WIN─WIN─WINの販促活動
| 商品やサービスを広める販売促進活動で新たな手法が注目を浴びている。キーワードは「0円&お得感」。消費者は商品をタダか格安で手に入れ、企業は宣伝と顧客の囲い込みをする。 両者を取りもつ中間業者は、広告収入が得られる。 消費者、企業、中間業者の三者が利益を得る「WIN─WIN─WINの販促活動」の最新事情をリポートする。 |
「0円コピー」「割引自販機」など無料・格安サービスが続々と誕生
(左)一見、カップラーメンに見えるが、実は飲料用の紙コップ。「メディカフェ」は自動販売機で販売される飲料の紙コップも広告媒体として利用する。(右)飲料が注がれる間に、液晶モニターに企業広告が流れる(ウィル・ビーの「メディカフェ」)。写真ほぼ中央の赤と青の部分が液晶モニターだ。
約3万人の学生が在籍する早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区)に、2007年10月、新たな飲料自動販売機が設置された。外観はアニメのキャラクターとロゴマークでデザインされ、正面には高画質の液晶モニターがはめ込まれて、人目を引き付けることこのうえない。これは、日清食品(大阪市淀川区)の販促キャンペーンの一環だ。
利用者がお金を入れると、紙コップに飲料が注がれる15秒ほどの間に、液晶モニターに日清食品のコマーシャルが映し出される。カップを手に取るまでの時間に、自然と同社の広告を見るという仕掛けだ。飲料の値段は50円と、通常の自販機の約半額。派手なデザインと低価格にひかれて、学生が次々と利用して行く。
ある3年生は「安いし、自販機のデザインも楽しいから、いつもここで買っています」と笑顔で話す。待ち時間に流れる広告は手持ち無沙汰解消にもなる。ほかにも慶応大学医学部(東京都新宿区)、東京学芸大学(同小金井市)、一橋大学(同国立市)、中央大学(同八王子市)など、首都圏の大学を中心に同様の自販機が設置されている。
(左)ウィル・ビーが首都圏の大学などで展開する「メディカフェ」事業は、自動販売機を利用して、格安で飲料を提供する。(右)「メディカフェ」は自動販売機の本体そのものを広告媒体として利用し、広告収入を飲料価格に還元する。この「広告付き自販機」の広告代理業を展開しているのは、ウィル・ビー(東京都新宿区)。企業の採用コンサルティング、求人ウェブサイトの運営などを手がけてきた同社が、07年6月に新事業「メディカフェ」として開始した。
自販機への外装デザイン広告、液晶モニターのコマーシャル、紙コップへの印刷広告などから広告収入を得る。その分、飲料を割引して商品を提供する。同社のメディカフェ事業では、1週間で3,000〜4,000杯が売れる自販機もあるということだ。大学のほかにも、ショッピングモールや病院などからの問い合わせが相次いでいるという。
また、大学構内には、無料コピー機も登場した。学生ベンチャー企業のオーシャナイズ(東京都港区)が展開する「タダコピ」である。通常は白紙であるコピー用紙の裏側が広告用スペースになっており、学生向けのアルバイト情報や求人広告などが印刷されている。06年春からサービスを開始したところ反響が大きく、07年9月までに首都圏をはじめ各地の33大学に設置されている。
「サンプル・ラボ」は、都内明治通り沿いにある「The Iceberg」という全面ガラス張りのおしゃれなビルの3階にある。室内の空間は330平方メートルもの広さがある。一方、新商品のマーケティングに欠かせない試供品(サンプル)配布にも、新たな潮流が生まれている。その一例が、07年7月に巨大商業施設とブランドショップが集まる東京都渋谷区神宮前に誕生した「サンプル・ラボ」だ。多様な商品を試用できるほか、試供品も持ち帰れるショールームで、企業の販促活動を総合的に支援するメル・ポスネット(東京都台東区)が仕掛けた。室内中央には、高額商品などを手にとって使い心地などを確かめられる展示ゾーンがあり、それを囲むように化粧品や飲料、食品、文房具などがずらりと並ぶ「お持ち帰りゾーン」がある。
そのほか、化粧品類をその場で試用できる「パウダールーム」も併設されている。 サンプル・ラボへの入場希望者は、インターネットで会員登録を済ませ、初回の来館時に入会金300円と年会費1,000円を支払う。入場は基本的に予約制。館内で気になる試供品を最初は5つまで持ち帰れる。会員証代わりとなる携帯電話のデータから会員がどの試供品を持ち帰ったのかが分かる。そして後日、会員は持ち帰った試供品についての感想や意見などのアンケートに答えるという仕組みだ。
「いつも最新の試供品が集まっているので、来るだけでも楽しいですよ」と会員登録をしている28歳の女性は、同スペースの魅力を話す。街中で不特定多数に試供品を配布するよりも、興味を持った消費者の手に渡り確実に反響が返ってくる。確かな顧客層の市場調査と顧客データの獲得につながるのが、出展企業のメリットだ。
若者をターゲットとする商品の販促だから、自動販売機は大学に設置される。このほか、サラリーマンやOL向けにオフィス内、エンジニア向けに工場などに自販機が設置される。販促の対象をより確実に絞れるのが魅力だ。広告料を消費者に還元する中間事業者のアイデアが鍵
このように、企業の販売促進活動をからめ、消費者に「0円」または「格安料金」で商品やサービスを提供する手法が浸透しつつある。この手法には、消費者にとっては商品を格安で購入でき、企業にとっては販売ターゲットの顧客層に通常よりも割安な費用で広告宣伝活動を展開できるメリットがある。さらに、仲介役の広告代理店や媒体運営会社などの中間業者は広告手数料が得られる。まさに3者がそろって得をする「WIN─WIN─WINの販促活動」だ。限りなく「0円」に近づけた商品やサービスは、消費者の心を捉え、自然に販促へとつながっていく。
企業の経営コンサルティングを手がけるMBAソリューション(東京都渋谷区)の安部徹也代表がこの販促手法の利点を語る。「無料なのは誰でも好きでしょう。加えて、近年は社会的な環境の変化、つまり経済格差が広がり、生活のなかで使える予算が限られる消費者層が広がっています。無料で手に入れて浮いたお金をほかにまわす。そんな消費行動が目立っているように思います」

MBAソリューションの安部徹也代表
「0円販促」は、今に始まったことではない。「広告収入を基盤にした消費者への無料サービスは、以前からありました。例えば街頭で配られる広告入りのティッシュも、その一つ。インターネットで得られる情報なども代表例です。例えば日本最大のポータル(玄関口)サイトのヤフーは、基本的にはすべて無料で情報が得られますよね」(安部代表)。
しかし、いくら無料でも消費者は関心がないものは受け取らない。興味がなければタダでも欲しがらないが、反対に興味をひかれる商品やサービスが無料で手に入るとあればわざわざ足を運んでも手に入れる。「0円販促」の成否は、中間事業者のアイデアと企業努力にかかっているとも言える。ターゲットの関心をひきつける商品やサービスをいかにして無料で提供し、その結果として広告主である企業の商品やサービスの購入につなげられるかがポイントだ。
「企業にとっては、商品やサービスを購入してもらうことに加えて、もう1つのメリットとして、新しい顧客リストの開拓につながることがあります。そのリストを使って新しい仕掛けを作り出せるのです」(安部代表)。
リスクが少ない販促活動に中小企業の活路がある
左)「Priea」は写真をシールにして届けるサービスも開始。(右)紙面の下半分に広告が入るパターン(右)と、片隅に入るパターン(左上・写真の左下の白抜きの部分が広告)があり、利用者は各15枚ずつを選べる。すでに「WIN─WIN─WINの販促活動」のビジネスモデルを中間業者として構築し、大きく業績を伸ばしている企業がある。デジタルカメラや携帯電話機の内蔵カメラで撮影した画像を無料でプリントし、家庭まで配送するサービス「Priea」(プリア)を展開するアイディアシンク(東京都千代田区)も、その一つだ。
利用者はインターネットで会員登録を済ませると、1カ月につき30枚の写真プリントを無料で注文できるようになる。子供をもつ主婦層を中心に会員が急増しており、同社の河内仁志社長は「サービス開始から約1年で、会員数は36万人を超えました」と手応えを語る。
無料でサービスを提供できるのは、会員の手元に届く写真にスポンサー企業の広告を印刷するからだ。L判と呼ばれるサイズの半分に広告が入るパターンと、片隅だけに入るパターンがある。アイディアシンクは広告料金のなかから写真の印刷代や紙代などを捻出することで、送料まで無料という「0円」サービスを構築した。
写真の品質は、街中にある現像店と同レベルだ。「いくら無料といっても『安かろう、悪かろう』ではサービスが成り立ちません。通常の現像と同じ品質を追求しています」と河内社長は話す。写真現像に着目したのは、「写真という文化は、人の生活に欠かせないものだから」と言う。
無料プリントサービス「Priea」を展開するアイディアシンクの河内仁志社長「捨てることなく保存し、また焼き増しして、友だち同士で分け合ったりしますよね。そこで、写真と広告を組み合わせたらおもしろいのではないかと思いついたのです」(河内社長)このサービスを利用したことがある30代の主婦は、「友だちのブログ(日記風簡易ホームページ)を見てプリアの会員になりました。写真に入る広告は決まっていますが、写真と広告の組み合わせを自由に変更できるのが、気に入っています」と話す。スポンサー企業の広告は直接、利用者の手元に届き、さらに友だちなどに見せたり、あげたりすることによって、大きく広がっていくというわけだ。「広告主と利用者の双方から、とても好意的な反応をいただいています」と河内社長は言う。
消費者が求める商品やサービスを無料または安価で提供し、顧客満足度が高く、スポンサー企業の利益につなげる新形態の販促活動は、今後さらに活発になるとの見方が大勢だ。中小企業にとっても、この「WIN─WIN─WINの販促活動」はますます見逃せない戦略となる。MBAソリューションの安部代表が指摘する。「不特定多数に広告を打つのは、広い海にえさをまくようなもので、当然ながら効果は薄まります。ターゲットを絞って広告を打つためにも、『0円』の魅力で顧客リストを作成していく、という取り組みは効果的と言えるでしょう。中間業者の協力も仰ぎながら、自社商品の販促モデルを作るのが一番です」
一方的に情報を送るだけでなく、消費者にもメリットを与えながら効果的な広告宣伝を行う「WIN─WIN─WINの販促活動」。狙った対象に的確に訴求し、売り上げを伸ばしたい中小企業の活路を開く手法の一つと言えるだろう。
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