機械部品のばねをおしゃれな雑貨に
| 東京下町のばね工場が生み出した小さな雑貨が売れている。ばねをゆるやかにたわませ留めただけというシンプルな構造ながら、しっかりとメモ用紙を挟む機能を備えた商品だ。デザイナーとのふとした出会いがきっかけで生まれ、グッドデサイン賞も受賞。単純に見えるこの雑貨には、実は日本の職人の技が細部にまで行き届いている。 |
職人技が生み出したおしゃれなホルダー
楓岡武之社長1944年東京都墨田区生まれ。工業高校卒業後、機械工学専門学校へ進み、父親の興した楓岡製作所(楓岡ばね工業の前身)で20歳から職人として働く。
市場にモノがあふれる時代、机上の整理に役立つ小物といっても便利なだけでは売れない。名刺やハガキ、メモ用紙などをコイルばねの間に挟んでおける「hane(はね)ペーパーホルダー」がヒットしたのは、デザイン性の高さが支持されたからだ。
長方形にグルグルと巻かれた鋼のコイルばねは、職人技が生み出す機能美で目を引きつける。その一辺をくぐらせるようにカラーアルマイト処理をしたアルミニウムの台座があり、重心の低さと安定感を生み出している。精巧なばね独特の柔軟性により、やや厚めのものでもしっかりと挟み込み、手やモノが軽く当たったくらいでは倒れることもない。
「hane」というネーミングは、「跳ね(はね)」が転じて「ばね」という言葉が生まれたことに由来する。台座の色は赤、青、黒、オレンジの4通り。1999年10月の発売から08年6月までに約6万個を売り上げ、現在も国内だけで月に700個のペースで売れている。 開発・製造を手がけたのは、半世紀以上も前から東京の下町で産業機械のばねを製造してきた楓岡ばね工業だ。
工業デザイナーの提案で雑貨の共同開発を始める
機能性とデザイン性を融合し、国内外の多くの人に認められた。これまでに約6万個を売り上げている。精度と性能を求められる工業用部品と、趣味嗜好で選ばれるデザイン雑貨は、対極に位置する。工業用部品ばかりを作っていた楓岡ばね工業がデザイン雑貨に挑戦したきっかけは、99年に突然訪れた。地元墨田区の異業種交流会で、工業デザイナーの大高知子さんから声をかけられたのだ。
「それ何ですか? おもしろいですね」。大高さんが手を伸ばした先には、楓岡ばね工業の楓岡武之社長が遊びで作ったキーホルダーがあった。それは2つのばねがそれぞれの溝で合体するように工夫したものだった。話が弾み、ばねを使った雑貨の共同開発を大高さんから持ちかけられ、その場で快諾した。
台座の色は赤、青、黒、オレンジの4色。パッケージもしゃれているため、ギフト用に購入する人が多い。「自分にとって、ばねはばねでしかなかった」という楓岡社長が乗り気になったのは、プロのデザイナーである大高さんが、ばねの形状を利用すれば、おもしろい雑貨を作ることができると発案してくれたからだ。
楓岡社長と大高さんは二人三脚で試作を繰り返しながら開発を進めた。大高さんは早い段階で「ペーパーホルダーでいきましょう」と提案してきた。ばねの特性をどう生かすか、線材の太さやコイル間の幅、全体のシルエットや台座の色など、2人で意見を出し合いながら詳細を詰めていく。
コイルねじと台座を手作業で組み立てる。簡素な作りのなかに均等な幅のコイルを作る職人技が詰まっている。そうして完成したのが、コイルねじと台座を手作業で組み立てるペーパーホルダーだ。外観は簡素な作りだが、均等な幅のコイルを作る職人技により機能性とデザイン性を見事に融合させている。艶つやのあるメッキ加工、がたつきがなく発色のいい台座も確かな技術なくして実現できない。メッキや台座づくりを担う業者は、楓岡社長が自ら足を運び、腕が確かなことを見て選んだ。
文具店では売れずに雑貨店でヒットする
苦労の末に誕生したhaneペーパーホルダーだが、文房具店では売れなかった。発売初年度の販売実績は、わずか100個足らず。「しかも、友だちが義理で買ってくれたようなもの。この時点では私自身も正直なところ、ペーパーホルダーのようになくても困らない雑貨は、売れなくても仕方ないのかなあとも思いました」と楓岡社長は苦笑する。
ヒットを呼び込んだのは、販路の見直しだった。「商品の特性はデザイン性にあるのだから」と、デザイン雑貨を扱う店に並べたところ、注文がじわじわと増えるようになったのだ。なかでも、世界中から選り抜きの雑貨を集めた「青山スパイラルマーケット」(東京都港区)が02年に販売を始めたことが大きな転機となる。
おしゃれな人たちの間で話題となったうえ、米ニューヨーク近代美術館(MoMA)の代理人の目にもとまった。MoMAデザインストアでの取り扱いはデザイン性が高いことのお墨付きであるとともに、22ドル(約2500円)の高値にもかかわらず、和の扇をイメージさせると好評を得て、今も年に2000個のペースで売れている。さらに、06年にはグッドデザイン賞を受賞した。
発売開始後の値上げもヒットの一因となった。輸入文具を扱う友人から「パッケージもしゃれているし、ギフト商品としても売れるはず。ギフト路線も狙うなら価格は安すぎないほうがいい」とアドバイスされて値上げに踏み切った。それまで実勢価格1500円程度のオープン価格にしていたが、定価を1890円に改定した。 「元々オープン価格でしたし、これから販路を広げようという過渡期だったので、値上げ当初も悪影響はほとんどありませんでした」(楓岡社長)
haneペーパーホルダーの開発・販売を通じて、楓岡社長は工業用のばねについても新たな発見をしたという。機能が重視される部品であっても、「美しい」「見ていて癒やされる造形」「使っていて気持ちいい」という要素が大切ということだ。 「人間関係も大きく広がり、様々な意味で目からうろこが落ちました。また、購入者の『とても気に入った』『愛着が持てる商品』と喜ぶ声を耳にするたび、心が豊かになります。作って本当によかったと思います」(同)
haneペーパーホルダーがヒット商品に育ち、楓岡ばね工業では「ばね雑貨のシリーズ」をもう1つの事業と位置づけている。同シリーズではキー(鍵)リング、卓上時計、写真立て、ペンスタンドなどを手がけ、今後もアイデアとデザイン性に富んだばね雑貨の開発を積極的に推し進めていく予定だ。
| 企業名 | 楓岡ばね工業 |
|---|---|
| 本社 | 〒131‐0043 東京都墨田区立花5‐9‐5 テクネットすみだ401 |
| 創業 | 1950年 |
| 資本金 | 300万円 |
| 売上高 | 3600万円(06年4月期) |
| 従業員 | 1人 |
| 事業内容 | ばねおよびばね製品の製造 |
| URL | http://www.kaedeoka.co.jp |
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