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業界レポート
数字が語るこの市場の深層【原油市場】

私たちの生活とは切っても切り離せない原油。その価格が昨年来、乱高下劇を演じている。頻繁に掛け替えられるガソリンスタンドの価格を示す看板は、どこで落ち着きを取り戻すのか。投機資金に翻弄される原油相場の実態を検証する。

目次

思惑が先行した上昇相場

世間では自然エネルギーがブームだ。ただし、いかに太陽光発電が広まろうと、いかに風力発電が普及しようと、現状で原油の重要性がにわかに薄れるわけではない。われわれの生活は依然としてエネルギーの多くを原油に依存しているのが実情だ。

ところで、足元の原油市場は昨年の急落後に反転し、戻りを試す局面にある(グラフ1)。昨年の下げ相場も激しいが、今年の戻り局面も値幅が大きく、市場はまだ価格の落ち着きどころを探している状態だ。原油価格は果たして、再び高値を目指してこのまま上昇し続けるのだろうか?

グラフ1:原油価格推移(NYMEX WTI)グラフ1:原油価格推移(NYMEX WTI)

独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構の野神隆之上席エコノミストは「昨年半ばにWTI(ニューヨーク・マーカンタイル取引所で取引される先物原油)で147ドルを付けた上昇相場は2004年から始まった。中国やインドを中心とした新興国の需要が爆発的に伸びて、供給が足りなくなるというシナリオが背景にあった。ただし、これは思惑先行の面も強かった」と解説する。中国の石油需要が年々増加しているのは事実だ(グラフ2)。ただし、これを伸び率に換算してみると、確かに04年は大幅に伸びたが、その後実は軒並み平年並みを下回る水準に低下してしまっていた(グラフ3)。「この間、必ずしも中国の石油需要が堅調であったとはいえない」(野神氏)。市場が中国の高成長を先取りし、思惑先行で価格を吊り上げた側面があるといえるだろう。

グラフ2:中国石油需要グラフ2:中国石油需要
グラフ3:中国石油需要増加率グラフ3:中国石油需要増加率

一方でこの間、OPEC(石油輸出国機構)をはじめとする産油国は着実に生産量を増やしていたので、世界の石油供給量は着実に増加していた(グラフ4)。  在庫はむしろ過剰気味で、需給面から判断する限り、まさにバブルが発生していたといえる。「石油が足りなくて原油価格が上がっていたという議論は、そもそも成立していなかった」(野神氏)。

グラフ4:世界石油供給グラフ4:世界石油供給

イメージは実際に価格を上げる

また、原油価格上昇の要因として、産油国の余剰生産能力がなくなっていることにより、大きな意味で石油需給がひっ迫してきていることを挙げる向きもあったが、OPECの余剰生産能力をみると、05年以降はむしろ増加傾向にあり、これについても価格上昇の理由とはならない。

では、なぜこの間に原油価格は高騰したのか?
 「04年に中国の需要が急増したのは事実なので、市場がこのイメージに引っ張られた結果、思惑的な買いが入り続けた」(野神氏)

この間、マスコミが中国の石油の"暴飲"をことさらセンセーショナルに報道し続けたことも否めない。昇竜中国が大量の石油を飲み干してしまうかのようなイメージを植え付けられてしまった。

「このようなひっ迫観念がベースにあって、イラク問題やハリケーンの襲来を材料に投機資金が流入し続けた」(野神氏)

00年のITバブルの崩壊で株価が低迷し、行き場を失った投機資金は次のターゲットを探して滞留していた。01年以降の景気停滞期には金利が引き下げられ、資金調達が容易になる一方で、投資先が見つからないという事態が発生していた。

そこで、04年になって満を持した投機資金が、新興国ネタを材料に、一斉に原油をはじめとする商品市場に流れ込み始めた。これは「天然ガス」「金」「銀」「銅」「農産物」などの市場も例外ではなかった。

これらの先物市場に流れ込んだ資金は、07年には20兆円程度になったものとみられる。このうち仮に4分の1が原油市場に流れ込んだとして5兆円。「一方で原油先物市場の規模はせいぜい2〜3兆円」(野神氏)なので、そのインパクトの大きさは想像に難くない。もともと規模の小さい原油市場にとっては、鯨が池に放たれたような衝撃を受けるに十分だった。

需給関係無視は繰り返される?

需給関係を逸脱した価格上昇の顛末は、金融危機を挟んで崩壊した昨年の相場に確認される通りだ。
 「では、はたして投資家の意欲が商品投資はもうこりごりだと萎えてしまったのかというと、どうもそうではないという状況が、昨年末の時点ですでにアンケート調査から読み取れた」(野神氏)

そして今年の2月以降、各種の経済指標が下げ止まり始めたのを契機に市場に資金が戻って、原油価格は再び上がり始めている。株式相場は経済回復を先取りするので、株価の戻りも商品相場にとっては後押しになる。

「ただし、需給関係が緩和された状態は依然として変わっていない。在庫の状況をみると、昨年よりもむしろ緩い状態。需給から算出される適正価格は20ドル前後だ」(野神氏)

では、原油価格が本当に20ドル前後まで下がるのか。既存の油田の生産コストをみたときに、カナダや米国の一部の油田では原油価格が30ドルを割ると採算割れになってしまう。この時点でこれらの生産は止まることになり、結局は需給が引き締まるので、30ドルを継続的に割り込む可能性は低いものとみられる。

「中期的に世界経済が順調に回復しても引き続き需給は緩く、当面、石油が足りないということは起こりにくくなったとみている。ただし15年以降、石油供給の増加が鈍り需給関係が変化する可能性はある」(野神氏)

現状で70ドル前後の原油価格は、再び足元の需給要因を無視した04年以降の相場を繰り返しつつあるのか?市場が需給要因だけで動かないのは期待感を先取りするためであり、ここに一定の合理性があることも否定はできない。

投機資金は、チャンスさえあれば投資を再開すべく虎視眈々とそのチャンスを探っている。どこからが行き過ぎでバブルなのか、実際に起きてみないとわからない。バブルは繰り返す。それは歴史が証明するところだ。


掲載日:2009年12月22日

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