トップページ  >  起業する  >  コラム・インタビュー  >  創業者列伝  >  シリーズ02:日本エクシード【橋本秀夫】文系社長の"モノづくり人生"

創業者列伝
シリーズ02:日本エクシード【橋本秀夫】
文系社長の"モノづくり人生"

目次

第1回「研磨加工に賭けた孤高の経営者」

橋本秀夫 社長

橋本秀夫 社長

ウェブサイトへ

提携話をソデに自主独立堅持

「ちょっと失礼」

秘書が差し出したメモを一瞥すると、日本エクシード社長の橋本秀夫は来客者に軽く会釈して静かに部屋を後にした。メモには電話の主の名前と電話番号が記してあった。

例年になく長い梅雨が明け、本格的な夏の到来を告げるかのように、朝から焼けつくような太陽の光が降り注ぐ8月始めのことである。

程なくして応接室に戻った橋本は、旧知の来客者に「よくある話なんですよ」と、電話相手の用件を掻い摘んで話し出した。

「資本提携を含めて、御社ともう少し緊密な関係を構築したいので是非お目にかかりたいと思います。社長のご都合のよい日取りを教えていただきたいのですが・・・」

「分りました。それでは○月○日の午後○時に有楽町の○○ホテルロビーでいかがでしょうか」

電話の相手はICメーカーで、日本エクシードにとって大口取引先の副社長だった。むげに断るわけにも行かない。そこでホテルを指定したという次第だ。

茨城県常総市に製造拠点を構える超精密研磨加工会社の日本エクシードは、携帯電話に使われるデバイスの基板材料分野だけでも世界シェアの3割を誇る。大手取引先が喉から手が出るほど同社を欲しがるのも無理からぬ話である。

「こういう提携話は会社が未成熟だった昔からありました。取引先ですからお話は伺っていますが、丁重にお断りしているんです」

材料やデバイス業界はここ3〜4年、研磨から加工まで一貫化を進める傾向が強まっている。研磨の技術情報を引き出して、デバイス会社が自ら研磨を始めたり、既存の研磨会社を吸収するケースも少なくない。材料のライフサイクルも短く、ある日突然、注文を打ち切られることも珍しくないという。まさに生き馬の目を抜く厳しい競争に晒されている業界である。

橋本はこれまで同業者が大手企業と資本提携した結果、その企業に吸収されて、一事業部門になってしまった例を幾つも見ている。

このような合併・統合が繰り返された結果、今では独立独歩の研磨加工会社は数えるほどしかなく、業界団体すら存在しない有様なのだ。

「大手企業の傘下に入って、従業員が幸せかどうか疑問に思うんです」

"3社融合"の経営理念貫く

橋本が中国山東省の共産党幹部から工場進出の誘いを受けたのは、今から5年ほど前のことだった。橋本が現地を訪れると、驚いたことに中国側はすでに山東省の一等地に工場用地まで確保していた。

中国側の提案は現地に合資会社を設立すること。これに日本エクシードが研磨加工設備の現物出資と技術協力をするという内容だった。この申し入れにも橋本は躊躇した。

「簡単に応じると、中国側はどんどん増資を提案してくることは目に見えていました。資金力の小さい中小企業の我々が果たしてどこまで増資に応じていけるのか。過去の失敗事例を幾つも聞いていましたので、下手に手を出せば火傷をすると思いました」

「誘いをお断りすると、その共産党幹部は非常に残念がっていました。1年間の猶予を置くから考え直して欲しい・・・とね」

日本エクシードの経営理念は、3つの社を守る「3社融合」を実践することにある。社会があって、会社があって、社員がいて・・・。

国内外で提携の誘いを断った2つのエピソードは、経営者としてこの3社融合の理念を忠実に守っている象徴的出来事である。

この考え方に立てば当然、株式を上場する予定もない。

社員が経営理念を守る「心のよりどころ」になっているものがある。110人の社員による「社員持株制度」である。資本金8500万円のうち東京中小企業投資育成が29%を出資しているが、それ以外は全て社員持株だ。橋本も株主の一人だが、持株比率はわずか数パーセントに過ぎない。

橋本は創業者的人物だが、3代目のサラリーマン社長なのだ。(敬称略)

第2回「非同族経営誕生の秘話」

研磨・洗浄装置

研磨・洗浄装置

集積回路(IC)に魅せられて

橋本が昭和45年7月、日本エクシードに入社したキッカケは偶然の賜物だった。明治大学商学部在学中に志していた公認会計士の国家試験に失敗。橋本は仕方なくして留年して大学の特別会計研究室に籍を置く。そんな橋本に、大物公認会計士として知られていた先輩が声をかけた。「私が顧問している会社に集積回路(IC)を扱っている面白い会社がある」と言って、橋本に紹介した。東京・新宿に本社があった日本エクシードの前身、川口光学測器だった。

高度成長華やかな当時は、集積回路という言葉に先端技術時代の到来を予測させる響きがあった。

「私にも多少、知識がありましたし、何となく将来性のありそうな会社だなという感じでした」

まだ若かっただけに単純な見方であり感覚的なものだったかも知れないが、この直感は後々、見事に的中することになる。

橋本の生家は東京・向島の下町。今話題の第2東京タワー建設予定地からは目と鼻の先だ。包装材料販売店の四男坊として育った橋本は、親の勧めもあり子供の頃から公認会計士になることが既定路線でもあった。

しかし、当時の向島は町工場の密集地。お店に出入りする大人達はプレス屋さん、金型屋さんの職人や町工場の主ばかり。子供心に否が応でもモノづくりを身近に感じる街だった。

そんな環境で育った橋本には、製造業で技術者や技能者と共に働くことに何ら違和感はなかった。それどころか、職人達に親近感を覚えていた。

3代目のサラリーマン社長

橋本が3代目の社長に抜擢されたのは平成3年。弱冠45歳。サラリーマン社長としては異例の若さだ。

当時、日本エクシードは創立30周年という節目の年。会社の寿命30年説が話題となった頃のことだ。しかも平成3年はバブルのはじけた年。最悪の経済環境下で社長になった橋本がまず第1に考えたのは、会社を潰さずに継続させること。第2に後継者を育てることだったという。

「同族経営は会社のDNAとして馴染めない。会社は後継者作りのプロセスで企業価値を高めていく。それが社長の役割であり使命だ」と、橋本は心に刻んだ。

橋本がなぜ社長に抜擢されたのか、なぜ非同族会社になったのかについて、橋本は当時を振り返る。

「初代社長は匠の技術を持った根っからの職人でした。高度成長の追い風を受けて急成長を遂げたのはいいのですが、事業欲も大変旺盛で他の仕事に手を出し過ぎてしまい、ついに昭和50年に退陣に追い込まれたんです」

よくある話ではあるが、同社にとって幸運だったのは2代目となる中興の祖の登場だ。

「2代目は私と同じ文系社長ですが、他社からエグゼクティブとして迎えられた人で、創業者とは打って変わって堅実な経営者でした。16年間社長を務めてから私にバトンタッチすると、会社からは完全に身を引いてしまった。なぜ、私を抜擢したのかといえば、恐らく(経営に対する考え方が)似ているからでしょう」

橋本は多くを語らないが、2代目社長と似ているのは経営理念だけではない。2代目社長が橋本の仕事に取り組む姿勢に「私心のない」凜とした潔癖さを感じ、深く信頼したのではなかったか。

「2代目社長の時代から同族会社ではなくなったわけです。ただ、非同族であるが故に同族とは違う強みもありますし、弱みもあります。当社は同じ中小企業の中でも大分、様子の違う会社だなと思っています」

経理担当として入社した橋本は、子供の頃から育んでいたモノづくりに対する愛着が、入社してわずか3年にして専門の経理を投げうって研磨加工の現場を志願することになった。

文系社長の「モノづくり人生」の始まりである。(敬称略)

第3回「自主独立!」

クリーンルーム内

クリーンルーム内

技術進化に隔世の感

橋本が自ら望んで現場作業に入ったのは、かれこれ30年以上前のこと。橋本は当時をこう振り返る。

「IC基盤の研磨は凄く魅力的な仕事でしたね」

材料がまだゲルマニウムからシリコンに代わってあまり時が経っていない頃だった。

「シリコンの基板を研磨加工できるメーカーは日本には他に無かったので、日本エクシードは町工場とはいえ脚光を浴びていました。だからやっている仕事に非常に興味と魅力を感じました。そうでなければ多分この会社に就職しなかったと思うんです」

この間の研磨加工技術や半導体技術の進歩には著しいものが有り、今振り返ると隔世の感があるという。

「現在、シリコンウエハのサイズは300mmが主流になってきましたが、当時は50mmが中心でした。研磨方法は光学レンズ研磨技術の応用です。今思えば、よくあれでICが正常に作動したものだと妙に感心してしまうことが多々あります」

「天然の松脂でウエハを貼り付け、怪しげなパウダーで研磨したあと、水道水で研磨剤を洗い落としたりと、いかにも原始的な方法です。それからウエハを基盤から剥がし、トリクロールエチレンなどの有機溶剤で洗浄し、フロンで蒸気乾燥させるのです。研磨装置に至っては、光学式の恐ろしく生産性の悪いもので、仕上げ用の研磨盤には光学用のピッチ皿を使い、研磨室になると二重構造の窓枠とはいえ鉄製や木製だったため、風の強い日には遠慮なく砂埃が入り込みました。もちろん、空調はごく普通のパッケージ型エアコンで、クリーンルームなんて考えも及ばないような状況でした。当然、半導体加工用のエア管理なんかできていません」

変わらない精度出し匠の技

半導体業界や研磨業界では微細加工技術への追求が進み、ウエハにも平坦度や清浄度への要求が飛躍的に高まってきた。こうした背景から研磨加工の方法にも目覚しい進化が見られたという。

「例えば出荷するウエハに付着する汚れのレベルを比較しますと、当時は目視のみで合否が判定されていました。今では目視では検出できない0.1μmクラスの付着物や原子レベルでの金属汚染を数値化した規格が設定されています。ですから作業衣は爪先から頭のてっぺんまで完全に包んでしまうので、髪の毛1本落下しない。まるで宇宙服を着ているような防備です。作業室は当然、全てクリーンルーム。洗浄で使う超純水は殺菌装置を通過させるのでランニングコストはべら棒に高くついてしまいます」

この話から先端産業の一翼を担う研磨加工のかなりの作業が装置化・電子化されたことが窺える。しかし、橋本は「装置や加工素材の微妙なクセを見抜いたり、精度出しの基本的な力量は、匠の技が不可欠なことは30年前と何ら変わりがありません。だからこそ超平坦・超平滑・超清浄・超薄化という5つの超を技術と技能により、研磨の世界を極めることができたのです。漫然と作業していると、技術的に"置いてきぼり"を食ってしまいます」と、最後の決め手は人材とその人たちが長い期間をかけて培った匠の技にあることを強調する。

研磨加工の技術進化は、クリーンルーム、製造装置、検査装置など、最新鋭設備の導入などに莫大な資金が必要である。

「先端産業というのは半導体や携帯電話のように生産規模も大きくなってきますし、要求される精度も高まります。装置そのものも機能的にすぐ陳腐化し、あっという間に買い替えの時期が来ます。並の投資じゃやっていけなくなる。同業者が、大手取引先の傘下に入らざるを得ないワケはそこにあるんです」

そんな厳しい業界で、なぜ日本エクシードは自主独立を堅持していけるのか。誰もが思う疑問だ。橋本は次のように説明する。

「当社は材料やデバイスメーカーより高い技術があると自負しています。彼らも当社に発注せざるを得ないんです」

だが、技術力を誇る同社には有効な特許技術というものが皆無である。あるのは長年培った研磨加工に関する数々のノウハウと、それを活用する技術者・技能者集団だけだ。そして、ノウハウを護り後輩達に伝承する日本エクシード独自の知的財産戦略が今始まろうとしている。(敬称略)

第4回「隠されたノウハウ保護作戦」

研磨されたウエハー

研磨されたウエハー

忍び寄る国内外の技術競争

「量産品であろうと試作段階の製品であろうと、必ずお客様の使えるレベルまで仕上げます」

日本エクシードの「売り」用語である。

シリコンの他に2、3種類の材料を研磨加工する会社はある。しかし30種類もの量産品を研磨加工できる技術力のある会社は、同社以外に存在しない。だからといって、価格決定権を握れるかといえばそうとは限らないのがこの業界だ。

シリコン市場の規模はおよそ9000億円。半導体関連産業といっても、同社が手がける分野はせいぜい500億円といったところ。新しい市場が創出されても大手材料メーカーなどの研磨加工部門が後追いですぐ参入してくる。同社は技術的にギリギリのところで優位な立場に立っているに過ぎない。まさに薄氷を踏む思いなのだ。

ここ3、4年の傾向として、大手取引先が研磨から加工まで一貫化する動きが顕在化している。研磨の技術情報を引き出し、自分で始める例は後を絶たない。

海外の動きにも目が離せない。

「中国でもシリコンを扱える材料メーカーはどんどん増えています。日本の中古機械が海を渡っていますので、非常にスペックの低いニーズというのはかなりあります」

「問題は韓国と台湾です。韓国は半導体産業などの躍進を受けて、加工技術はすでに日本を凌いでいます。台湾企業は日本を上回る研磨加工技術を持っています。こうした台湾の技術が続々と中国へ進出しているので、いずれも中国も侮れない競争相手に育ってくると思います。彼らに共通するのは、経営の意思決定が早いことです」

公証役場に知財管理拠点

国内外で大きな広がりを見せる技術競争。知的財産管理の必要性は日本エクシードにとっても差し迫っている。

「10年ほど前、産業技術総合研究所の協力で特許を取得したことがありました。しかし研磨技術で特許を出願するというのは、得策ではないことが分かったんです。加工技術という性格上、同業者に真似されたかどうかも分からないし、もし真似されても実証できません」

橋本はそれ以来、特許出願をストップした。だが、他社がすでに存在する技術について出願し、その技術の使用を不許可とする忠告を受けたらどうする。特許の先願主義に対抗するにはどう手を打つべきか。形のハッキリしない独自の技術ノウハウを伝承していく観点からも、緊急を要する重い課題である。橋本と同じように思い悩んでいる加工型の中小製造業も多いはず。

「その技術を何年も前から使っている作業記録表をしっかり残してください」

橋本が藁をも掴む思いで相談した弁理士団体幹部の答えは明確だった。

「公証役場で作業記録表の受理番号に押印してもらうだけで、後で技術ノウハウを利用していたことが証明できます」

あっけないほど簡単な手続きである。

「ノウハウ重視の会社にとっては、一番いいやり方だと思います。現在、社内でノウハウって何だろうという議論をやっています。これまでノウハウだと思っていた技術がノウハウではなかったり、逆にノウハウでも何でもないと考えていたものがノウハウとして認められたりと悲喜こもごもです」。「今年度内には公証役場にノウハウを一括して届ける予定です」

どんなに技術力があっても、それを支える技術者・技能者が育たなければ維持できない。この面でも日本エクシードの人材育成策は独自性を如何なく発揮している。

「事業は人なりにと言いますが、私は人が育てば技術はついてくると言っています。特別な人材育成法がでるわけではありませんが、2通りの人材育成を心がけています」

橋本のいう2通りの人材育成の1つは会社の底力となる加工技術のトレーニング。今1つは市場の要求に応えられ、かつ会社の進路を定めていく技術開発者の育成だ。

人材育成を制度化したのが技術者・技能者を対象とした独自の「職能等級制度」。

「制度そのものは古くからありましたが、賃金制度と結びついていなかったため絵に書いた餅のような制度でした。そこで目標管理制度と一体化して今日の制度がうまれたのですが、まだ満足はしていません」(敬称略)

橋本の挑戦はまだ続く。

掲載日:2006年12月 4日

  • googleplus
  • hatena
  • pocket
  • line
  • evernote
Copyright © WizBiz Inc.
このコンテンツの著作権は、WizBiz株式会社に帰属します。著作権の承諾なしに、無断で転用することはできません。
このページの先頭へ
起業するコンテンツ一覧
  • 事業計画作りや実際の起業準備そして開業まで。起業を目指す人の『こんな時どうする?』に応えます。

  • 法律知識や経営診断など、起業準備段階はもちろん、実際に起業・開業してからも使える豊富な情報を掲載。

  • 起業・開業を考えている職種の消費者利用動向がすぐにわかる、職種別データ一覧。

  • 200以上の業種・職種から選べる開業準備手引き書。

  • 最新のビジネストレンドや中小企業が直面する経営課題など、読み物コンテンツをまとめています。

  • 若手起業家にインタビュ—。「社会人起業」と「学生起業」それぞれの選択を対比しながら起業のカタチを探ります。

  • 『国の補助金を活用して創業するには?』についてご説明します。

  • 賃貸施設とインキュベーションマネージャーによるサポートが受けられる、中小機構の起業支援事業を紹介しています。