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収入に応じた料金でヘルスサービスを提供

日本以上に所得格差が著しいアメリカでは、収入が少なくても医療サービスが受けられるように「スライディング・スケール」という料金体系を取り入れているところがある。

目次

スライディング・スケールとは

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「スライディング・スケール」とは、顧客の年収や扶養家族の人数などに応じてサービスの料金が決まる料金システム。アメリカでは、連邦政府から助成金を受けている医療機関は、患者の支払い能力に応じて割引料金を適用するスライディング・スケールを導入することが義務づけられており、年間所得が政府が定めた貧困ガイドライン(一人世帯で年間所得が1万400ドル/年。ただし州により異なる)以下の患者は、無料または初診料のみで医療サービス受けられる。また、貧困ガイドラインの200%までの年収の患者は、スライディング・スケールを元に収入に応じた料金が適用される。

民間でこのスライディング・スケールを採用しているところはまだ少ないが、ニューヨーク郊外の住宅地のコミュニティ・ヘルス・センター「サード・ルート」は、必要とする人なら収入に関係なく、誰にでも、鍼、マッサージ、ヨガなどのサービスを提供しようと、昨年夏の発足当初からこの料金体系を取り入れている。創立者のひとりで、鍼師とマッサージ師の資格を持つグリーン・ウェイランド・ルウェリン氏は、スライディング・スケールを採用した理由を「所得の低い人が、裕福な人と同じ料金を払うのは合理的とは思えないから」と語る。

所得の低い人は高い人の4割の料金で

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ルウェリン氏は、このセンターをスタートさせる以前は、個人営業でサービスを提供していたときからスライディング・スケールを取り入れていた。だが、その当時はスライディング・スケールを知る人が少なく、なかなか趣旨を理解してもらえなかったという。しかし、センターを設立してウェブサイトに明記したり料金表を手渡すようになってからは、理解してもらいやすくなったと話す。

同センターのサービスを受けたい人には、まず、ウェブサイトにあるスライディング・スケール・ワークシートを用いて収入と支出などを計算してどのランクに該当するかを自己申告し、そのランクに応じた料金を支払う。スライディング・スケールのいちばん低いランクの人はいちばん高い人の4割の料金で同じサービスを受けることができる。公共の医療機関ではスライディング・スケールを適用する際には、所得を証明する書類の提出が必要だが、民間のヘルスセンターであるサードルートはそうした書類の提出は求めていないので、利用者の誠意で成り立つシステムだとも言える。

ユニークな利益分配システム

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発足間もないこともあって、まだ利益は出ていないが、地域の人たちの反応は上々で、顧客の数は順調に増えている。所得の低い人はこの料金で恩恵を受けることにはじめは躊躇や戸惑いがあるが、いったんサービスを利用すると非常に満足するという。また、スライディング・スケールで最高額の料金を払うことになる人たちも、人の役に立てるならと気持ちよくサービスを利用するという。

さらにユニークなのは、ほかの仕事を掛け持ちして働いているヨガのインストラクターや鍼師やマッサージ師など、サード・ルートのスタッフは、個人の売り上げに応じてではなく、センターの仕事に何時間貢献したかによって利益を分け合うシステムを採用している点だ。ヨガのクラスで10人教えて売り上げに大きく貢献しようと、センターの受付や掃除などの地味な仕事をしようと、仕事の価値は同等という考え。センターを準備するにあたっては、仲間のアーティストに棚を作ってもらったり、ロゴマークをデザインしてもらったりしたが、それに対する料金の支払いは、サード・ルートのサービスによって支払うというかたちで協力してもらったという。


掲載日:2009年4月13日