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ウェブ経営指南
商標登録のすすめ
当社にて新商品を発売することになりました。商品名は今まで誰も使ったことのない斬新なものとする予定です。もっとも、もし他社が後追いで似たような名前の商品を販売しても、当社は商品の内容で勝負できますから、商品名についてわざわざ商標登録する必要はないと考えています。当社の方針に問題があれば教えてください。
商標登録を行なわない場合のリスクについてご説明します。
男性

解説者

弁護士 福間智人(ふくま・ちひと)、弁護士・弁理士 三和圭二郎(みわ・けいじろう)
いずれも理系学科出身ながら大学卒業後に司法試験を受験し、知的財産法務及び企業法務を専門とする法律事務所での経験を経て独立した。現在、企業法務全般について広く取り扱っているほか、特許、意匠、商標、著作権、不正競争等の知的財産法務に関し依頼者の相談に応じている。

目次

解説

【はじめに】

前回のレポート「経営知恵袋/商品・サービスの名称を定める際の留意点」では、「商品・サービスの名称を決める際には、商標調査を行ない、他社の商標権を侵害しないように注意しましょう」という主旨の話をご紹介しました。今回は、「商品・サービスの名称が定まったら、商標登録をしましょう」という話です。

経営者の方々の中には、「商標登録出願については商品が定番化してから検討すればよい」と考えていらっしゃる方もいるかもしれません。また、「商品の中身で勝負するため、敢えて商標登録出願はしない」という選択をされる会社もあるかもしれません。しかし、商標登録を行なわない場合には、経営基盤をも揺るがしかねない大きなリスクが存在しています。

特許、実用新案、意匠の場合は、他人が権利を取得しても、他人が出願する前から自社でその意匠等を使用しておれば、自社の権利が妨げられることはありません(特許法 第79条等)。しかし、商標の場合は、たとえ、他人の商標登録出願前から、その商品名を自社で使用していたとしても、他人の商標登録出願時に需要者の間で広く認識されていなければ、その商品名を自己使用できないとされています(商標法 第32条1項)。

商標制度は、商標に化体した業務上の信用、簡単に言うと商品名(サービス名も含む。以下同じ。)に付着したブランドを保護するための制度です。商標登録をすることで、第三者は同一・類似の商品・サービスについて同一・類似の商標を使用することができなくなり、ブランドが保護されます。ここに、商標登録を行なわない事に対するリスクが発生します。

【第三者による権利化のリスク】

まず、自らが商標登録をしなかった場合、同一の商品名について、後になって第三者が商標権を取得してしまうというリスクが存在します。「大丈夫、自分たちが先に使用していたのだから他人が商標権を取得できるはずがない」と言いたいところですが、特許、実用新案、意匠とは異なり、商標は他人が使用している商品名であっても、後から出願して権利を取得することが可能なのです。商標法には、特許法 第29条1項等に対応する規定がありません。したがって、貴社が最初に考え長年、実際に使用してきた商品名であっても、商標法上は、第三者が商標権を取得してしまう場合があり得ます。

ただし、既に貴社が使用している商品名が周知のこと(需要者の間に広く認識されていること)となった後であれば、第三者の登録を排除することができます(商標法 第4条1項10号)。しかし、周知の商標があるか否かについて特許庁が充分に審査できずに登録されてしまうことも珍しくありません。そもそも自己使用にかかる商品名が周知であることを証明することは容易ではありません。商品の販売実績が未だ充分でなく、第三者の出願時において自社商品名が客観的に周知でない場合は、商標登録していなければ、もはやどうしようもないというのが実情です。

【商品名が使えなくなるというリスク】

商標登録されていない貴社商品と同一名称の商標権を第三者が取得してしまった場合は、商標権を取得した第三者が他者から損害賠償を受領したり、ライセンス料を徴収したりするような事態を、黙って見ていなければなりません。商標権者であるというだけで貴社が築き上げたブランドを商売の種にされるのは正直腹立たしい話ですが、商標制度上はそういうことになります。

さらに、リスクはこれだけにとどまりません。本当に怖いのは、貴社が商品名を独自に考え自らの使用によりブランド価値を高めてきたにもかかわらず、貴社による商品名使用が、第三者の商標権に抵触するとして禁止されてしまう恐れがあることです。貴社が先に独自の商品名を使用していたとしても、未だ需要者に広く認識されていない段階で第三者が商標登録出願をしてしまえば、貴社はブランドに関する権利(商標権)を第三者に奪われてしまうばかりでなく、ブランドにかかる商品名を使用することすらできなくなってしまうのです。

【本当は怖い商標権】

商標制度がブランドを保護することを目的とする以上、単に登録しただけの商標権者の利益が優先され、商品名を最初に使用しブランド化した者の自己使用が禁止されるというのはバランスを欠くようにも思われます。しかし、商標制度の建前はそのようになっており、実際に裁判で争われたケースもあります。

例えば、有名なセキュリティ対策ソフト『ウィルスバスター』に関連して、偶然『ウィルスバスター』という商標について商標権を取得していた人が、ソフトの販売業者を商標権侵害で訴えたという事例があります。この事案では、商標登録出願時よりも前にソフトの販売が開始されていました。

特許の事案であれば、出願前にソフトの販売が開始されておれば、新規性(特許法29条1項)なしとして、そもそも特許権は発生しません。また、仮に権利化されたとしても、特許の事案であれば先ほど述べた先使用権(特許法 第79条)が認められるので、権利侵害とはなりません。

しかし、商標法には新規性に関する規定がなく、商標登録の排除又は先使用権が認められるためには「需要者の間で広く認識されている」必要があります(商標法 第4条1項10号、同32条1項)。この事案では、商標登録出願時におけるソフトの販売数が僅かだったため、「需要者の間で広く認識されている」という要件を満たしていないとして商標権侵害の問題が生ずることとなりました。

最終的に裁判所は、「形式的には商標権侵害に該当するものの、権利濫用に該当する」として商標権者側の訴えを退けています。もっとも、このような判決がなされた背景には、『ウィルスバスター』というソフトが全国的に広く知られている事実(「著名」といいます。)を裁判所が重視したためといわれています。学説上も、商標の認知度が「著名」であれば保護すべきだが、そうでなければ保護されない、という考えが主流です。この件も、もしソフトが「著名」でなかったら商標権者側が勝訴していたかもしれません。

【まとめ】

多少なりとも目端が利くライバル会社であれば、貴社の商品発売の事実を聞きつけるや否や自ら商標登録出願を行ない、権利取得後に商標権を行使して貴社の商品販売を妨害するという戦略をとってくることも充分に考えられます。

ブランド化した者が必ずしも保護されないという商標制度の現状が果たして妥当なのか、正直疑問に感じるところではあります。しかし、現状がそうである以上、商標権を取得しておくことは積極的に利益を得るためのみならず、自己使用という当然の権利を確保するためにも極めて重要であるといえます。転ばぬ先の杖として、なるべく商標登録出願はしておいた方がよろしいでしょう。

掲載日:2013年7月 4日
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