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創業者列伝
アルプスエンジニアリング【刀原 精】
お客様が使ってくれてこそモノづくり
アルプスエンジニアリングが開発した基盤ブレイク装置

アルプスエンジニアリングが開発した基盤ブレイク装置

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目次

ニッチ市場は先行開発がカギ

 「OEMの仕事では利益を出すのは並大抵のことではありません。だから工夫と苦労を重ねて自社製品を開発し、自分たちで販売することを最終目標にしているんです」

 世界の情勢や市場の動向を先取りして企業をどの方向に導くかを決定するのは、企業の大小を問わず、経営者にとって迷うところだ。ひとたび判断を間違えれば会社倒産ということも考えられる。だが、刀原は「開発についてはあまり技術者根性に捉われず、柔軟な考えを持って臨めば、そんなに難しくありません」と、いとも簡単に言ってのける。

 しかし、主力のマイクロブラスト加工事業が一時の3分の1まで落ち込んだ時には、さすがの刀原も「開発力だけでは生き抜けない。営業力、宣伝力の力不足を思い知らされた」という。この時、刀原が開発と同時に営業に力を注ごうと戦略転換を図った瞬間だった。

 まず、刀原が取り入れた営業ツールは雑誌の広告、東京開催の展示会、インターネットによる製品紹介である。有りふれた方法だったが、面白いように不特定の顧客をつかむことができた。

 中小企業にとっての開発製品は育てにくいのも事実。この経験から「中小企業のモノづくりとは『お客様が使ってくれてこそモノづくり』ということを頭に入れないと失敗します」と言い切る。独りよがりで製品開発しても売れなければ意味がないというわけだ。

 アルプスエンジニアリングの製品売り上げ構成をみると、依然としてOEM商品や特殊な専用機などが3分の2を占めている。残り3分の1が独自開発の製品。刀原は「これが将来成長の原動力となる分野だ」と自らに言い聞かせている。

 その一つがマイクロブラスト加工だった。名づけ親は刀原自身だが、今では業界の一般用語になっているほどだ。しかもこの装置の開発は、刀原の趣味が昂じて生まれたものだった。

 刀原は仕事が一段落すると、ガラスのコップやゴルフクラブに模様や名前を研磨材で吹き付けて彫るのが日課となっていた。最初はゴムをカッターナイフで切ったり、印刷した紙を貼るのに苦労しながらも製作に没頭した。やがて刀原の趣味が一気に事業化されるという劇的な瞬間が訪れる。PDP(プラズマディスプレーパネル)用の精密なフィルム状の液体が開発されたのだ。紫外線に当るとゴム状の薄いフィルムが形成できるようになったのである。

 早速、NHKが当時の一大イベント、長野冬季オリンピックを舞台にプラズマテレビの試作、公開準備をはじめた。期せずしてアルプスエンジニアリングに大手電機メーカーから共同開発の依頼が飛び込んできた。マイクロブラスト加工技術はプラズマテレビの実用化に欠かせない先端加工技術だったのだ。

 こうして長野オリンピックはプラズマテレビを通じて、世界中の人たちに選手達の熱戦の模様が鮮明な画像で届けられたのである。そして、このマイクロブラスト加工技術が現在も若い技術者たちに伝承され、世界一のブラスト工場、世界一のブラスト微細技術を支えているのである。

 次に開発に取り組んでいるのがレーザー加工と装置である。若い技術者たちが、新連携で取り組み蓄積され技術を核に、「新たな加工技術や装置をものにしたい」と情熱を燃やしている分野だ。今の刀原はこれら技術者たちが目指したい事をできるだけ実現可能にする段取りを取ることが仕事だという。

 「ニッチ市場であっても皆が他社より後れを取らないという開発意識を持つことが重要ですね」

販路開拓の主戦場は展示会

 「弊社を見る金融機関の評価が変わってきました。これは中小企業にとっては大きなメリットです」−。

 2006年10月5日、甲府市内で開かれた中小企業基盤整備機構主催のシンポジウム「新連携フォーラムinやまなし」に、パネラーとして出席した刀原は、会場を埋め尽くす大勢の聴講者を前に、「新連携」の支援を仰いだ印象をこう切り出した。

 だが、順風満帆に見える同社にも、研究開発型の中小企業らしい悩みはある。展示会に頼った営業方法もその一つ。シンポジウムでは「新連携に成功した企業として、国の予算でテレビ放映していただいた」と、知名度が高まったことに深く感謝している。

 しかし、いざ営業となると商社や代理店も使えない。製品そのものがマル秘の技術とノウハウの塊である。しかもユーザー自身も自社技術が外部に漏洩するのを恐れて、第3者の介在を嫌がるのだ。だからこそ社員が直接、営業活動のできる展示会が、営業の主戦場になるのだ。

 中小企業の弱点である知名度の低さ、販路開拓の難しさ、そして知的財産管理の問題をどう克服していくのか。アルプスエンジニアリングはこうした中小企業が抱える宿命的な課題に、真正面から挑んでいるといえる。(敬称略)

掲載日:2006年12月18日

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