トップページ  >  起業する  >  コラム・インタビュー  >  闘いつづける経営者たち  >  03.行政との闘い―自動車メーカーになることはまったく不可能ではなかった

闘いつづける経営者たち
株式会社光岡自動車【光岡 進】

目次

メーカーになることは不可能ではない・・・

ep-fight-007-17.jpg 市販改造車「ラ・セード」の開発で自信をつけた光岡は、改造車の製作から一歩進んで、新しいクルマをフレームから丸ごと開発することを決意する。それはすなわち、自動車メーカーになることを意味していた。

 「新しいフレームからクルマをつくりたいのですが、どんな検査をうければいいんですか」。光岡は91年夏のある日、東京・霞ヶ関の運輸省審査課の担当官と対面し、単刀直入に訊ねた。

 「それは無理でしょう。そういうことは自動車メーカーじゃなければできないんですよ」と担当官。「では、メーカーになるには、どうすればいいんですか」と詰め寄る光岡。

ep-fight-007-18.jpg 「法律の条文では、自動車メーカーとは『自動車の製作を業とするもの』としか書いていないんです。ウチは改造車ながら車検を通ったクルマを製造している。それなのに『自動車の製作を業とするもの』と認められないのは納得がいきませんでした」

 しつこく食い下がる光岡に、担当官は自動車メーカー団体の日本自動車工業会(自工会)への加盟を示唆する。光岡は、その足で自工会事務局を訪れ「自工会に加盟するには、どうすればいいのか」と聞きただす。

 自工会の説明で、自工会に加盟している企業は10名前後の社員を自工会に自費で出向させていると聞かされる。それが加盟の条件ならば、とうてい中小企業の光岡自動車には不可能なことだった。

ep-fight-007-19.jpg 光岡は運輸省にとって返し、「自工会に入っていなければ、自動車メーカーとはいえないということは、一体どの法律のどこに書いてあるのか」と再び詰め寄った。

 こんな行政とのやりとりが続く中、「ならば挑戦あるのみ!人が進まない危険な崖っぷちの先にも必ず道はある」と、光岡は開発部のスタッフに開発コードネームMS01型(ゼロワン)と称する新車開発の大号令を発した。

 「確かにフレームからクルマをつくるのは大変なことなんですが、法律的にまったく不可能ではないとの感触を得ましたね」

ゼロを1にする難しさを知った

ep-fight-007-20.jpg 新車ゼロワンの開発コンセプトは、スポーツカーの名車「ロータス・スーパーセブン」のようなクルマづくり。そこで光岡は新車開発の参考にと、改造スポーツカー「バーキン・セブン」を購入した。

 「バーキン・セブンはロータス・スーパーセブンのレプリカ。これを分解してフレームの構造や材質を調べあげ、ゼロワンのフレームを設計しました。このとき採用したのがパイプ・スペース・フレームと呼ばれるものです」

 光岡が採用したパイプ・スペース・フレームとは、細い角パイプの鋼材をボディ形状に合わせた立体的なフレームのことである。このフレームは剛性が高く、車重を軽くできるため、スポーツカーには理想的だった。

 「ただフレームの内側にエンジンなどの主要部品を包み込む構造になっているため、フレームを小さくするのに設計者は苦労しました」

 光岡は開発スタッフに何度も「もっと小さくしろ」と、つくり直しを指示し続けた。こうした試作を繰り返しながら完成した新車ゼロワンが、組立車というカテゴリーで車検にパスしたのは、92年10月だった。

ep-fight-007-21.jpg 組立車とは、『自動車の製作を業とする者以外の者』がつくるクルマを意味する法律用語である。まだ、自動車メーカーと認定されていなかった光岡自動車は、運輸省との長い交渉の末に、組立車として車検審査を受けた。

 「車検審査は、茨城県の筑波にある日本自動車研究所の施設で行われ、前面・後面の衝突試験(クラッシュテスト)で2台のテスト車を潰した末に合格しました」

ep-fight-007-22.jpg この組立車ゼロワンは、94年1月に発表された。だが、ゼロワンが型式認定を受け、大々的に市販できるまでには、あと2年余の歳月を待たねばならなかった。

 組立車は、年間99台までしか製造販売が認められておらず、量産車として市販するには新型車として型式認定を取得する必要があったからである。

衝突試験では8台潰し、走行テストは1日3交代の人海戦術

ep-fight-007-23.jpg 1994年1月20日、光岡はゼロワンの第一号車を完成、発表した。それは組立車として新規検査にパスしてから1年4ヶ月後のことだった。

 新聞やテレビは一斉にホンダ以来、日本で10番目の自動車メーカーの誕生ともてはやした。光岡は『北陸の本田宗一郎』として一躍、脚光を浴びた。

 しかしゼロワンが型式認定を取得し、光岡自動車が運輸省から正式に『自動車の製作を業とする者』と認められたのは、96年4月10日のこと。この日こそ、光岡の悲願がかない、法律的にも晴れて自動車メーカーになった瞬間だった。

 組立車ゼロワンの車検が通ると、光岡は型式認定に向けて迅速に動いた。新型車が運輸省の型式認定を受けるには、地球3/4周に相当する3万kmの走行テストや衝突安全試験を受け、合格しなければならない。

 資金力のある大手メーカーは、シャーシ・ダイナモと呼ばれる走行実験装置を有している。そこでテスト車を走らせ、無人走行テストや大型コンピュータの仮想空間内での衝突シミュレーションを繰り返し、試験本番に臨む。

 だが、開発資金に乏しい光岡自動車。これに対抗すべく人海戦術と少ない予算で難関に挑んだ。

 「走行テストは開発要員が一般道路や高速道路を昼夜兼行、1日3交代、雨天決行で2ヶ月間を走って3万kmを走破しました」

 運輸省の係官立会いのもとでの衝突試験もぶっつけ本番。8回の予備試験で8台の試作車を潰し、9台目のクラッシュテストでやっと合格する有様だった。

 こうしてゼロワンが型式認定を取得し、はれて日本で10番目の乗用車メーカーが誕生した。認可された96年4月10日は、光岡が馬小屋を借りて板金塗装工場を始めてから28年目、模型エンジンを手にした少年の日から数えて50年目の春だった。

オリジナルのクルマづくりへ一直線

ep-fight-007-24.jpg 光岡は小学5年生の時に、富山市内の模型店で模型用エンジンに出会った。これに魅せられると、自分から前払い積み立てを店主に申し出て、このエンジンを執念で手に入れる。

 以来、動力機関にほれ込み、特にいつでもエンジンに触れられる自動車整備工になる夢を育んできた。

 自動車販売会社勤務を経て自動車の板金塗装・修理業を起業。その後、中古自動車販売事業に乗り出すもののエンジン・マニアでクルマ好きの光岡は、いつか自分好みの自動車を自分の手でつくるという夢を抱き、その夢の実現に向かって走り出す。

 そしてミニカー、改造車の製造を経て、ついに型式認定車ゼロワンを生み出した。ゼロワンは、≪ゼロ=夢≫を≪ワン=かたち≫にするという思いを託し、光岡が命名したものである。

その後、光岡はミニカー・シリーズを「ゼロハンカー」と名付けたが、ゼロハンからゼロワンまでの14年の道のりは、まさに光岡のクルマづくりの夢をかたちにする営みの軌跡であった。

 以降、ゼロワン第2弾「ゼロワン・クラシックタイプF」(96年11月)、オリジナルカー「ガリュー」(96年2月)、「リョーガ」(98年2月)、マイクロカー(ミニカー)MC‐1、K‐1、キットカーK‐2(98年7月)、電気自動車MC-1EV(99年4月)、オリジナルカー「ユーガ」(2000年3月)、「Newラ・セード」(2000年11月)と、個性的なクルマを次々と開発・製造、オリジナルカー一直線の道をひた走るのである。

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光岡 進プロフィール

1939年、富山県生まれ。県立富山工業高等学校を卒業後、国産車ディーラー(富山日産自動車と富山日野自動車)で新車営業を担当。1968年、クルマの板金塗装と修理サービスを手掛ける光岡自動車工業を創業し、1970年にはカーショップ光岡自動車を立ち上げ中古車事業にも乗り出す。1979年、2つの会社を統合、株式会社光岡自動車として全国展開に乗り出す。直後、中古車オークション会場で偶然見つけたイタリア製ミニカー(マイクロカー)に衝撃を受け、同車の輸入販売事業を手掛けようになる。1982年、50ccエンジンを搭載して自動二輪免許・原付免許で運転が可能なゼロハンカー「BUBUシャトル50」を発売、自社オリジナルカーの製造販売をスタート。以降、独創的な発想と名車のレプリカ製造という改造車事業でコアなユーザー層の獲得に成功。1996年、日本で10番目の乗用車メーカーとして認可。1998年に組み立て式マイクロカー(キットカー)、2006年にはスーパーカー「大蛇(オロチ)」を発表。

企業データ

株式会社光岡自動車

〒939-8212
富山県富山市掛尾町508番地の3
TEL.076-494-1500(代表)

事業概要:自動車製造・開発、輸入、中古車事業
設立:1979年(昭和54年)11月
資本金:2億2,700万円
売上高:339億円(07年9月期グループ実績)
従業者数:595名(08年2月1日現在)

掲載日:2008年6月18日

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