日本はいま未曾有の大混乱の中にある。つまりカオスだ。技術革新の大波は、情報通信のボーダレス化を促し、大企業といえども安閑とはしていられない時代だ。
新しい産業が次々と登場し、新興勢力が勃興する一方で、旧来勢力は市場から撤退を余儀なくされ、新旧交代が加速する。ビジネス・ルールも変わる。国際標準とか、ディファクトとかが猛威をふるい、いまビジネスマンを驚愕させるのはビジネスモデル特許攻勢だ。会計基準も決算処理も、新しいルールが適用される。
これは百年に一度あるかどうかの一大変革期といえるだろう。混乱期というのは新しいビジネスを生み出す絶好のチャンスでもある。カオスの世界には、底知れぬエネルギーが秘められている。旧来から墨守されてきた既得権益が崩れ、ベンチャーたちが活躍できるフロンティアが広がるからだ。とはいえ、私たちは羅針盤を持たない難破船に乗っているみたいで、まるで展望が見えてこない。荒波を乗り切ることに失敗すれば、日本丸は確実に沈没する。そうあっては、なるまい。しかし、ほのかの曙光もみえる。振り返ってみれば、明治・大正・昭和という時代は、正しくカオスの時代だった。
明治・大正・昭和の経済人たちは、実はベンチャーであった。鉄道や道路を建設し、高炉や化学を作り、発電所を建設し、近代日本の基礎を築いた人びとだ。彼らは、無から有を為し、巨大企業を興し、産業といえば農業しかなかった極東の島国を経済大国に見事に設計し直した。彼らベンチャーの果たした役割は、決して過小に評価してはなるまい。軍人でも官僚でもなく彼らベンチャーたちが、近代日本の礎を築いたからである。いまここに「明治・大正・昭和のベンチャーたち」というタイトルで、連載を始めるのは、そうした意味を認めるからである。
杉田 望
プロフィール 杉田 望(すぎた のぞむ) 1943年、山形県生まれ。早稲田大学文学部中退。 市場調査会社、業界紙編集長/社長を経て、1988年から執筆活動に専念。 企業経営、通商問題、中国問題を中心に経済評論を続ける一方、ノンフィクションや経済小説を発表するなど多面的な活動を展開中。主な著書に「プラントビジネス」(講談社)、「管理職の叛旗」(講談社)、「黒幕会社」(立風書房)、「満鉄中央試験所」(講談社)、「大蔵省腐敗官僚」(徳間書店)、「金融崩壊」(徳間書店)、「崩壊商社」(徳間書店)、「金融破地獄」(同朋舎)、「巨悪」(小学館)、「日銀崩壊」(徳間書店)など多数。
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