詰め替えそのまま
| 詰め替え用のシャンプーやリンスをボトルに詰め替えなくても使うことができる。それを可能にしたのが、三輝(東京都大田区)の「詰め替えそのまま」だ。 |
順調なときこそチャレンジすべき
どの詰め替え用パックにも対応できるよう工夫した机の上に並べられたいくつものポンプとホルダー。似ているが、少しずつ形が違う。それらを見ながら、三輝の阿部雅行社長は「100個以上試作品を作った」と言って笑った。
東京都大田区に工場を構える三輝。同社の本業は「流体継手」の製造・販売だ。これはガスが逆流するのを防ぐ製品で、企業向けに事業展開を行っている。
同社が初めてつくった家庭用雑貨が「詰め替えそのまま」だ。詰め替え用のパックをそのまま使うことを可能にしたアイデア商品だ。
「詰め替えそのまま」を使うと、浴室にボトルを置かずに済むため省スペースになる。この商品のアイデアが思い浮かんだのは、空になったボトルにシャンプーやリンスを詰め替える作業の最中。「詰め替え用のパックを吊るしておける道具があれば、詰め替え作業が楽になるのに」と考えたことが発端だった。早速、阿部氏は開発に乗り出した。
本業が順調だったにもかかわらず、商品開発に着手した理由について、阿部氏はこう語る。
「本業は順調だった。だからこの機会に新しい商品の開発をすべきだと思った」
売り上げが落ちてから新規事業を始めても、焦りで良い結果は生まれない。そのため、本業が順調なときこそ、新たな分野にチャレンジすべきと判断したのだ。
昼夜問わず試作品を持ち歩く
阿部社長は「市場に出す前からヒットすると思っていた」と自信をのぞかせる。アイデアを練るうちに、「いっそのこと、詰め替えパックをそのまま使えばいい」という考えに至った。
商品のイメージは浮かんだものの、製品化にこぎつけるまではいばらの道だった。
ホルダーは、シャンプーが入った詰め替えパックの重さに耐えられ、なおかつ、吊るしている間にはずれてしまわないようにする必要がある。そのため、試作品をつくっては社内や自宅で吊るし、耐久性などをテストした。つくった試作品は常にポケットに入れて持ち歩き、空いている時間に何度も見ては改良すべきところを探した。
試作品をつくるためには、シリコンで型をつくる必要がある。ひとつの型にかかるお金は20万円近い。本業とは関係のない分野で、社長が資金をつぎ込み開発を進める。そんな姿を見た社員は「社長が何か変なものをつくっている」といぶかしげな目を向けていたという。
「夜寝るときも枕元に試作品を置いて改良すべき点を考えた」と阿部社長は話す。ようやく完成したのは、アイデアを思い付いてから2年半が経過した、2008年7月のことだった。同社は出来上がった製品をひっさげ、東京ビッグサイトで開催された「デザイン雑貨EXPO」(リードエグジビションジャパン主催)に参加。すると、同社のブースには多くの人が詰めかけ、用意していた名刺とチラシは瞬く間になくなったのだ。「600人もの人と名刺交換した」(阿部氏)。
ヒットするのではないか、という予感めいたものはあったとはいえ、予想以上の反響だった。
消費者の清潔感求める志向に合致

■商品概要
詰め替えそのまま
全5色(ホワイト・イエロー・オレンジ・グリーン・ブルー)ホルダーとポンプのセット
1764円(税込み)
08年12月に発売を開始。同月は1000個、翌月には2000個、09年3月には3000個と販売個数は右肩上がりとなった。09年前半だけで2万個以上売れたという。
ヒットした要因について阿部氏は、清潔感を求める消費者のニーズにマッチしたと見ている。詰め替えをする際、中身はどうしても空気に触れてしまう。詰め替えパックのまま使えば、より長い時間密封されているから清潔だ。
また、最後まで使い切れるため無駄がない。財布のヒモが固い消費者に訴求する要因も秘めていたのだ。
初の家庭用雑貨が大ヒット。傍から見ればうらやましい状況だが、阿部氏は秘かな悩みを抱えている。それは消費者からの電話だ。
これまで企業相手のビジネスを行ってきた同社に、消費者から電話がかかってくることはなかった。しかし、「詰め替えそのまま」のヒットにより、消費者から電話がかかってくるようになったのだ。注文が主だが、消費者からの電話への対応にはまだ慣れない。「電話が鳴ると緊張する」と阿部氏は苦笑いを浮かべる。
これまでに開発に注ぎ込んだ金額は1億円以上。「多くのコストと時間をかけたからこそ出来上がった」(阿部氏)。
チャレンジ精神が生み出した新たな商品。「消費者向けだけではなく、今後は理容・美容業界での需要を見込み、さらに改良を重ねる」と阿部氏は力強く語った。
| 企業名 | 三輝 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都大田区北糀谷1-20-8 |
| 資本金 | 1000万円 |
| 従業員 | 30人 |
| 電話 | 03-3742-2345 |
| URL | http://www.sanki-web.net/ |
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