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注目のニュービジネス
「しおサイダー」に能登復興の夢を託して

地域資源を生かした"地サイダー"が全国各地でつくられている。その中の一つ、石川県珠洲(すず)市の塩の資料館「奥能登塩田村」が展開する「しおサイダー」は年間25万本を販売する大ヒット商品となっている。

目次

資料館がサイダーをつくる

20120105_1.PNG 近年、ブームと言える様相を呈する地サイダー。各地で地域の特産物の魅力を詰めた地サイダーが誕生している。だが「その多くは年間販売数1万本程度に止とどまっている」と、塩の資料館「奥能登塩田村」を運営する会社組織の奥能登塩田村でインストラクターを務める吉田翔氏は語る。

 吉田氏は奥能登の地サイダー「しおサイダー」を仕掛けた人物である。このサイダーは地サイダーの平均を打ち破り、発売から1年で25万本超のセールスを記録している。

 この驚くべきヒットについて吉田氏は「400年の歴史を持つ塩田の塩が決め手」と語る。「ほんのりとしょっぱくて甘い」と幅広い世代に好評な「しおサイダー」は、塩田の塩なくして生まれなかったという。

 「奥能登塩田村」という施設の存在が示す通り、一帯は昔から塩づくりが盛んだった。江戸時代から続く伝統的な「揚げ浜式製塩」による塩づくりを今も行う日本で唯一の場所だ。これはほとんど機械に頼らず、人と自然の力でつくる製塩法だ。

 細かい砂を敷き詰めた塩田に、人力で汲み上げた海水を手桶でまく。天日でこれを乾燥させた後、塩分を含んだ砂を集める。この砂に海水をかけて塩分濃度の高い水にし、さらに釜で煮詰めて塩の結晶を取り出す。こうした辛抱強いプロセスを経てようやくわずかな量の塩ができる。

 「奥能登塩田村」は塩づくりの体験施設「道の駅すず塩田村」を管理・運営する会社として出発。訪れる人に能登の揚げ浜式製塩を知ってもらう。そんな役割を担ってきた。

半島地震から復興のために

20120105_2.PNG だが2007年3月に起こった能登半島地震の影響で観光客は激減してしまった。また、重労働を伴う製塩は後継者の不足に悩まされ、先行きが危ぶまれていた。

 そこで吉田氏をはじめとする「奥能登塩田村」のインストラクターたちは、「塩」を核に、能登の震災復興をできないかと考えるようになった。唯一無二の揚げ浜式の塩で商品開発を─そんな構想が生まれた。

 そんな中、吉田氏は近年の「塩スイーツ」ブームに目をつけた。スイーツに塩を使うことで甘みを引き立てるという発想だ。揚げ浜式の塩は通常の塩と違い、海水のミネラルやカリウムを豊富に含む。この味わいがあれば十分に勝算はあると思えた。全国的な地サイダーブームを意識して「塩を使ったサイダーを開発しよう」と話が進んだ。

 だが、最初は塩田の職人たちからの理解が得られなかった。能登の製塩法は国の無形文化財にも指定された格式がある。「それをサイダーに使うのはイメージが悪い」という。開発は09年8月に着手し、塩分濃度の違う何種類ものサイダーをつくって試飲した。スタッフだけでなく一般の人にも飲んでもらい、最もおいしい塩分濃度を割り出していった。

 「1本340ミリリットルの中に1グラムの塩が最適だった」と吉田氏は苦労の結果を明かす。

 たった1グラムで塩の風味が出ることがわかり、「コクがあるのに後味がすっきりしている」との声が広まった。同時に「塩が甘みを引き出すので砂糖を控えられた」(吉田氏)と、思わぬ効果もあった。

 そんな一般の人たちの反応に職人たちも納得して協力を惜しまなくなったという。

 09年11月に完成した「しおサイダー」は「塩」の文字をあしらったラベルで売り出した。1本340ミリリットルで価格は200円。初回生産は2万本だった。

販売プロセスに地元紙が密着

20120105_3.PNG 一般的にサイダーなどの飲料を広く売ろうとする場合、「広告費がかかる割に利幅が少なくなりやすい」と吉田氏はいう。

 そこで「しおサイダー」を販売するにあたって最初の1年間は広告費をかけない方針を採った。その上で「1年間で10万本販売する」という難しい目標をあえて掲げた。

 広告を打たない代わりに用意した作戦は、地元メディアでの露出だ。「1000本売れた、5000本売れた、1万本に到達したといった風に、販売の過程を地元メディアにドキュメンタリーで追ってもらおうと、継続的に情報提供をした」

 その作戦が成功し、地元紙や情報誌が取材に来るようになった。「伝統的な製塩産業を救う」というコンセプトも地元の理解を得る助けになった。「もともとは観光客向けにつくった商品だが、地元スーパーで数多く取り扱われるようになった」(吉田氏)

 こうして初回生産分の2万本はすぐに売り切れた。そして10万本の目標も達成。

 10年の夏は猛暑のため、塩分と糖分をほどよく含む「しおサイダー」は熱中症対策の一品として地元に愛飲者を増やした。学生がスポーツ後に飲む光景も見られたという。

 また弱めの炭酸が功を奏して子どもにも人気が出た。サイダーを懐かしむ年配の人から、若い世代まで、幅広い年齢層に受け入れられるようになっていった。

 発売から1年となる10年11月には販売数25万本を突破。当初の目標をはるかに超える売れ行きを記録した。

 さらに「しおサイダー」の快進撃は続く。10年の年末には、ついに海外に進出した。香港で催した試飲会で好評を博し、「サイダーは外国人にも受け入れられやすい」という実感を得た。

 奥能登で受け継がれてきた伝統の塩。それが「しおサイダー」に形を変え、今まさに世界に飛び出そうとしている。

●会社概要

企業名 奥能登塩田村
所在地 石川県珠洲市清水町1-58-1
従業員 20人
電話 0768-87-2040
URL http://www.okunoto-endenmura.jp/
掲載日:2012年1月 5日
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