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闘いつづける経営者たち
チロルチョコ株式会社【松尾 利彦】

目次

社是に込めた思い

ep-fight-015-11.jpg 「楽しいお菓子で、世の中明るく」――チロルチョコは2009年夏に新たな社是をこう定めた。松尾利彦は語る。

 「お菓子というのは、人にとって癒しであったり、ほっとひと息入れるための存在です。そのお菓子が、ギスギスした世の中を少しでも明るくすることに役立てば。それがチロルチョコの存在理由になるのではないか。この社是にはそういう思いを込めています」

ep-fight-015-12.jpg 2代目社長の時代に定めた社是は「仲良く明るい職場、良い品をより安く」だった。祖父の初代社長の時代には、お菓子づくりを通じた"報国"がうたわれた。社是は時代を映す。 「先代の社是は物不足時代を反映しています。先代は高級品だったチョコを、子どもたちの小遣いで食べられるようにしようと考えた。もちろん『良い品をより安く』はメーカーとして不変です。しかし、それだけでチロルチョコはこれからも世の中に受け入れられ続けるのかどうか。受け入れられるために、何を製品に上乗せすればよいのか。どういう価値を消費者に提供するか。それにはやはり『世の中明るく』だと考えたわけです」

問題点を具体的に発見できない

ep-fight-015-13.jpg この社是を社内の隅々にまで浸透させ、つぎなる成長軌道を模索する。すでに松尾の頭の中に青写真は描かれているのか?
 「いや、それがないから困っています」
 苦衷を明かす。
 「専務時代も含めて、これまでは会社の問題点が自分の中にあって、それをどう解決していくかが自分なりに整理されていました。チロルチョコ株式会社として東京に分社化したのも問題意識からでした。 その結果、一定の成果を出し、さてこれからつぎのステップへどう進んでいくかというときに、 過去にあったように問題点が具体的に発見できない。それが最大の悩みです」

 松尾が専務を務めた1980年代後半、子ども向けの低価格チョコを駄菓子屋で販売する市場は明らかに縮小し始めていた。その一方、コンビニの台頭は顕著だった。製菓会社にとって、そうした時代の変化にどう対応していけばよいのかは自明であり、問題点と解決策が明確だった。あとはそれを果断に実行するだけであり、松尾は東京進出を決断して成功につなげた。

 いま日本の市場で明らかなことは何か。急速に少子高齢化が進み、これまでのような市場の伸びがほとんど期待できないことである。そうした時代に企業が活路を見出すには海外進出しかない。さいわい、となりに伸び盛りの人口大国・中国がある。

ep-fight-015-14.jpg 次代の成長を模索するひとつの選択肢として、当然のごとくチロルチョコもすでに上海でテスト販売を始めている。現地のファミリーマートを中心に、日本と同じチョコを同じパッケージのまま販売したところ、たちまち人気商品になった。
 「しかし、」と松尾は言う。
 「これまでにやってきたことはすべて国内です。言葉は通じるし、目で見てわかることばかりだった。しかし中国語はチンプンカンプンです。中国には何度も行くけれど、旅行とビジネスとは別です。現地の人と十分にコミュニケーションできないのは決定的な足かせです。しかも、僕自身が中国に行きっぱなしになるわけにはいかない。そんなことでビジネスかできるのかどうか」

 上海で販売しているチョコの価格は、中国の購買力平価に合わせて安くしており、必然的に"出血"販売の状態。いくら人気商品でも、このままにしておくわけにはいかず、現地生産を迫られる日が早晩やってくる。
商機に満ちた市場を前に、どういう決断を下すのか。そんな悩めるトップに問うてみる。いつまでも社長に権限を一極集中させていないで、信頼できる優秀な部下にそろそろまかせるときを迎えているのではないか、と。そんな意地の悪い問いかけに、松尾は一呼吸おいて、「そうかもしれない」と破顔一笑した。

松尾利彦プロフィール

1952年生まれ。75年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同年アメリカ留学。77年松尾製菓株式会社入社。80年にヤマサキナビスコ株式会社に出向。85年松尾製菓の常務取締役就任。従来の駄菓子店を中心とした販売ルートからコンビニエンス店を中心とした一般販売ルートへの転換を図り「大人も楽しめるチロルチョコ」を目指す。91年代表取締役に就任。2004年、企画・販売部門を独立させチロルチョコ株式会社を設立。松尾製菓株式会社と兼任で代表取締役に就任。好きな言葉は "夢は叶う"。

企業データ

チロルチョコ株式会社

〒101-0054
東京都千代田区神田錦町3−23
TEL:03-3292-7170
事業概要:チョコレート販売(製造は松尾製菓株式会社)
設立:2004年4月
資本金:5000万円
売上高:109億円(2009年3月)
従業者数:50人

掲載日:2010年1月21日

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