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業界レポート
数字が語るこの市場の深層【ホテル・旅館】

景気低迷で高額なサービスへの需要が減退。高級ホテルでは海外からの出張ビジネスマンが減っている。ホテル・旅館業界は昨秋来のリーマン・ショックを払しょくできるのか?

目次

踏んだり蹴ったりの宿泊業界

2008年9月に発生したリーマン・ショック以前、東京では外資系の高級シティホテルが続々と開業した。07年9月に日比谷の一等地に開業したザ・ペニンシュラ東京、07年3月に六本木の大型施設に併設して開業したザ・リッツカールトン東京などだ。

その後の景気低迷を受け、これらの高級シティホテルの宿泊料や稼働率は、いったいどのようになっているのか?

この事情に詳しいツーリズム・マーケティング研究所(東京都中央区)の井門隆夫主任研究員は「ホテルの宿泊価格は08年の年初あたりからすでに変調をきたし始めていた。宿泊料も稼働率もそれ以来落ち続けている。ホテル業界が景気の落ち込みで低迷するのは、百貨店などで高額品が売れなくなるのと同様だ」と語る。
 ビジネス需要を除けば、まず財布の紐が締められるのは不要不急の高額品や旅行需要なだけに、これは致し方がない面もある。

リーマン・ショックより前から旅行業界に逆風となっていたのが原油高。歴史的な高値まで上昇した原油価格の影響で燃料費が高騰。これが燃油サーチャージとして転嫁され、航空需要を一気に冷やした。

その後、金融危機が襲い、その傷が癒えぬ間に到来したのが、この春の新型インフルエンザの流行だ。旅行・観光業界にとっては、まさに踏んだり蹴ったりの状況だといえるだろう。

ホテルの宿泊価格が低下し続けているのは、これを時系列で追いかけているカカクコム(東京都文京区)のデータからも明らか(グラフ1)。

グラフ1:yoyaQ.com掲載のホテル・旅館宿泊平均価格グラフ1:yoyaQ.com掲載のホテル・旅館宿泊平均価格

同社の神田寛yoyaQ.comプロジェクトマネージャーは「高級ホテルにとって一番の顧客である外国人がリーマン・ショックの影響で大きく減ったことで、軒並み稼働率が低下している。当社のサイトで予約された平均単価の統計を見ても、昨年の夏を過ぎたあたりから下落傾向が顕著になった」と語る。

ほぼ右肩下がりで下がり続け、今年の6月には平均単価で14000円を割った。「これまでの記録の中で、最低の宿泊単価を記録した」(神田氏)。

8月に価格が上昇したのは、夏の繁忙期のための上昇にすぎない。それでも昨年夏よりも、平均単価で2000〜3000円下回っている。

これは同社のサイトに掲載される宿泊料金が、値下げ価格を多数含むことも影響している。ちなみに、同社のサイトではビジネスホテルの掲載が少なく、高級シティホテルや高級旅館中心に値崩れが起きていることを示す。

ただし、「ここへきて稼働率にはやや下げ止まり感がある。宿泊人数×宿泊単価で算出されるホテルの売上高は、この春がどん底だった可能性もある」(井門氏)。

事情の異なる旅館市場

国内ホテルの宿泊価格が外国人の影響を受けやすい一方、国内旅館は基本的に日本人の動向に左右される。また、旅館は休日と祝日の稼働が中心で、ホテルは平日中心という違いがある。
 また、旅館の宿泊料には景気とは別の要因も働いているようだ。旅館業界はかつて団体の宴会需要を取り込んでいたが、近年は個人・グループの旅行が増える一方、団体旅行が減少する傾向にある(グラフ2)。これは旅館業界には逆風だ。

言うまでもなく、ホテルの宿泊料金はルームチャージが中心。この場合、飛行機と同じで、空けておくよりは埋めたほうがよいので、思い切った値下げができる。稼働率を8割以上に高めるために価格操作をしながら、満室、満席を目指すのが一般的だ。

グラフ2:旅行形態別の販売額の推移グラフ2:旅行形態別の販売額の推移

一方、旅館は食事代込みの宿泊料が普通。「これは国際的に見れば異例の価格形態。はっきり言ってしまえば"どんぶり勘定"。客室は需給バランスに合わせて価格を変えられるが、食事には原価があるので柔軟に対応ができない。ホテルの価格設定が科学的だとすれば、旅館はいまだに非科学的」(井門氏)。

旅館は宿泊費をどんなに安くしようとしても、仮に夕食の原価が5000円、朝食が2000円だとすれば、7000円を切ると原価割れ。値下げにも限界があるわけだ。「和室には泊まりたい。温泉には入りたい。でもあの豪華な食事は要らないという人も増えている」(井門氏)。

近年の傾向として、1泊2食の宿泊料金が低下する一方、1泊朝食付や1泊食事なしの料金が上昇する傾向にある(グラフ3)。いわゆる「泊食分離」が進んでいる。
 この結果、一般団体の宿泊料金が全般的に低下し、個人・グループの1泊朝食付料金が急上昇、団体の中では例外的に学生団体の1泊食事なしの料金が上昇するという現象が生じている(表4)。

グラフ3:食事タイプ別の平均宿泊料金の推移グラフ3:食事タイプ別の平均宿泊料金の推移
表4:旅行形態別/食事タイプ別 平均宿泊料金の推移表4:旅行形態別/食事タイプ別 平均宿泊料金の推移

時代に合わせた変革が必要

最近は高級シティホテルと旅館の間で、価格が手ごろなビジネスホテルが急増。従来から存在はしたが、価格の割にクオリティが高い「バジェットホテル」という分類も台頭している。

「最近見られる現象として、地方都市などではファミリー客が旅館ではなく、バジェットホテルに流れている」(井門氏)。

3者の関係でいえば、今のところ勝者がバジェットホテル、シティホテルが巧みなマネジメントでそれなりに生き延びて、最終的に旅館が割を食っているという構図だ。シティホテルの課題は高額な建設コストと人件費。ただし、ここはホテルのステータスにかかわる部分なので、そう簡単に削ることができない。バジェットホテルはシティホテルにあるようなレストランさえない。

「客室だけをコントロールできるところは生産性が高い」(井門氏)。旅館は時代に合わせた価格体系の変革と、大胆な発想の転換を迫られているといえそうだ。


掲載日:2010年1月19日

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