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明治・大正・昭和のベンチャーたち
第2回 「松永安左エ門 - 官に抗し9電力体制を築いた男(2)」

目次

贈賄容疑で留置所暮らし

 明治41年2月、安左エ門に転機が訪れる。終生の事業となる電力との関わりだ。その前年、安左エ門は株で大損し、その上に自宅は火災にあい、無一文となる。無一文の男が次々と事業を興す。後に安左エ門は「自分を見直す機会になった」と(私の履歴書)に書いている。逆境に立たされたことがかえって国家社会への奉仕を考える機会となったと胸を張るのである。石炭の買付、官営八幡製鉄所への石炭売り込み、炭鉱経営など、この時期、安左エ門は猛烈な勢いで働いた。電力事業との関わりは、知人に頼まれ、広滝水力発電の監査役に就任したことがきっかけだった。福岡市内に電気軌道(市電)を走らせることを企図し、福沢桃助を社長に据え、自らは専務におさまり福博電気軌道を設立した。運輸事業と合わせ沿線開発や娯楽施設などを併設したのは、電気軌道の事業で成功を収めた小林一三に倣ってのことであった。水力発電会社を吸収しながら、やがて福博電気軌道(後に九州電橙鉄道)は安左エ門の事業活動の拠点となることはよく知られる通りだ。

 他方慶應の先輩・桃助は木曽川周辺の水力に着目し、関西電力を設立するとともに、水力発電事業に取り組み始めていた。奇しくも慶應の先輩と後輩は、九州と木曽川で水力発電事業に着手するのであった。これが後の東邦電力の基礎となる。さて、安左エ門が電力業界の中央に出ていくのは、まだ先のことだ。まずは福博電気軌道を、文字通り軌道に乗せるのが先決だ。そのためには資金が必要。安左エ門は資金集めに奔走する。このとき桃助は必要資金の2割にあたる10万円をポンと出した。ようやく開業式にこぎ着けた、その矢先のこと、安左エ門は市議会議員に対する贈賄容疑で逮捕される。市電路線認可の斡旋を見返りに株を渡したという容疑だ。明治のリクルート事件というわけだ。事態を憂慮した桃助が動き、安左エ門は保釈されるが、この留置所暮らしを「自分にはよい勉強になった、麦飯も美味かった」と豪気に語っている。しかし、堪えたことは確かだ。

議会では「平和・人権・環境」を主張

 それでも博多では人気者だった。容疑も晴れ、大正6年に安左エ門は推されて、博多商業会議所会頭に就任する。安左エ門はまだ41歳。この年に衆院議員選挙に立候補し、見事当選する。市電を走らせた恩人に、博多の人びとは投票したのだ。議会での活動については、あまり多くの資料は残されていないが、際立つのは、シベリア出兵に反対し、陸軍大臣・田中義一を相手に激しく論戦を挑んだことだ。平和主義に立脚する安左エ門の主張はいまでも立派に通用する議論だ。さらに炭鉱事故が続発していることを取り上げ、安左エ門は「炭鉱資本家は自分の義務を怠り、労働者の犠牲の上に稼いでいる」と労働者の人権無視を批判し、政府に対応を迫る。他方では「瀬戸内海の小島が精錬で丸裸になっている」と環境対策の必要を政府に迫った。残念ながら安左エ門の政治家としての活動は、次ぎの選挙で中野正剛に敗れ、政界から引退するが、議会での活動は「平和主義・人権・労働・環境問題」などまさしく時代を先取りした定見を世間に示した。

 そのころ、福沢桃助は名古屋電橙の経営で苦闘を強いられていた。名古屋電橙の経営悪化に加えて、報償契約改定をめぐり名古屋市と緊迫した関係が続いていたからだ。そこで桃助は思い切った手を打つ。すなわち、本社を名古屋から奈良に移す一方で、関西水力電気と名古屋電燈を合併して、関西電力を再編発足させ、続いて九州電燈鉄道と関西電気を統合し、東邦電気を設立するのであった。桃助は、新会社の社長に九州電燈鉄道社長の伊丹弥太郎を、副社長に安左エ門を、それぞれ据えて、自らは身を引く決定を下す。桃助の思惑については諸説あるが、伊丹社長はいわば飾り物。その真意は最も信頼できる安左エ門に東邦電気の実質経営権を渡すことにあったのではないかというのが通説だ。しかしまたも社内抗争が勃発し、それを沈静させるため、安左エ門は本社を東京に移すという挙に出る。それがまた、以後に言われるところの「電力戦争」の始まりでもあった。東京に本拠を移すと同時に、安左エ門は全国制覇を目指す戦略を打ち出したからだ。この当たりの事情については、多くの評伝作家が触れているので、 詳細は省く。(つづく)

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