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注目のニュービジネス
失敗作から生まれたマグロの生ハム

黄金色に輝き、なめらかな食感の「海の生ハム」。ワインばかりでなく、日本酒や焼酎、ウイスキーなど、種類を選ばず、いい酒の肴になる。実は、試作中にできた失敗作が、大人気を呼ぶヒット作へと変身した。

脇口 光太郎氏 脇口 光太郎(わきぐち こうたろう)
1967年和歌山県生まれ。和歌山県立新宮高校、関西経理専門学校卒業。95年ヤマサ脇口水産に入社。04年社長に就任。05年に南紀勝浦漁協食品を設立し、社長に就任。

目次

高級寿司店が指名買いする近海マグロを使用


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「あれっ、これは何だ?」3年前のことだ。イタリアのシチリア島に伝わるマグロのハムづくりに挑戦していたヤマサ脇口水産(和歌山県那智勝浦町)の脇口光太郎社長は、こう叫んだ。本来は、もっと固くなるはずだったマグロのハムが、生ハムのようにやわらかく仕上がってしまった。

マグロのハムは、イタリアではパスタなどによく使われているおいしい食材である。しかし、試作に失敗してしまったのだ。「でも、これが非常においしかったんです。それなら方向転換して、この生ハムを作ろうということにしました。しかし、失敗作品ですからもう一度作ろうとすると、なかなかうまく作れない。結局、同じ商品を作るために研究を開始し、満足な商品を作り上げるまでに2年もの年月を費やしてしまいました」と脇口社長は振り返る。

2006年から本格的な生産に入ったが、07年にはビール会社のキャンペーン・プレゼントにも選ばれ、人気に火が付いた。インターネットを中心にクチコミで評判が伝わり、今では、生産が間に合わないほどの売れ行きを誇る。

ヤマサ脇口水産が中卸をしている和歌山県の那智勝浦港は、日本一の生マグロ水揚げ量を誇る港である。近海マグロは、青森・大間産が珍重され、時には1尾数百万円もの値がつくことがあるが、通の間では那智勝浦のマグロの方がうまいという説もある。それは、那智勝浦付近の近海マグロは、ちょうど産卵前の時期にこのあたりまでやってくるため、身もたっぷりと肥えていて、最もおいしいといわれているからだ。

東京・銀座の高級寿司店のなかには、わざわざ那智勝浦産のマグロを指名買いしている店もあるほど。それも活きじめ(釣ってすぐに殺して血抜きをする)をしているため、身の締まりがよく鮮度が落ちない。まさに絶品のマグロが港に水揚げされている。

燻煙を当てる期間は10〜15日間と長い

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仲卸業者であるヤマサ脇口水産が、なぜマグロの加工食品を作ろうと思ったのかというと、マグロ相場との関係がある。珍重される近海マグロは、価格も高いうえに値の浮き沈みが激しい商品。値が高い時にはいいが、たくさん獲れて値崩れをした場合には、売れ残り品が出る可能性がある。そこで、加工食品にして付加価値をつけて売ることが求められた。だが、仕入れ値も高いため、あまり安いものは作れない。だから高級感のあるマグロのハムに挑戦したのだった。

「生ハムを完成させるまでの2年間の研究期間は、まさに試行錯誤の繰り返しでしたね。色々な種類のマグロを使い、燻製前に漬ける調味液や燻製方法も変えて挑戦し、最もおいしい生ハムにたどり着くまで、1000万円分以上のマグロをダメにしてしまいましたよ」(脇口社長)
 ついに完成したマグロの生ハムは、黄金色に輝き、舌の上でとろけるような食感が自慢の品。商品名は「海の生ハム」とした。

苦労したのは、調味液と燻製方法だ。最初の調味液は、豚肉の生ハムの調味液を参考にしたが、しょっぱくて素材の味が感じられなかった。最終的には、少なめの塩と昆布のだし汁から作った調味液にたどり着いた。

燻製には熱い煙を当てる熱燻、それよりも少し温度が低い煙を当てる温燻、5度以下の煙を当てる冷燻があるが、生ハムは冷燻で仕上げる。海の生ハムは、燻煙をしみ込ませながら熟成させるのに10〜15日間も要する。この間、腐りやすいマグロを腐らないようにするのが、なかなか大変だったという。そのため、低温を保ったまま燻煙を当てる機械を開発した。この装置が商品づくりの根幹になるため、仕組みは企業秘密になっている。

マグロの種類も色々なものを試してみたが、現在は、最高級の天然クロカジキを使用。それも天然クロカジキならどれでもいいわけではなく、そのなかでも弾力がある生ハムに適したものを選ぶ。使えるのは全体の3〜4割しかないという。

多くの注文に応えるため生産ラインも増設

独自に販売店を構えているわけではないので、今は通信販売会社やインターネット販売会社への卸が中心。また、大阪の高級ホテルであるリーガロイヤルホテルが行なっているサイト「グルメショップ メリッサ」でも扱っている。

このサイトは、味はもちろん、こだわりがあるものでなければ、取り上げてもらえない。そのほか、高級料亭、高級レストランにも直におさめている。クチコミにより味が評判になり、マスコミにも数多く取り上げられたのも知名度アップに大いに役立った。ある雑誌の特集では、著名なシェフにベタ惚れされたそうだ。

人気の理由のひとつにネーミングがあるのではないだろうか。「海の生ハム」。いかにも高級感が漂うその名前は、脇口社長の友人である塚本勝巳教授(東京大学海洋研究所)が命名。塚本教授は昨年、世界で初めてマリアナ沖でウナギの産卵場を見つけた学者として、一躍有名になった人だ。現在、たくさん舞い込む注文に応えるため、生産ラインも1つ増やし、増産体制に入っている。

ヤマサ脇口水産では、「海の生ハム」の販売を拡充していくために、05年10月に勝浦漁協と一緒に新会社「南紀勝浦漁協食品」を設立。脇口氏は、両社の社長を務め、全国を忙しく飛びまわっている。

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●会社概要

企業名 ヤマサ脇口水産
所在地 〒649-5332
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町築地6-6-9
設立 1995年
資本金 1,000万円
売上高 8億円
従業員数 20人
事業内容 鮪廻船問屋、生鮮鮪仲卸、鯨肉仲卸、水産加工品
URL http://www.uminonamaham.co.jp/


掲載日:2008年5月29日

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