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業界レポート
数字が語るこの市場の深層【来日外国人旅行市場】

我が国が成長戦略の一環で、外国人を呼び込む観光戦略を本格化し始めて6年余。この間、東日本大震災の影響で急減した外国人の客足は回復の兆しを見せるものの、領土を巡る対立を抱える中国・韓国からの集客は低迷。「観光立国」戦略は試練に立たされている。

目次

来日観光客の足取りは回復の兆し

来日外国人旅行客の近年の推移をみると、天災や景気、国政情勢に翻弄されてきた経緯が見て取れる。観光庁「訪日外国人消費動向調査」によると、2000年代に入って訪日旅行客数は着実に伸び始め、我が国が「観光立国推進基本法」を制定した2006年は733万人と初めて700万人を突破した(グラフ1)。

グラフ1:来日外国人旅行客推移グラフ1:来日外国人旅行客推移

翌2007年、2008年は800万人台に到達。国は2008年に観光庁を設置。日本政府観光局(JNTO)も海外旅行会社に対し、日本向けツアーの企画・販売を促進したり、海外メディアを通じた広報活動を展開したりするなど、外国人観光客誘致に本腰を入れた効果が出始めていた。

2009年は前年の世界的金融危機による景気後退や円高、新型インフルエンザ流行の影響で、679万人と18%も減少。同資料によると、2ケタの落ち込みはプラザ合意で円高が急激に進んだ1986年以来という異常事態に見舞われたが、翌2010年は861万人と史上最高を記録するまでに劇的に回復。政府は2016年までに訪日旅行客数を1,800万人にまで増やすという目標を掲げており、更なる外国人観光客誘致へと弾みが付くと期待された矢先だった。

2011年3月、東日本大震災が発生。そして東京電力福島第一原発事故で放射能汚染が危惧された影響も加わり、621万人にまで急減した。2012年に入ると、6月に月別統計で震災後初めてプラスに転じ、上半期は287万人と前年同期の177万人を上回るなど回復の兆しがみられた。

国・地域で際立つ来日傾向

「観光立国」へ再起の道をようやく歩み始めたところ、今度は領土を巡る近隣諸国との対立が影を落とす。2012年4月、東京都の石原慎太郎知事(当時)が、沖縄・尖閣諸島を都で購入する意向を表明。中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事件などできな臭くなっていた尖閣情勢がさらに緊迫化し、9月には日本政府の尖閣国有化により中国各地で過去最大規模の反日デモが勃発。中国からの観光客は震災の影響がなかった2010年と比べると、1~10月期は3%と微増だったものの、10月は33%も落ち込んだ(表2)。

表2:国・地域別来日外国人旅行客数表2:国・地域別来日外国人旅行客数

一方、韓国が実効支配する島根県の竹島を巡る問題では、李明博大統領が8月に歴代大統領として初めて上陸するなど日韓関係がさらに悪化。1~10月の韓国からの観光客は、前々年(2010年)同期比で18%の落ち込みを見せた。

しかし、東南アジア諸国からの観光客は大幅に増加。国際旅行博で大々的なPR活動を展開したタイからは21万人(1~10月)と2年前と比べ19%の増加。同じく1~10月期で2年前と比較すると、ベトナムは33%、インドネシアは26%も増加した。フランスやドイツは円高や放射能への懸念を抱え、両国からの訪問客の低迷は続いているものの、成長著しいアジアからの観光客を取り込みつつあることは、今後に向けて明るい材料といえる。

欧米の観光客は支出が高い傾向

我が国が観光を産業として成長戦略に位置付けるからには、外国人観光客が日本滞在中にどれ程のお金を落としているのかも気になるところだ。

最新のデータは、震災で観光客が急減した2011年のものだが、1人あたり平均なら、ある程度の目安になる。観光庁では、来日する旅行客の支出のうち、航空券やパッケージツアーなど入国前の分を「旅行前支出」、入国後の宿泊、飲食、交通費などを「旅行中支出」と定義している。国・地域別の支出状況を分析すると、いくつかの傾向がうかがえる(グラフ3)。

グラフ3:国・地域別来日外国人旅行客1人あたり支出額グラフ3:国・地域別来日外国人旅行客1人あたり支出額

まず支出額は総じて、欧米諸国、オーストラリアがアジアを上回っている。経済的に比較的豊かな先進国が名を連ねている事情もあるが、日本への距離がある分、航空運賃がかさみ、はるばる到着したからには滞在期間も長めになる。結果的にトータルの支出が増えるわけだ。なお「旅行中支出額」の平均額は11万3,917円。国・地域別では、ロシア(20.5万円)、オーストラリア(17.7万円)、中国(16.4 万円)の順に多かった。

外国人には「日本食」や「温泉」などが人気

外国人観光客は日本で何を楽しみにしているだろうか。来日後にやってみたことを複数回答で尋ねると、断トツだったのが「日本食を食べること」(グラフ4)。95%だからほぼ全員が舌鼓を打ったことになる。2007年11月、フランス・ミシュラン社が出版するレストラン・ガイドブックの東京版が発売された。アジア版の発行は初めてで、日本食が世界的に注目を集めた影響もありそうだ。

グラフ4:来日外国人旅行客の活動意向グラフ4:来日外国人旅行客の活動意向

「ショッピング」や「繁華街の街歩き」、「自然・景勝地観光」が続いたのは定番といえるが、次回来日した際にやってみたいことでは、「日本食を食べること」に次いで「温泉入浴」が2番目に多かった。関東で言えば、草津や箱根など日本人に馴染みの温泉スポットへの流入が期待できる。都内では八王子市の高尾山で温泉開発が計画されており、成功すれば、都心から程近い範囲で外国人が温泉を楽しめる環境が整う。

都道府県別では東京が最高 スカイツリー効果も期待

都道府県別の訪問率では、東京都が5割と最多だった(グラフ5)。やはり首都は見どころが多い。浅草寺、明治神宮などの神社仏閣、銀座の歌舞伎座といった日本文化を象徴するスポットのほか、六本木ヒルズ、あるいは2012年5月に開業した東京スカイツリーといった先端的な高層建築物も人気を集める。意外なところでは「オタク」文化の発信地である秋葉原も興味をそそっているようだ。国籍別では、韓国が距離的に近い福岡県で突出。アメリカは米軍基地のある神奈川、沖縄県への訪問が目立った。

グラフ5:来日外国人旅行客の都道府県別訪問率グラフ5:来日外国人旅行客の都道府県別訪問率

海外からの観光客数を押し上げるには、外国人が従来目を向けていなかった地域への誘致を進めることが課題といえそうだ。東武鉄道が、スカイツリーを起点に沿線でつながる栃木県の観光客増加に成果を挙げたように、東京や大阪などを訪れる外国人を地方に案内するプロモーションを進めるのも一手だ。


掲載日:2013年1月29日

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