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業界レポート
数字が語るこの市場の深層【観光市場】

東日本大震災の影響により、訪日外国人の数が激減している。観光市場は宿泊施設・交通機関に加え、飲食、土産物を扱うメーカーや小売店など、関連する企業は多い。観光市場の先行きを読む。

目次

外国人旅行者への期待

「この10年、国内の観光市場は全体的に伸び悩んでいた」─。観光庁観光企画調整官・神山裕之氏はそう語る。

その要因は、バブル崩壊後から始まった旅行スタイルの変化にある。企業がコスト削減を進める中で、社員旅行を中心とした従来型の団体旅行は数を減らした。

旅行者の主流は、団体から小規模グループ、そして個人へと移り、旅行費用を抑えたプランが好まれるようになった。加えて、長引く不況を受け、個人旅行さえも控える傾向が強まっている。

実際、旅行・観光消費動向調査によると、国内の旅行消費額は微減が続いている(グラフ1)。

グラフ1:国内の旅行消費額推移グラフ1:国内の旅行消費額推移

2004年には24兆円台だったが、その後は23兆円台で推移。08年に起こったリーマンショックの影響により09年には22.1兆円まで急落している。

そんな国内市場の中で期待されているのが訪日外国人旅行者だ。「国内旅行者全体のまだ6%程度にすぎないが」と前置きしつつ、神山氏はこの10年間の訪日外国人旅行者の急増を指摘する(グラフ2)。01年には477万人でしかなかったが、03年から政府が主導して誘致活動を行う「ビジットジャパンキャンペーン」を開始したことが増加の背景にある。

グラフ2:訪日外国人旅行者数推移グラフ2:訪日外国人旅行者数推移

同キャンペーンは、訪日外国人旅行者数の多い12の国や地域(韓国・台湾・中国・香港・タイ・シンガポール・米国・カナダ・英国・ドイツ・フランス・オーストラリア)で重点的にプロモーションを行ない、13年までに1500万人を目指すというもの。

ちょうど03年はアジアでSARS(新型肺炎)が広がったため、アジア各国は軒並み旅行客を減らした。だが「03年の日本への外国人旅行客が前年比で微減に収まったのはキャンペーンの効果と言える」(神山氏)。

その後は年平均約10%の成長を達成し、08年には835万人まで急増。4年で200万人以上を増加させている。それ以前は100万人増加に5年を費やしていることを踏まえると、その急増ぶりは明白だ。

09年にはリーマンショックの影響で一旦減るが、10年には盛り返して過去最高の861万人になっていた。

今後のポイントは中国人

宿泊旅行統計調査(2010年第4四半期)によると、こうした訪日外国人旅行者の割合は、韓国16.2%・中国13%・台湾11.8%となっている(グラフ3)。

グラフ3:国籍別外国人宿泊者の割合(2010年第4四半期)グラフ3:国籍別外国人宿泊者の割合(2010年第4四半期)

トップ3をアジア勢が占めており、この3カ国だけで全体の4割になる。

韓国は日本に近く、釜山―福岡間なら飛行機を使わずにJR九州の高速船ビートル号で行き来できる。片道3時間以内で料金は往復1万円程度。「俗に言う『安・近・短』での旅行が活発だ」(神山氏)。韓国人旅行者の半数近くが、福岡を経由して九州全域や四国へと足を延ばすという。福岡を玄関口として、西日本全域が恩恵を被っている。

韓国に迫る勢いなのが、近年、経済発展の著しい中国だ。ビザ発給条件が緩和されたこともあり、10年の前半には訪日中国人旅行者数は毎月過去最高を更新。同調査の第2・第3四半期では、韓国を追い抜き一時は首位になった。

だが10年後半には伸びが鈍化して、第4四半期は再び2位になった。円高が進んで日本への旅行が割高になったことや、尖閣諸島問題の悪化が理由とされる。

「今後は特に中国からの旅行者をいかに招き入れるか。国内観光市場の動向を読むポイントになる」と神山氏は指摘する。

映像によるプロモーションを

訪日外国人旅行者への期待が高まる中で、11年3月11日に発生した東日本大震災は、観光市場にも深刻な影響を及ぼしている。

福島第一原発での爆発を受けて、香港では被災地域への渡航禁止、その他地域への渡航警戒が勧告された。日本はすべて危険との誤認による日本離れも広まっている。日本政府観光局によると、3月の訪日外国人数は35万2800人。前年同月比50.3%マイナスで過去最大の落ち込みだ。政府が目指した13年までの1500万人達成も絶望的になった。

こうした状況の中では「地域ごとに個別のプロモーションを行なう重要性が増す」と神山氏は語る。

韓国や中国、香港からの旅行者には、繰り返し日本を訪れるリピーターが少なくない。旅行目的も多様化しつつあり、従来のように秋葉原や東京ディズニーリゾートなど、首都圏だけではなくなっているという。地方を訪れる外国人旅行者が増えているのだ。

その背景には映像の効果がある。たとえば、中国では08年12月に映画『非誠勿擾(フェイチェンウーラオ、邦題:狙った恋の落とし方)』が公開され、空前の大ヒットとなった。クライマックスシーンのロケ地は北海道の道東地区で、阿寒湖や能取岬の美しい景観が中国人を魅了した。

これがきっかけになり、以前はほとんど中国人旅行者のいなかった道東地区を始め、北海道を訪れる中国人が徐々に増えた。中国が春節の休日を迎えた10年1月には、北海道への中国人旅行者は例年の3倍近くなった(グラフ4)。日本全国への中国人旅行者数の推移と比較して、北海道の人気ぶりがうかがえる。

グラフ4:中国人延べ宿泊者数推移グラフ4:中国人延べ宿泊者数推移

映像をきっかけに特定の観光地がブレイクする。いわゆる「スクリーン・ツーリズム」だ。

映像を通じて地域別のプレゼンテーションを行い、日本をひとくくりに捉えられないように各地の魅力を外国人に伝えていくことが重要だろう。

「旅行者数を増やすばかりが戦略ではない。一人の旅行者の旅行回数や宿泊日数が増えれば経済効果は上がる」(神山氏)。

地域の魅力をどれだけ上手にプレゼンテーションできるか─。それが今後の観光市場の課題だ。


掲載日:2011年10月 6日

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