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業界レポート
数字が語るこの市場の深層【介護ビジネス市場】

2007年に「超高齢社会」(※1)を迎えた日本。確実に介護を必要とする人の数は増え続けている。それをにらんで大手企業が介護サービス事業に進出する例も目立つようになった。その未来図とは。
 ※1「超高齢社会」...65歳以上の人口が総人口に占める割合が21%を超えた社会

目次

介護事業は安定成長型ビジネス

日本で初めて国民が介護保険に加入することが義務付けられた(対象は40歳以上)のが2000年のこと。65歳以上の人口が総人口の14~21%を占める「高齢社会」という状態になったのは1994年なので、国の対応は後追いのようなイメージを受ける。

しかし、「89年から国はゴールドプランと銘打ち、特別養護老人ホーム等の介護施設の緊急整備やホームヘルパーの養成等を行い、来るべき超高齢社会に向けた基盤整備を行っていた」と三菱総合研究所・人間・生活研究本部の吉池由美子氏は語る。

これらの基盤整備を背景に、2000年から介護保険制度が導入された。その後の要介護者の増加は一目瞭然だ(グラフ1)。

01年の時点では要支援(※2)を含めた要介護者数は200万人強。それが2008年には約400万人に増加している。2030年に700万人に達するという予測を見て、嘆くだけではむなしい。「安定成長型のビジネス」(吉池氏)といえる介護事業の一側面もある。

※2「要支援」...日常生活の一部に介護が必要だが、介護サービスを適応に利用すれば心身の機能の維持・改善が見込める状態

グラフ1:要介護者数の増加グラフ1:要介護者数の増加

大きくもうかるわけではない

国が「介護保険」をつくった00年以前は、高齢者福祉にかかる費用は公費(税金)で賄われ、高齢者は行政から「措置」を受けて施設に入所した。

一方で、富裕層向けの有料老人ホームなども建設されたが、介護保険制度開始とともに、有料老人ホームの「介護部分」にも保険が適用されるようになった。「介護保険以前は入居一時金で数千万円もするような施設が多くみられたが、00年以降は比較的低価格で狭いタイプのホームが増えてきた」(吉池氏)という。

では、逆に低所得者向けの介護施設はどういう状況だったのか。無認可・低所得者向けの老人ホームが火災を起こしてニュースになったのは記憶に新しい。生活に困った老人たちを集めて粗悪なサービスで利益を得る業者もいるのではないだろうか。

そんな問いに、「無認可ホームの規模は正確に把握できていない。しかし、老人ホームの事業自体が大きくもうかるビジネスではない」と吉池氏は答える。粗悪なサービスが幅を利かすほど、日本の介護サービス市場は未熟ではないのだ。

通所系・訪問系サービスが増加

介護保険制度の発足以降、明らかに急増したのは「居住系サービス」(グラフ2)。特別養護老人ホーム等の介護保険施設は、建設数に上限が設けられ、横ばいを続けている。

グラフ2:介護サービス施設・事業所数の推移グラフ2:介護サービス施設・事業所数の推移

介護保険施設はもちろん、居住系サービスにも入居希望者の応募が集まっている。「既に100人の定員を満たしているのに、100人が待機しているような介護保険施設も多い」(吉池氏)。

全国ベースでは、特別養護老人ホームの待機者が42万人。入所者の平均在所期間は4年。入れ替わりを待つと同時に、複数の施設に応募する要介護者も少なくない。「待機者のうち、病院や他施設に入院・入所中の高齢者も多く、どこまで施設数を増やせば間に合うのかは実際のところ不明。これらの現状を踏まえつつ、行政が施設整備数の上限を決めている」(吉池氏)とのことだ。

そして、「通所系・訪問系」の介護サービス事業所の数も次第に増加している。2010年に65歳以上の単独世帯が世帯主65歳以上の世帯に占める割合は約3割(グラフ3)と予測されている。1人暮らしの老人が確実に増えるわけだ。孤独な老人が施設に入れないにしろ、入らないにしろ、通って、もしくは訪問されて受ける介護サービスが求められる。今後も事業所数は増加していくだろう。

介護保険施設には、介護度が高い人、つまり状態の悪い人から優先的に入所できるのが一般的だ。このまま人口に占める高齢者率に合わせて、居住系サービスや、通所系・訪問系の介護サービス事業者が増えていくのが、現実的な未来図になる。

グラフ3:世帯主65歳以上の世帯の家族累計別世帯数グラフ3:世帯主65歳以上の世帯の家族累計別世帯数

新たな事業スキームが必要

ビジネスとして考えれば7兆円にも及ぶ介護市場。ただし、吉池氏は「ビジネスとしての面白みは少ないが安定したビジネス」と表現する。

面白みがないのは経営努力が収益に直結しにくいからだ。介護保険制度では、利用者負担は1割で、それ以外は公費から50%、保険料から50%が出される(表1)。

表1:要介護度別1人当たり平均利用料表1:要介護度別1人当たり平均利用料

 介護サービス事業者の収入となる介護報酬単価は3年ごとに精査され、事業者がもうかる傾向にあれば単価が落される。このため、「大してもうかるビジネスではない」(吉池氏)のだ。

介護保険制度を維持するために「国は事業者の経営状況を見ながら介護報酬単価を決めていく」(吉池氏)わけだ。

昔から、特別養護老人ホームはいわゆる"地元の名士"が社会福祉法人を設立して建てたところも多く、低所得層の要介護者が入所していた。もともともうかるスキームではない。

そんな市場にワタミやベネッセのような大手企業が参入しつつある現状は、喜ぶべきことかもしれない。複数の法人が競争に参加することで「サービスの質の向上効果」(吉池氏)がある。

しかし、「もう少しビジネスのうまみが得られる事業スキームを国も事業者も考えないと今後の拡大は難しい」(吉池氏)だろう。

経営努力が収益に結び付き、より自由に事業拡大ができるような市場をつくらないと、増大するニーズに対応できるだけの新規参入は見込めない。

日本の地域経済に"地元の名士"はまだ残っているだろうか。利益のみならず、志を持って介護事業に取り組む人材はいるだろうか。

微妙に右肩上がりの市場規模を示すグラフは、日本人に理想の介護事業のあり方を問うている。


掲載日:2010年8月24日

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