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創業者列伝
東成エレクトロビーム【上野 保】
時代の趨勢を独自の感覚でつかむ

上野 保社長

上野 保社長

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目次

"失われた2年間"反省し猛勉強家に

 上野が今でも悔やむ郷里で「失われた2年間」とは、高校2年と3年のときである。「高校1年のときまでは成績は良かったのですが、勉強しなければいけない時期に勉強を怠った後遺症が未だに続いている」というのである。「勉強をしていればもしかして一流の大学へ入れたかもしれない。おかげでこの歳になっても勉強する羽目になっています」と、上野は苦笑する。

 勉強を怠ったツケは、電気技師の父親と同じように電気技師の道を目指しながら大学の電気学科の入試に失敗したことでも、上野は大きな挫折を味わっている。こうした反省から社会に出て以降、猛勉強にいそしんだ。

 社会人となってからの上野の勉強の成果は次々と現れる。

 30周年記念式典で上野が語ったように、創業当時は「貸し工場に中古機1台、お客様ゼロ」からスタートするほかなかった。あるとき、中小公庫に融資のお願いをしたところ、厳しい指摘が返ってきた。「私自身は意欲に燃えて創業したのですが、『自前の工場用地もない、こんな脆弱な企業体質では安心してお付き合いできない。この土地に骨を埋める覚悟だと思えたら面倒を見ます』と、刺激的な言葉で突っぱねられたんです」と上野は、創業することとはこんな厳しい現実が待っているのかと身にしみて感じたという。

 一念発起した上野は、創業して5年後の1982年に土地を取得するとともに、1985年には本社工場を建設することができた。そして次に上野ならではの「長期経営戦略」を構築する。それは10年刻みの経営計画だった。最初の10年で自前の工場用地に工場ビルとハイテク加工設備を備える。20年後に羽村工場を建設。30年後の現在、初の自社ブランドを試作するとともに、郡山テクニカルセンターを操業することができた。そして40年後つまり今から10年後に第2、第3の自社ブランドを世に送り出す計画を描いている。

大企業の生産技術を肩代わりする「コーディネート企業群」

ep-retsuden2-009-3.JPG 創業当初の東成エレクトロビームの仕事は、電子ビームを使った溶接からスタートし、6年後にレーザー加工事業に参入する。といっても上野の技術はただのレーザー加工ではなかった。材料の表面に特殊な加工を施す「表面改質もできる」ことが強みだった。しかも、材料内部の品質を保証する非破壊検査まで手掛ける技術サービスを提供しているのだ。なぜ、上野の会社がこのような高い技術力を保持できるようになったのか。そこには上野の「技術哲学」ともいうべき中小企業ならではの「経営理念」がある。

 その技術哲学とは、設備投資に対する考え方にある。顧客である大企業の技術的ニーズに応えるため、常に世界最先端設備の1号機を導入する。こういう最先端の設備を使うことによって、創意工夫の加味された独自の加工ノウハウが蓄積されていくと考えているのである。

 上野はこのビジネスモデルを"三方一両得"と称している。大企業は自ら装置を導入することなく、最先端機で試作できること。装置メーカーは1号機の販売実績のほかに改善提案と営業情報を入手できること。また東成エレクトロビームにとっては秘密も堅持しなはがら良い条件で装置を導入できるメリットと加工費収入があるわけである。

 ところが、順調に見えていた事業も一時的に受注が減少してしまう。そこにはいくつかの複合的な理由があった。最大の原因はプラザ合意後の急速な円高によって、労働集約型製造業の海外への生産シフトが起こった。"空洞化"現象である。上野によると「これが日本の大きなターニングポイントになった」という。裏返せば「このとき、日本のものづくりの形態が激変した」と、上野は分析する。

 問題は大企業の対応にあった。企業にとってものづくりのシンクタンクである「生産技術部門」を廃止し、米国流の「事業部制」を導入したことによって「自前主義」の看板を降ろしてしまったのである。これに追い討ちを掛けたのが「選択と集中」の旗印の下で行なわれたリストラだ。この結果は悲惨だった。

 各プロセスの多くのエキスパートが転属となり、事業部も生産部門が海外にシフトされたことで、新製品を作るにしても試作品さえ自前で製造できない状況になった。だが、大企業が幾ら変わろうとも、中小企業の基盤技術のノウハウは蓄積されていったのである。

 上野は受注量が減ったのを機会に、大企業とのコミュニケーションを図り情報収集に努めた結果、こうした大企業の実態を知り、かつて大企業が自前で行っていた仕事を肩代わりすることを考えた。そして、高額な設備と大企業を凌駕する高い技術力を提供する中小企業の新たなビジネスモデルを確立したのである。中小企業が連携する「コーディネート企業」誕生の原点がそこにあった。そして、自社ブランド製品を生み出した「新連携」の第1号認定企業へと成功の階段を目指し上り詰めていく。(敬称略)

掲載日:2007年6月25日

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