トップページ  >  起業する  >  コラム・インタビュー  >  闘いつづける経営者たち  >  04.2015年以降の飛躍へ 企業買収など準備進む

闘いつづける経営者たち
協和発酵キリン株式会社【松田 譲】

目次

 協和発酵キリンが狙うのは、抗体医薬の新薬が市場に多く出てくる15年以降の飛躍だ。それに向け周到に準備を進めている。松田譲社長は、「年に1品目は外部から開発販売権を得て、商品を投入したい。M&A(合併・買収)で海外販路も確保できた。リソースをフルに生かしたい」と前向きな姿勢だ。ただ、同社は大手製薬会社に比べ企業規模が小さい。限られたリソースの中で、自社の技術力を最大化できるか、まさにトップのマネジメント手腕が問われる。

海外の自社販売網整備進む

ep-fight-038-10.jpg 最近の協和発酵キリンの動きを見ると、販売面では2011年4月に英国の製薬企業であるプロストラカンの買収手続きを終了。欧米の販売網を手に入れた。
 プロストラカンは、医薬品候補をライセンスで導入して開発・販売する。体制は少数精鋭だが、がん治療薬などで協和発酵キリンと得意領域が重なりシナジーが見込める。プロストラカン単体でも持続的成長が果たせる総合力を持つため、「15年以降、欧米で売り出す自社開発の新薬をしっかり販売できる体制が整った」(松田譲社長)と自信をみせる。

 今後、医薬品市場をけん引するとされる新興国でも体制整備が進む。とくに重点地域と見ているアジアでは、中国、シンガポールなど6拠点を構築した。日本の製薬企業の中では、比較的早い展開をみせている。日本と欧米、アジアで歩調を合わせたグローバル治験を見据えた研究も進めている。

継続成長へ新たな方法を模索

ep-fight-038-11.jpg 海外事業を強化して新薬を効率よくグローバル販売する。これは、新薬がしっかりと開発できることが条件となる。
 松田譲社長は「新薬パイプラインの数を見ると、事業規模には不相応なくらい恵まれている」と現状には目を細める。いくつかの医薬品候補を他社からライセンスで手に入れ、それで日銭を稼ぎつつ新薬が増える15年までを乗り切っていく。このやり方は20年までは通用するが、20年以降はまた新たな医薬品の研究開発の仕組みが必要になるかもしれない。実際、低分子の医薬品開発は一つの限界を迎えた。

 現在、協和発酵キリンは抗体医薬の技術をバイオシミラーや核酸医薬へ応用を図っている。こうしたコア技術の横展開は、早くも抗体医薬の限界が来ることを想定したものだと言える。00年に人間の全遺伝子情報(ヒトゲノム)がすべて分かり、抗体医薬のターゲットが200ほどあるとされた。その後、技術的な背景や競争から標的は絞られ「有望な抗原がなくなってきた」(大島悦男執行役員研究本部長)。加えてこれからの新薬は、各国の当局の審査が厳しくなり、より画期的で安全でないといけない。20年を過ぎると抗体医薬も限界を迎える可能性がある。
 そのため、いま出ている医薬品の利用データ、治験データなどを掘り下げて課題を抽出し、その弱点や課題をクリアすることで新薬を作るという、これまでにないスタイルも取り入れたい考えだ。花井陳雄専務は「実際の患者によるデータのため、低分子薬と抗体医薬品の成功確率が高まる可能性が高い」と期待を寄せている。

 研究一筋から50歳代半ばでマネジメントへ"転身"した松田社長。自らの経験を踏まえてか、15年以降の飛躍に向けて必要な人材の条件に「世界のどんな場所・部署に所属してもすぐ仕事ができる人」を挙げる。かつての海外赴任は、日本と現地を言語やコミュニケーション上で文字通り「橋渡し」する役目だった。だが、国際展開が当たり前になる中で「日本も海外も関係なく、活躍する人材」が必要となった。
 松田社長は「真の意味のグローバル人材を育てたい。日常業務の中で個人の能力を高め、基盤となるスキルを磨いてもらう。その基盤となる能力を武器に、積極的に海外へ赴任してもらい、現地での即戦力になってほしい。そのため海外交流を活発にしていく」と、新薬開発と同様に次代を担う人材育成にも力を入れる。

ep-fight-038-12.jpg 12年1月31日、協和発酵キリンとしての社員融合が進み、欧米の販路獲得や研究機能強化など将来成長への基盤づくりが済んだことを契機として、社長を退任することを決めた。3月22日付で相談役となる。後継者に選んだのは世界的な抗体医薬品の研究者として知られる花井陳雄取締役専務執行役員。「研究開発型企業として、技術に精通する人間がマネジメントを執るのがふさわしい」というのが理由だ。グローバル・スペシャリティー・ファーマの実現に向け、協和発酵キリンは新たな段階に入る。

 松田社長は今後どうするのだろう。
 「今まで、ある意味で私生活も省みず、ただひたすら会社のことばかり考えて全力投球をしてきたので、少しホッとしている。これからは、今までやりたくても出来なかった家族サービスをしたい」という。奥さんや義母、猫と落ち着いた生活をしつつ、家庭菜園や料理にもチャレンジしたいという。家庭人としての視点で見た新薬開発への提言、同社にとって新しい財産が誕生する。

松田 譲 プロフィール

1948年6月25日生まれ、新潟県出身。77年(昭52)東京大学大学院農学系研究科博士課程修了し、同年4月に協和発酵工業(現協和発酵キリン)に入社。研究員として東京研究所(現東京リサーチパーク)に勤務し、以来新薬の開発に没頭する。主任研究員などを経て00年に医薬総合研究所長に就任。本人は天職として研究者人生を全うするはずだったが、研究部門の組織改革の実績が認められ02年に総合企画室長(常務)に抜てきされる。翌03年には協和発酵の社長に就任。08年10月にはキリンファーマとの経営統合に伴い協和発酵キリンの社長に就いた。12年3月22日9年務めた社長を退任、相談役に退く予定。

企業データ

協和発酵キリン株式会社

東京都千代田区大手町1-6-1
03-3282-0007
事業概要:医療用医薬品の製造・販売を行う事業持株会社
設立:1949年(昭和24年)7月1日
資本金:267億4500万円
売上高:4137億3800万円(2010年12月期)

掲載日:2012年2月 9日

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