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社長の道場
戦略立案と人材育成は社長の担当業務

中小企業の社長にとってもっとも大切な仕事は何だろうか。ほとんどの仕事に陣頭指揮をとるのが中小企業の社長だが、他人にまかせずにみずから担当すべき仕事は、経営戦略の立案と人材の育成、この2つである。事例をまじえて解説しよう。

坂井義尚氏 坂井義尚(さかい よしひさ)
平成4年、立教大学経済学部卒、ベンチャー・リンク入社。サンマルクをなどFCビジネスの経営指導、全国の中堅・中小企業の経営支援で豊富な実績を積み、現在は年間200本以上の講演を全国で展開する講師として活動

目次

部下の自主性にまかせて初の赤字となったアパレルメーカー

中小企業の社長が他人に任せてはいけない仕事が2つある。それは、経営戦略の立案と人材の育成である。たとえば営業現場や先端技術の開発などは優秀な部下に任せてしまっても構わないが、経営戦略の立案をコンサルタントや経営企画室に、人材の育成を人事部などに任せてはいけない。

あるアパレルメーカーの例をあげよう。同社は創業以来10年間、増収増益を続けてきた。しかし同業他社から「社長一人でもっている会社。いまのままではやがて成長にも限界がくるだろう」、「万一、社長が倒れたらどうなる」などと意見を言われた。

社長はこの意見を受け入れて、社員の自由な発想を尊重する経営に方針を転換した。たとえば、社員が提案してきた事業はすべて自主性にまかせて以下のように実施させた。

  • 「新しい商材を作るべきだ」という提案でマーケティングを実施。
  • 「お客様の声を聞くため」という理由で小売店を開業。
  • 「第2の柱として新しい事業を」という理由でレストランを開業。

その結果、同社はたちまち創業以来初の赤字に直面した。原因は、会社の根幹となる戦略の方向性について部下の自主性にまかせたことである。仮に、こうした戦略を実施するのであれば管理体制や人材育成が十分な状態になっていなければならない。

そもそも新規事業は、社長にも事業の本質やマーケットの状況がわからず、戦略的な判断のつかない領域である。新規事業が軌道に乗るまでには時間を要することが多いが、その原因が、任せている部下の能力不足なのか、環境が原因なのか、資金投入や撤退のタイミングを判断しづらい。

もう少し踏み込んで資金を投入して成功させるのか、撤退すべきなのか、社長自身が取り組んでいれば適切に判断できる。部下の報告だけで的確な指示を出せる本業は若手に部下にまかせて、新規事業こそ社長がみずから取り組むべきである。

社長は末端の情報を完全に把握しなければならない

戦略的な意思決定は社長の判断で下されなければならない。同時に、社長が末端の情報まですべて把握できる体制を固めておく必要がある。各地に営業所をもつ年商30億円のメーカーのケース。同社は社長が逝去した後、社長の指名により娘婿が新社長に就任した。

ところが、年商の3分の1にあたる約10億円を売り上げる東京支店が新社長就任後、日報・月報を提出しなくなった。東京支店長は前社長の長男で、前社長と衝突して一度退職し、数年前に東京支店長として復帰。東京支店の業績を伸ばしたのは自分であるという自負をもっていた。

新社長が東京支店長を管理できなくなったことを契機に、ほかの支店も日報・月報を提出しなくなり、ついに社長は全社の受発注の把握さえできなくなる。こうして報告体制が崩壊し、マネジメント不能の状態に陥った。そして、新社長就任後わずか1年数ヵ月後に同社は倒産した。債権者会議でも、各支店の状況を把握できていない新社長のもとでは再建の見込みを立てられなかった。

中小企業は、社長が情報のすべてを完全に把握していなければ簡単に倒産してしまうのである。同社の場合、東京支店の状況を把握できなくなった時点で、東京支店を分社化するか、閉鎖すべきだった。

社長の仕事の2〜5割は人材育成にあてるべき

ある情報サービス会社では、社員が100名を超えた時点から社長がみずから取り組んでいた採用と教育を人事部にまかせた。数年後、同社の社長は人材の育成が遅れていることに気づいたという。何が問題だったのだろうか。

たしかに社長の指示どおりに人事部が新入社員を教育すれば、指示したレベルの知識を伝えることはできる。しかし社長の心は伝わらない。社長が直に接することで心が伝わり、社員の成長に大きく影響してくるのだ。

社長の仕事の2〜5割は人材育成にあてるべきである。社長が朝礼や会議で話をすることは人材育成なのである。社長は採用から育成までの仕事を、最後の最後まで手放してはいけない。さまざまな場面に社長が参画すれば、人材育成が手を離れることはない。

さまざまな場面で社長が情熱をもって社員に語りかければ、会社の規模や収益とは異なる次元でアピールできる。中小企業が人材を得るには、特に社長自身の夢を語ることが重要である。

社員に夢を与えられる人事制度のポイント

中小企業にとって優秀な人材について考えてみよう。それは"社長の思いを受けとめて、夢を実現するために、社長の心を自分の心として動いてくれる人"である。社長に意気投合して、社長についてきてくれる、まずまず優秀な人材が社長の心を受けとめて、一生懸命仕事に取り組む。3〜4年後、そのうちの数名が頭角を現わし、会社の将来を担っていくようになる。

優秀な人材を育成するには、社長が社員に夢を与えられなければならない。そのためには、社長が社員の夢を把握していなければならない。社員に夢を与えられる人事制度を設けて、社員のモチベーションを高めていくこと。その仕組みは以下である。

1.長期の夢

社員のライフプランを作成させ、各自のライフプランを把握したうえで、独立支援制度など会社がどのような支援をできるかを明確にする。上場の目標があれば、持ち株制度などを用意する。

2.短期の夢

個人の目標設定と公正な評価制度の策定が必要である。たとえば実力主義の賃金制度やインセンティブ(報奨金)制度、柔軟な人事制度など。

夢を与えるための施策についての情報収集や調査研究は部下にまかせてもよい。しかし、自社にとって好ましい制度の選択や社員へのアピールは、社長が取り組むべき仕事である。


掲載日:2007年9月 4日

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