になるので、シンガポールなどの都市で一気に出していきたいと思っています。野菜に関してはタイやカンボジアで作り、日本でないと美味しく作れないものは日本から輸出したいと考えています。

―― 最後に、読者に向けて何かメッセージをいただけますでしょうか。

業界を俯瞰してとらえて、その構造の中でどう振舞うか、という考え方で取り組むことが大事だと思います。時間の変化とともに歪みがどこかに出てくるものです。私は農業にそのビジネスチャンスを見出しましたが、そんなチャンスは各業界どこにでもあるのだと思います。じっくり構えて、そういうチャンスを見つけてほしいですね。