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業界レポート
数字が語るこの市場の深層【賃貸オフィスビル市場】

景気低迷下でオフィス需要も減退。空室率の上昇が続いている。果たして底打ちの時期はいつか? 地方の動向は都市に連動するのか? 市場の最新動向を探った。

目次

空室率はさらに上昇

日本は2007年10月をピークに景気減速局面に入り、その後08年9月を境に金融危機と世界同時不況の荒波にのみ込まれた。これを契機に、日本の不動産への投資資金が急速に縮小。不動産ファンドや不動産事業における資金調達環境が大幅に悪化したこともあり、順調に成長を続けていた不動産投資市場は大きな調整局面に入った。

一方、好調な企業セクターに支えられ、全国的に見てもおおむね堅調に推移していた賃貸オフィスビル市場も、07年にはそれまで低下傾向にあった主要都市の空室率が上昇し始めた(グラフ1)。これを足元の動きに限ってみると、仙台市と福岡市の空室率上昇が急速なことが分かる(グラフ2)。

1:主要都市空室率(1996年12月〜2009年6月)
1:主要都市空室率(1996年12月〜2009年6月)
2:主要都市空室率(2006年11月〜2009年6月)
2:主要都市空室率(2006年11月〜2009年6月)

また、08年にはそれまで絶好調といわれた東京23区の空室率も上昇に転じ、賃料は下落に転じた(グラフ3)。東京ビルヂング協会の景況感は、03年やバブル崩壊時よりも悪く、観測史上最悪の数値となっている(グラフ4)。

3:東京ビジネス地区平均空室率&平均賃料
3:東京ビジネス地区平均空室率&平均賃料
4:景況感指数(東京ビルヂング協会の景況感)
4:景況感指数(東京ビルヂング協会の景況感)

ニッセイ基礎研究所(東京都千代田区)の松村徹上席主任研究員は「現時点で7%近い東京の空室率が、03年当時と同じ8%台半ばの水準に達するという市場関係者の見通しも現実味を帯びてきた。われわれは東京都心3区(千代田区、港区、中央区)の賃料が11年まで下落すると予想している。空室率についてはこれに先行する傾向があるので、10年にピークとなる可能性はある」と語る。

仮に予測が当たったとしても、まだ早くて1〜2年先の話。一部に経済好転の兆しが見えるとはいえ、雇用環境の悪化が依然として続いており、目先はオフィス需要低迷が空室率上昇にさらに拍車をかける可能性が高い。

地方にファンドブームの爪痕

地方都市については、これまで東京ほどの不動産ブームがなかったにもかかわらず、足元の空室率の上昇が大きいのが特徴。

「景気が良くなるのは東京から、悪化は地方からといわれる。東京のオフィス市況がこれだけ悪い以上、地方の市況が回復する見通しは当分ないと考えるのが自然」(松村氏)とのこと。中でも名古屋と仙台、福岡が過去最高水準の空室率となった。いずれの都市も物件の新規供給が多く、需給バランスが崩れているためだ。

これは特にファンドマネーが東京からあふれ出し、地方都市に波及した影響が大きい。ファンドブームで05〜07年にかけてビル開発が急増したためで、今年や来年も大量供給が続く都市も多い。

「ファンドのビルが新規供給に占める度合いは、地方都市の方が大きい。小さな市場に一気に大量供給があるので、そのインパクトは東京よりはるかに大きい」(松村氏)。地方都市は市場が小さく、経済活動も低調なので、市況の悪化が長引く可能性が高い。

しかも、今はちょうど景気後退局面という最悪のタイミング。地方都市の新築物件は立地が必ずしもよくない物件が多いことも特徴。「多くの在京ファンドが良くリサーチもせずに、地方都市に安易に建て過ぎた」(松村氏)。

ただし、ファンドが投資した都市はおおむね政令指定都市に限られる。中でも札幌、仙台、川崎、横浜、名古屋、広島、福岡などが主な投資対象。もっとも、不動産ブームを背景に、大手デベロッパーも積極的に地方進出したため、大規模開発が集中しているのも事実である。

その他の都市はむしろ"蚊帳の外"に置かれたといってよい。「他の都市は地元の限定された需要がビル事業を支える、全国的な競争とは無縁の独立したマーケット」(松村氏)。地方の個人マネーは賃貸マンションなどには手を出すが、数億円を超えるオフィスビルに投資するほどの規模はない。

大阪もいまや最大の地方都市であるが、09年のオフィス供給量は非常に多い。このため、大阪の市場はこれから大きく崩れると見られる。梅田駅周辺の大規模開発など、今後3年間の供給量が年平均およそ6〜5万坪と、他の都市と比較しても最大だ。「需要が景気に遅行しながら収縮する中で、新たなビルがどんどん供給されている」(松村氏)。市場規模が他の地方都市と比べると桁違いに大きいとはいえ、テナントの奪い合いは必至である。

東京は昨年と今年は大型物件の供給はないが、11〜12年にかなりの物件が供給されるので、一時的に回復した市況が再度崩れることも懸念されている。

地方都市は独自の街づくりを

ところで、この10年間の空室率の推移は東京一極集中が進んだことを示唆している。98年あたりを境に東京の空室率が低下傾向をたどった一方、地方都市のそれはじりじりと上昇した。

80年代後半のバブルの頃には地方への分散が進んだが、結局は人や経済が東京に回帰し始めた。最近の状況は「東京一人勝ち」で、東京とそれ以外に二極化が進んだことを示している。

主要地方都市の賃貸オフィス市場では、大量のオフィスビル供給で調整が避けられない。しかし、松村氏は「このような時期こそ、長期的な視点に立って、これらの開発プロジェクトを街の機能更新の機会と捉えて、地域経済を活性化する独自のシナリオを探るべきではないだろうか」とも述べる。

人口や経済中枢機能の東京一極集中が加速する中で、主要地方都市が無為無策に過ごせば、地方の不動産市場は長期的に縮小の道をたどらざるを得ないのは明らかだ。

「例えば、各地方都市が独自の街づくりを競い、東京にない魅力的な事業機会や消費市場を積極的に育てること。また、内外の有力企業や人材の誘致を行うことで、オフィスビルに限らず住宅や商業施設などの新たな不動産需要の確保を目指すべきだ」(松村氏)。

このような都市経営を行なうためには、財政と行政権限において、真の地方分権を早急に実現することが望まれる。


掲載日:2009年11月17日

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