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業界レポート
トランクルーム業界で新規ビジネスが花開く

収納スペースを貸し出すトランクルーム業界がにわかに活況づいている。従来はトランクルームといえば法人向けが中心で、倉庫会社が自社の倉庫に置いたコンテナを貸し出す方式が一般的だったが、90年代末頃から不動産会社など異業種からの参入が目立ち始めた。

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自宅の納戸の感覚で利用できる収納場所

c6_081216_01.png《東京郊外在住のある会社員男性は、趣味で買いそろえている高級自転車の台数が増えて自宅に収納しきれなくなり、近所にある4畳半のトランクルームを借りた。ビルの各階に細かく区切られた個室タイプの収納スペースが並ぶ。建物の出入り口はオートロックで、エレベーターもあり、24時間いつでも出し入れできる。男性は、月額4万4000円と割安なうえに屋根付きの車庫よりも安全で満足している》

《東京都心のマンションに住む某家族は、子供が成長して手狭になり、神奈川県厚木市にある約2畳のトランクルームを借りた。月額1万4000円。暖房器具やスキー用品など季節が過ぎると使わないものを置いている。厚木市は東京・新宿から約40kmとやや離れているが、保管物の出し入れは1年に数度で、何より都心より賃料が安いのが魅力だ。やはりビルの一室という印象で、空調完備で衛生的だから、かさばる冬物衣類も置こうかと考えている》

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収納スペースを貸し出すトランクルーム業界がにわかに活況づいている。従来はトランクルームといえば法人向けが中心で、倉庫会社が自社の倉庫に置いたコンテナを貸し出す方式が一般的だったが、90年代末頃から不動産会社など異業種からの参入が目立ち始めた。遊休地や空きビル、空き室の有効活用策として注目され、土地やビルを売れないまま放置するよりも収益が得られるからと転用を望む不動産オーナーも増えている。それにより、ビルやマンションの中を0.5畳〜8畳程度に仕切ったスペースを貸し出す形態が一般化し、自宅の延長のように気軽に利用できることから消費者の認知度も高まった。

また、近年は都心のマンション需要が急速に伸びているが、収納スペースが手狭な物件も多く、トランクルーム需要を喚起していると見られる。市場がにぎわいを見せるなか、各社は過当競争でいずれ淘汰の波がやってくることも視野に入れている。これまでは管理・警備体制、利用時間帯、温度・湿度の管理、取り扱い品目などが差別化の要件だったが、警備会社との提携や2重ロック、空調完備、365日24時間利用可能などが当たり前となり、さらなる付加価値が求められている。

出店を増やし認知度を高め利便性を訴求し顧客を獲得

トランクルームは、自宅に近いほど便利――。エリアリンク(東京都港区)と加瀬倉庫(神奈川県横浜市)は、"コンビニ感覚"で利用できるサービスを提供している。駐車場や宿泊施設、貸会議室の経営と幅広く不動産業を営んでいたエリアリンクは、時代の変化に対応し、2008年度からストレージ(レンタル収納スペース)業が中心である賃料収入を基盤とした体制に移行した。2万8000室を確保した首都圏を中心に、全国展開を図る。

同社の武器は、長年の不動産業で蓄積した土地の開発や活用のノウハウと業界での信頼の厚さだ。一層の売り上げ増とブランド強化を図るため、物件の借り上げに注力しているが、「他社と競合になった場合でも、経験と実績による信頼から、当社を選んでくださる不動産オーナーが多い」とエリアリンク広告・広報・マーケティング部の松本美奈部長は話す。

加瀬倉庫は出店エリアを関東に絞り、特定地域に集中することで経営効率化と認知度向上による相乗効果を狙う。これまでに2万室以上のトランクルームを提供しているが、そのほとんどが自社ビルで、競売にかけられた中古ビルを積極的に購入して室数を増やしている点も特徴だ。競売物件は市場流通価格よりもはるかに安く入手できる一方、構造や内装が時代遅れだったり、不当に権利を申し立てる人物が現われたりして、買い手がつきにくいものだ。

しかし、トランクルームはあまりリフォームせずに賃貸が可能であり、経験を積んだことで不法占拠者の対処法も心得ている。「仕入れコストが安く済む分、損益分岐点が低く、実際に保有物件のほとんどが利益を生み出しています」と加瀬倉庫の瓜生佳久(うりゅうよしひさ)社長は言う。

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両社ともに今後もサービス拠点を増やし、売り上げ増とともに市場シェアの拡大を目指しつつ、運営の効率化やコスト削減を図る意向だ。エリアリンクは室数と比例して増える管理業務や決済業務をIT(情報技術)システムの積極的導入で効率化し、運用コストの削減を図る。加瀬倉庫は中国企業と提携し、ビルをトランクルーム化する際に必要な間仕切りなどの設備やコンテナなどの製造・販売も行なっている。

「企業として成長するには、売り上げの元となるトランクルーム数を増やさなくてはなりませんが、出店数とともに様々なコストや労力も増えます。今後、業界ではM&A(合併・買収)なども加速するでしょう。市場で勝ち抜くには企業規模と体力が必要になると思います」(エリアリンクの松本部長)

「近くて便利」に背を向け「遠くて安い」で需要喚起

一方、発想を大きく転換して成功を収めている企業もある。06年11月に創業したトラストワン(神奈川県横浜市)は、厚木の自社ビル3棟のトランクルーム稼働率がほぼ100%に達している。都心から離れた立地にかかわらず、利用者の約5割は都内在住者だ。

「トランクルームは近いほど便利」との既成概念を捨て、安い料金で広さが確保できることを前面に打ち出し、「遠方でも構わない」と考える利用者の開拓に成功した。自宅の倉庫感覚で何度も使うものを収納するなら近所でないと不便だが、年数回の出し入れなら多少は遠くてもさほど不便を感じない。同社は1坪当たり1万円強と都心より7割ほど安い価格を設定し、電話1本で自宅まで荷物を取りにいく無料サービスを付加することで都内在住者の支持を得た。

要望によってはトランクルームへの搬入や設置まですべて同社側が行ない、利用者にはその様子を撮影した写真と鍵を渡すだけというケースもある。「会社側が努力するほどお客さまの喜びにつながる。このサービス業の基本に忠実でありたいと思います」と同社の熊井聖樹社長は言う。08年7月にオープンした3棟目の物件は、募集後わずか1カ月で埋まった。08年は前年比2倍以上の売り上げを見込んでいる。

法人の外部委託需要を受け文書の保管サービスを開始

既存大手も、新規事業の可能性に注目している。「『ウチのサービスはこれです』とお客様に押し付けるだけでは、通用しない時代になってきました」。押入れ産業(東京都港区)の吉田得生(よしだとくお)常務は市場変化の兆しを指摘する。

同社は87年に創業し、倉庫業界では珍しいフランチャイズチェーンを手がけ、トランクルーム事業を全国区にした立役者だ。個人向けトランクルームの先駆けであり、現在70数社、全国113拠点で展開している。今も主軸は個人向けサービスで、社名の通り一般利用者の「押入れ」として、従来の倉庫内に並べたコンテナで保管する形態に加え、ビルやマンションを間仕切りした収納スペースのレンタルも行なっている。

そして、今後に向けて注力しているのが、法人向けの文書保管サービス事業だ。顧客企業の機密情報にかかわる文書や電子データなどの管理・保管を、厳重な警備体制のもとで請け負う。顧客ごとに専用の文書管理システムを提供し、顧客はインターネットで文書の検索や保管状況の確認、取り寄せや廃棄の依頼までできる。システムの導入費用はかかるが、面倒な文書管理を外部委託することで全体としてコスト削減につながるとして急速に需要が増えてきた。

同社は「サイファス」というブランド名で、すでに全国18カ所で文書管理サービスを展開している。病院のカルテを管理して、要望があれば翌日に届けたり、外資系企業やSOHO企業の営業担当者のバックヤードとして活用できるよう「オフィスサポートサービス」を提供したりと、顧客ニーズに合わせたサービスを心がけている。
「現在は個人消費者向け事業が主流で、法人向け事業の売り上げは3割ほどですが、今後は法人を5割くらいにまで高めていきたい」と吉田常務は意気込む。

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すぐそこまで近づきつつある競合店舗の乱立と競争の激化

トランクルーム業界の需要は、収納スペースの少ないマンションの増加、ライフスタイルの変化、文書管理の外部委託を加速 させる法人など、利用者の変化により押し上げられた。業界に明るいデルタ・アイ・部長で主席研究員の山鳥洋氏が解説する。「参入障壁の低さ、単価高、遊休地の有効活用などから、事業者側が利益を見込めたため、業界全体が盛り上がってきました。コイン駐車場ビジネスに似た構造だと思います」

今後も、店舗数が増えることで、一般的なサービスとしての認知度がさらに高まると考えられる。一方で懸念されるのは、業界再編・市場淘汰の時代の到来だ。今はまだ市場が形成されつつある段階にあり、特定地域で競合店舗が乱立する事態にまでは陥っていないが、間もなく競争が激化していくと予想される。その時こそ、独自の経営モデルやサービスを展開している企業とそうでない企業の明暗がはっきりと分かれる。

また、新規参入を果たした不動産会社は、トランクルーム事業を「現在で最も効率的に不動産資産を運用するためのサービス」と位置づけているに過ぎない。競争が激化するか、需要減に転じた場合は、あっさりと撤退する可能性も考えられる。

いずれにせよ、いまだ新規参入の動きは鈍らず、市場も拡大を続けている。トランクルーム業界が間もなく次のステージに移行するのは必至だ。


掲載日:2008年12月16日

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