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創業者列伝
ワテック【中村正治】
起業の第一は海外ブランドの確立!
中村正治社長

中村正治社長

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目次

カメラの技術革新に危機感

 勤めていたストロボ会社の2代目オーナー社長が体調を崩し、自宅療養に入ってひと月ほど立った頃のことだった。その社長が自宅から秘書を通じて幹部一同に廃業宣言したのである。

 今日のようにM&AやMBOといった手法や社内の有力幹部を後継者に指名したりする「事業承継」という発想もない時代である。社長にしてみれば後を継ぐ息子も親戚縁者もいない中での苦しい決断だったはずである。だが、後に残された社員には、その日からゼロからの再出発となる試練の日々が待っていた。

 東京の大田区に本社のあったその会社は、大手カメラメーカー各社を顧客とする中堅のストロボメーカー。決して業績が悪化していたわけでもなかったが、会社の将来性を考えるとカメラの目覚しい技術革新が経営の先行きに微妙な影を落としていたことも確かだった。

 当時、カメラにストロボを内蔵した「ピッカリコニカ」のテレビコマーシャルで、タレントの井上順が「ストロボ屋さん、ごめんなさい」という台詞で一躍、ヒット商品となったカメラをご存じの方も多いと思う。ライバルのカメラメーカー各社もピッカリコニカに負けじと、先を争うようにストロボを内蔵した一体型カメラの開発と販売に凌ぎを削っていた。

 このコマーシャルが話題となった後も暫くの間はストロボの販売は維持されていたが、「そう遠くない時期に単体のストロボは、一体型カメラに置き換わってしまうのではないか。」ストロボ会社で営業課長として外回りをしていた社長の中村正治は、直感的に市場の空気の変化を読み取っていた。

 当時専務だった五十嵐重美は開発の専門家の立場から、中村同様、カメラの技術革新が風雲急を告げていることを感じ取っていた。その矢先の廃業宣言だったこともあり、病気療養と称して事業に見切りをつけたのではないのかとの思いが脳裏をよぎったほどだ。社長には開発部門の最高責任者として、次の主力製品となる新しい技術の将来的な展開などを説明し、事業を継続するよう説得したのだが・・・。

取引先の支援で資金難克服

 廃業とともに五十嵐は6名の生え抜き技術者を引き連れてワテックを設立。一方の中村は同じ会社の先輩が設立した会社を手伝っていた。

 五十嵐は会社の部下6名を引き連れて独立はしてみたものの、仕事の中身は大手カメラメーカー開発部門の下請。カメラの電子回路設計をお手伝いする程度の仕事のため、収入はわずかなもの。独立して1年も経たないうちに資金難に陥ってしまった。

 会社設立の目的である超小型CCDカメラの試作品までは作れたが、事業化して生産に着手する資金の当てもない。前の会社の廃業があまりに突然だったため、しっかりとした財務戦略を構築する時間的な余裕がなかったのである。

 これを見兼ねたのが取引先のカメラメーカーや周囲の関係者だった。五十嵐のもって生まれた探究心と高い技術力を買って、資金的・精神的支援の手を差し伸べてくれたのである。

 こうした善意の支援を受けたワテックは、独立して2年後には超小型CCDカメラの事業化に乗り出すことになる。そして、会社を設立して6年後の1993年10月、五十嵐はナンバー2の経営幹部としてかつての部下の中村に白羽の矢を立てた。そして昨年(2006年)4月、中村に社長の座をバトンタッチし、会長に退いたわけだ。

 中村は元のストロボ会社で営業課長を最後に退職を余儀なくされた。しかし、中村は若いうちから営業に限らず会社組織のあらゆる部門で仕事を積み重ねてきた。

 「その会社には「役職1年制度」 というのがありました。管理職に備えていろんな部署を1年ずつ経験させる仕組みです。私自身も製造、開発、生産技術、資材、購買、営業といった具合に、いろんな職場を歩きました。つまり管理職になった時、現場を知らないで理想的なことばかり言っていては部下も白けてしまいます。どういう手法で作業を進めるかというのは、経験の中から出てくるものです」

 五十嵐はこうした中村の実績を高く評価したのだった。

 中村は五十嵐の人となりを次のように表現する。

 「会長室の壁に「好きこそものの上手なり」という直筆の色紙が飾ってあるんです」

 中村はワテックの創業者である会長のモノづくりに対する飽くなき思いを、色紙の言葉を使って端的に表現した。

 こうして見ると、創業者の五十嵐は技術畑、中村は事務畑との印象を受ける。だが、事実は全くの正反対。五十嵐は技術とは無縁で、大学で貿易を学んだ事務系出身。中村は大学で電気工学を専攻した技術者志望だったのだ。(敬称略)

掲載日:2007年2月13日

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