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業界レポート
保育サービス、数年は市場拡大傾向の見込み
施設不足と規制緩和により異業種からの参入が相次ぐ

目次

自治体の民間委託で伸びるベネッセスタイルケア

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2000年に保育所の設置認可が規制緩和され、保育サービス業界は大きく変わった。それまで保育所を設置できるのは地方自治体と社会福祉法人に限定されていたが、一定の基準を満たせばNPO(民間非営利団体)や学校法人、株式会社などの参入が可能になったのだ。

民間事業者が保育所を設置できるようになったことで、1つの転換期を迎えた。厚生労働省発表の保育所数の推移を見ると、規制緩和により民間事業者の参入が相次いだことで明らかな変化が生じたことが分かる。減少を続けていた保育所数が00年の2万2195カ所を境に増加に転じ、07年には2万2848カ所に達した。

市場規模も拡大している。矢野経済研究所の調べによると、06年度の市場規模は約3400億円と前年比6.3%増。07年度は3600億円に達すると予測される。同研究所生活産業調査本部の大貫留美子さんが市場拡大の背景を解説する。

「保育サービスが伸びている理由は大きく2つ考えられます。1つが法整備。1994年のエンゼルプランで保育サービスの拡充が促進され、00年の規制緩和で民間参入が可能になるなど、国を挙げて保育サービスを充実させる動きがあります。2つ目は根強い利用者ニーズ。保育所に入所できずにいる待機児童数は1万7900人ですから、施設数は依然として不足しています。今後も数年間は、市場の拡大傾向が続くと見ています」

託児・保育所市場規模推移

法制面では、03年に「次世代育成支援推進法(次世代法)」が成立した。社員数が301人以上の企業に対し、育児休業制度の促進のほか、事業所内保育所の設置といった独自計画を策定するよう義務付ける内容だ。これを受けて、「大手企業を中心に事業所内保育所設置の動きが見られる」(大貫さん)という。

そもそも保育所には、大きく分けて認可保育所と認可外保育所がある。認可保育所は国が許可した施設で、国や地方自治体から補助金が交付される。認可保育所はさらに、地方自治体が運営する「公設公営」、自治体所有の施設で民間が運営する「公設民営」、民間が施設を所有して運営する「民設民営」の3つに分類される。一方、認可外保育所は、地方自治体から補助金を受けている「準認可保育所」と、まったく受けていない保育所に分けられる。準認可保育所としては東京都が認めた「認証保育所」などがある。

これらのうち、増えているのは公設民営型だ。大貫さんは「公設公営ではまかないきれない自治体が民間企業に委託する傾向が見られる」としたうえで、サービス、保育時間などが自治体と同じ基準で、委託金を受け取るために安定した運営ができる点にメリットがあると解説する。

この公設民営型により業務を拡大したのがベネッセスタイルケア(東京都渋谷区)だ。教育事業のベネッセコーポレーションを母体に、主に介護・保育サービスを展開する同社は、94年から駅型保育所をはじめとする「ベネッセチャイルドケアセンター」の運営を開始。01年には、全国初の公設民営保育所「三鷹市立東台保育園」(東京都三鷹市)の運営を受託した。

これを足がかりに神奈川県横須賀市、東京都文京区、埼玉県和光市、千葉県浦安市などからも受託し、現在では関東近辺に11カ所の運営を手がける。

「同社は00年の認可保育所事業の規制緩和と同時に、いち早く公設民営型の運営に軸足を移して成功しています」(大貫さん)

育児用品トップのピジョンが国立病院の院内保育を一括受注

仕事と子育ての両立のために事業所内保育所を望む声は高まるばかりだが、これは一般企業だけの話ではない。病院や大学が保育所を設ける事例も出てきた。

「病院では、看護師、女性医師の不足が深刻となり、人材確保が喫緊の課題となっているためです。夜勤もある職種ですから、院内に保育所があれば子供が生まれてからも働き続けやすくなります。 大学の場合は、社会人大学生の支援策など、学生募集の呼び水の1つとして設置するケースが見受けられます」(大貫さん)

病院内保育所については04年、独立行政法人となった国立病院機構の院内保育所116カ所(当時)の運営をピジョン(東京都中央区)が一括受託したことが話題となった。育児用品トップメーカーの同社が保育事業に進出したのは93年、茨城県つくばみらい市の常総研究所内に保育施設「ピジョンランド」を併設したのが始まりだ。

02年からは、日本郵船、マツダ、日立製作所、トヨタ自動車など大手企業の保育施設の運営を請け負い、現在、病院内保育所123カ所、事業所内保育所17カ所を運営している。同社は99年にピジョンハーツを設立し、保育サービス、保育・託児施設の受託運営、ベビーシッターサービスなどを移管。グループでの保育事業の売り上げは48億円(07年1月期)と業界トップとなった。

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ピジョンハーツの赤松栄治社長が同社の強みを説明する。

「育児用品のメーカーとして乳幼児の研究をしてきたので、独自のアプローチができます。例えば人材育成面。07年にはピジョングループの保育事業に携わるスタッフ約500人を対象にしたピジョンハーツオープンカレッジという研修制度をスタートしました。ほ乳びんなどの開発担当者が、乳幼児の口腔の発達や食事について講義しています。今後もモノづくりで培った発達段階に関する知識を伝えていきたいと考えています」

新しい分野にも手を広げた。06年10月に「ブリリアンキッズインターナショナルプリスクール」を東京・池袋に開設、英語圏の外国人がプログラムを担当し、就学前の子供が本格的な英会話に接しながら過ごせる。赤松社長は「教育に重点を置いた施設です。今後もブリリアンキッズを増やしていきたいですね」と意気込む。

タスク・フォースが全国展開する民間ならではの長時間・深夜保育

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一般に、認可外保育所はこれまで保育内容や質などで不安視される向きがあったが、最近は多彩なサービスで需要を伸ばす企業も出てきている。関西地盤のタスク・フォース(大阪市西区)は、「民間だからこそできる保育サービス」を提供し、全国にネットワークを広げてきた。保育所の「ポポラー」を42カ所で直営しているほか、ベビーシッターサービスの「ラビットクラブ」を14営業所で展開する。

それらの特徴は顧客満足に徹底的にこだわった運営方針だ。同社の西山悟社長が説明する。

「認可保育所では保育時間などが決められているので両親の仕事内容によっては預けにくいという側面があります。それを解決するため、ポポラーでは保護者の出社時間に合わせたフレックス保育、長時間保育、深夜保育など月ぎめの契約形態をとっています。IT化を進めて多岐にわたる顧客を管理し、人材確保にも力を注いでいます」

顧客満足にこだわったことが多様なサービスを生み出し、ひいては補助金に頼らない自立経営につながったと西山社長は強調する。06年12月期の売上高は13億7000万円。今後は、病院内・企業内保育所も手がけていく方針だ。

365日24時間体制でFC展開するサクセスアカデミー

異業種からの参入とともに、独自の運営手法も目立ってきた。病院内・企業内保育所で100カ所以上の運営実績を持つサクセスアカデミー(神奈川県藤沢市)は、前身が学習塾という異色の企業だ。しかも、保育サービス業では珍しいフランチャイズチェーン(FC)展開で事業を拡大している。柴野豪男(たけお)社長はビジネスモデルについてこう語る。

「当社が手がけていた学習塾はFC型で、生徒が集まれば講師に支払う料金が発生し、生徒がいなければお金もかからないシステムでした。病院内保育も同じ形式。病院側には保育が発生すれば当社が保育士を派遣し、料金が発生する仕組みなので固定費がかかりません」

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柴野社長は、91年に保育サービス業に乗り出した際、院内保育所から出発したことで「365日24時間体制の運営には自信がある」と言う。その経営を支えているのはITを駆使して築き上げたネットワークシステムだ。

「夜勤や変則勤務が多い病院では、保育児の数が毎日変動するため、保育士も日勤と夜勤で必要人数が変わります。管理を簡素化するため、保育児の数、保育士の人数を瞬時に把握でき、情報を入力すれば保育士の給与計算までできるシステムを構築しました。今は100カ所の保育所をつなぐネットワークへと進化しています」

04年からは認可・認証保育所「にじいろ保育園」の運営にも事業を広げている。横須賀市の「にじいろ保育園サクセス久里浜コスモス」を手始めに現在は認可 11カ所、認証3カ所、学童クラブ3カ所を数える。同社は07年12月期の売上高が18億6700万円、08年12月期は28億円を見込む。現在、売上構成比は事業所内保育60%、保育園40%の割合だ。

アート引越センターがM&Aで保育事業に進出

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異業種ながらも本業を通じて保育の新たなニーズをつかみ、成功をおさめたケースもある。アート引越センターでおなじみのアートコーポレーション(大阪府大東市)は、05年から保育所「パンプキンガーデン」の運営を始めた。

ライフサポート事業部の伊藤博マネージャーがいきさつを説明する。

「企業の引越しを請け負うなかで、『転勤先に保育所がない』とか『保育所にこういうサービスがあればいい』という声を聞きました。そういうニーズを吸い上げて、ライフサポート事業を立ち上げ、保育所の運営に乗り出したのです」

ライフサポート事業は、引越しにとどまらず、「総合生活産業」として様々なサービスを提供していこうという同社の象徴的な取り組みだ。パンプキンガーデンは現在6カ所。民間ならではのサービスとして一時預かり、早朝・夜間保育も行なう。さらに同社の独自サービスとして「ホームケアリストサービス」を並行して提供している。これは、パンプキンガーデンまでの乳幼児の送り迎え、夕食のしたく、入浴の手伝いなどの付加サービスだ。

07年にはコムスン傘下の保育事業「コティ」「グレース」を買収して子会社化。コティは事業所内保育所の受託を中心に全国92カ所で展開し、グレースは東京都認証保育所7カ所を運営する。この買収によりアートコーポレーションは、直営保育所41カ所、受託保育所58カ所、認証保育所7カ所を運営する保育トップクラスに躍進した。

売上高は15億円に達する。ただ、伊藤マネージャーは事業規模よりも3つのブランドを持つことが最大のメリットだと言う。

「地域に保育所を造るならパンプキン、企業内保育施設はコティ、自治体と協力するならグレースというように3つの展開が可能になりました。選択肢が広がったのは強みです」

矢野経済研究所の大貫さんは「アートコーポレーションのようなM&A(合併・買収)は今後も出てくる」と予測する。保育サービスは異業種からの参入が続くと推測されるためだ。矢野経済研究所生活産業調査本部で教育業界に詳しい松島勝人課長も「保育サービスは今後も伸びるうえに、周辺産業からの参入余地が十分にある」と付け加える。

「保育サービスは、教育や食などの事業者もメリットを生かせる業界です。保育所によっては英語教育、体操、知能訓練といったサービスを外部に委託する動きもあるので、保育、教育両面で見ると、今後はM&Aなどで業界地図が変わるかもしれません」(松島課長)

07年12月に明らかにされた政府の規制改革会議の答申案には、子育て支援強化のため保育所の設置基準の緩和、利用者と保育所との直接契約制度の導入などが盛り込まれた。こうした国の支援などもあり、追い風が吹く保育サービス業界。周辺産業からの参入が続くと予想されることから、既存企業はサービスでの差別化を迫られている。

本格的に始動した幼保一元化構想

幼稚園と保育所を同じ施設や敷地内で運営する取り組みが進められている。元来、幼稚園と保育所は別物。幼稚園は文部科学省の管轄で就学前の子供の教育課程の1つと位置付けられている。

一方の保育所は厚生労働省の管轄で、「保育に欠ける(困窮する)」世帯を支援する目的で設置された。このところ、施設不足から保育所の入所の順番待ちを強いられる待機児童が増加傾向にある。その半面、幼稚園では定員割れが進むという構造的な問題が浮上している。そこで生まれたのが「幼保一元化」だ。文部科学省と厚生労働省が協力して「幼保連携推進室」を立ち上げ、新たな枠組みとして保育と教育を一体的に提供する認定こども園制度をスタートさせた。メリットについて矢野経済研究所の松島課長は、「園児不足などで経営難にある幼稚園から見れば、保育所と連携することで延長保育をウリにすることができ、統廃合による経営効率化も図れる」と話す。07年8月時点で、認定こども園として105園が生まれており、今後も増加すると見込まれる。


掲載日:2008年5月27日

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