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創業者列伝
オプトロン【渡邉 慧】
衰えぬ開発者魂

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目次

モノづくりで米国本社と対立

 渡邉が満50歳の誕生日を迎える数ヶ月前のこと。米国のボストンに本社のある大手材料試験機メーカーから日本法人社長ポストのヘッドハンティングの声がかかった。この誘いに素直に応じた渡邉は、数ヵ月後にボストン本社での面接に向かった。

 ボストンのホテルに到着すると、「日航機、御巣鷹山に墜落」の悲報を伝えるテレビニュースが流れていた。面接を明日に控えた渡邉には、何とも不吉なニュースに感じた。

 面接相手は10名の経営幹部。それも一人ずつ面接する方法だ。「皆同じことばかり聞いてくるので、いい加減辟易した」という苦い思い出が、渡邉の脳裏には今でも鮮明に残っている。

 日本法人の社長に就任はしてみたものの、会社は赤字経営そのもの。試験機メーカーといっても日本法人はただの販売会社。営業の経験のなかった渡邉は「苦労の連続だった」と述懐する。それでもわずか1年で黒字会社に再生させたことで、渡邉の苦労は報いられる。

 だが、米国本社はそんな渡邉の手腕を評価するどころか、経営方針を巡って対立を深めていく。モノづくりに対する当時の米国人と日本人の考え方の食い違いがくっきりと現れていた。自動車産業に代表されるように日本のモノづくりが隆盛を極める一方で、米国のモノづくりの衰退が顕在化する時代背景があったのである。

 「前任の社長が米国本社の社長に昇格したときから意見の対立が表面化したんです。材料試験機の日本語版ソフトは必要ないと言ったり、未完成の試験機を平気で送ってくるというデタラメさでした。その社長は米国の著名な大学出身のエリートと聞いています。かつてクライスラー社のアイアコッカ会長が『あの大学の出身には気を付けろ』と言ったという逸話が残っていますが、私もそんな感じを受けました」

 米国本社との対立が激しくなる一方だった渡邉は、3度目の大意見対立のとき、社長辞任を決意する。就任して2年近く経った頃のことだった。そんな折、またまた別の会社から誘いを受ける。これも渡邉の技術能力を見込んでのたっての願いだった。

起業に目覚めた運命の時

 渡邉にとって4度目となる最後の転職先は、日本IBMの元役員が副社長を務める、現在は東証1部に上場するセンサーメーカーだった。渡邉はこのとき、近い将来、センサーを事業の柱に据えて独立することになると、感覚的にひらめくものがあったという。技術者としてセンサーの将来性に関心を寄せていたのである。

 常務取締役兼技術本部長として、東京と名古屋にあった2つの開発部隊を統括する立場で転職した渡邉は、2年後には専務に昇格する人も羨む順風満帆な人生だった。しかし、渡邉は大きな組織で偉くなればなるほど、現場のモノづくりや研究室での技術開発とは縁遠くなるサラリーマンの宿命に耐え切れなくなっていく。

 渡邉は函館で写真館を営むごく普通の家庭の次男坊として生を受ける。写真の現像・焼付けはすべて少年の渡邉の仕事だった。真空管式ラジオを作るのが何よりも好きな"ラジオ少年"だったせいか、創意工夫してモノを作ることは、渡邉にはごく自然なことのように思えた。

 経営陣の一員に加わって4年が経過。退任を決意し日々を過ごしていた渡邉に、思わぬ誘いの声が寄せられる。

 「一緒に何かやりませんか」

 渡邉の満たされぬ技術者魂を察していたのだろう。声をかけてきたのは東京開発部の責任者で、後に渡邉の右腕となるオプトロン常務取締役の森田幸三郎からだった。

 渡邉が起業に目覚めた瞬間だった。(敬称略)

掲載日:2007年3月30日

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