百貨店の役員からバーのオーナーに【easy bar mimizuku】
百貨店のバイヤー時代、出張で訪れたヨーロッパや米国で、気軽に楽しくお酒が飲めるバールやパブに魅了されたことから、順調だったサラリーマン生活に別れを告げ、55歳でバー経営者として第二の人生をスタートした人がいる。「easy bar mimizuku」のオーナー、佐藤俊明氏だ。
「カクテルの作り方も独学で覚えた」というオーナーの佐藤俊明氏。毎日、夜9時ごろから閉店まで店に立つ |
easy bar mimizuku オーナー 佐藤俊明(さとう・としあき) 1949年生まれ。東京出身。修学旅行で訪れた関西に興味を持ち、大学卒業後、関西の百貨店に勤務する。婦人服部長、副店長などを経て関連会社の社長に就任したが、自分の店を持つ夢を実現するため2005年2月に55歳で早期退職し、翌月「easy bar mimizuku」を開業した。 |
2500円で飲める新地の人気バー
店舗面積は27坪で天井が高く解放感がある。内装から調度品まですべてこだわりをもって決めたという店舗は、佐藤氏にとって「人生そのもの」だという- ――easy bar mimizuku(以下、mimizuku)の概要を教えてください。
- mimizukuは2005年3月に大阪を代表する繁華街、新地に開業したバーです。新地界隈でバーというと、お酒一杯の値段は1000円以上、チャージもつくという高級バーがもっぱらですが、うちはお酒類は一杯700円程度でチャージもない。ですから、客単価も2500円ほどと、気軽にお酒が楽しめるバーです。
- ――どんな人たちが利用していますか。
- 大企業が集まるビジネス街に近いこともあり、お客さんは大企業のサラリーマンが中心です。年齢層は30歳前後が中心で、女性同士のお客さんも多いですね。また、10人が同席できるテーブルもあるため、グループのお客さんも来られます。
- ――業況はいかがですか。
- 今年の3月で開業から5年を迎えました。3年で8割がつぶれるという飲食業界で5年間続けてこられ、しかも、リーマンショックの影響で景気が冷え込んでいるなかでも、右肩上がりで業績は伸びています。
- ――多くの飲食店が軒を並べ競争も激しい新地にあって、そうした好調な業績を続けていられる秘訣はどこにあるのでしょう?
- 「お客さんの声を聞く」という姿勢が評価された結果ではないでしょうか。「お客さんに喜んでもらえる店にしたい」という経営者は少なくありませんが、本当にお客さんの声を聞いている人はどれだけいるでしょうか。うちの店では積極的にお客さんの声に耳を傾けるようにしています。
- じつは開業当初、うちは欧米によくあるイスを置かないキャッシュオンデリバリー(カウンターでお金を払って飲み物を買うスタイル)の店でした。しかし、それだと落ち着いてお酒が楽しめないという声が多数寄せられたため、オペレーションの方針を変えたのです。また、現在のボックスシートも、当初はカウンターの上に設置したスクリーンを見るためカウンターに向いた席でしたが、「話や食事がしにくい」といった声があったことから、対面式のボックスシートに変更したのです。
- このように、お客さんの声を聞き、変更が必要だと思った場合は早ければ翌日にも変えます。そうした対応がお客さんに評価され、店への支持にもつながっているのだと思います。
社長のイスを捨ててバーのオーナーに
- ――mimizukuを開業される前はサラリーマンだったそうですが、バーを始めるキッカケは何だったのでしょうか。
- 起業前は大手百貨店に勤め、長年、婦人服部門のバイヤーをしていました。頻繁に出張していた欧米で、パブやバールなど、気軽にお酒を楽しめるお店の存在を知り、いつかこんな店をやれればいいなと漠然と考えていました。その後、婦人服の部長から副店長や関連会社の社長になりましたが、マネジメントの仕事はあまり性に合わないと思い、それまで漠然としか考えていなかった"自分の店を開く"という夢を本格的に考えるようになったのです。
- ――具体的な起業の準備はいつごろから始められたのですか。
- 45歳くらいから考えてはいたのですが、50歳の時に「55歳で起業しよう」と決め、ビジネスの構想から店舗物件探しなど、本格的な準備を始めました。店舗の運営ノウハウは、大阪市の創業支援団体の産業創造館が主催する「あきない虎の穴」という開業支援制度を利用して学びました。
- ――開業資金はどのように準備されたのですか。
- 勤務先の百貨店には「早期退職者には退職後2年間、給料の半分を保証する」という「セカンドライフ支援制度」があったので、これを利用しました。また、店の改装費用などは退職金を充てました。
店の経営を通じて社会に貢献したい
- ――開業からこれまでに大変だったことはありましたか。
- いまでこそ業績は右肩上がりに伸びていますが、オープンした年は大きな赤字でした。しかも、開店から半年後に私自身が過労で倒れ、40日以上入院するという事態にも追い込まれ、最初の年は本当に大変でした。
- ――そうした状況に陥りながらも店を閉めようとは思わなかったのですか。
- いや、それがまったく思いませんでした(笑)。この店は店舗の設備から電球の傘に至るまで、すべて自分の納得のいくものにしたため、初期投資はものすごい額になりました。多額の費用をかけて始めた以上、途中で投げ出すわけにはいきませんでした。しかも、それだけこだわって作った店というのは、いわば自分の人生そのものなので、これを投げ出すことは人生を投げ出すことにもなるので、絶対やめるつもりはありませんでした。
- ――今後の事業展望を教えてください。
- 人気もあるし業績も伸びているので、2号店を出してはどうかという勧めもあるのですが、この店は自分の分身でもあるので多店舗展開は考えていません。ただ、この店をブラッシュアップし、さらにお客さんに喜んでもらえる店にはしていきたいと思っています。
- それからもうひとつ、この店を活用した社会貢献もしたいと考えています。その第一段として、この3月から「魅実塾(みみじゅく)」という無料の開業指南塾を始めました。開業以来、"店をやりたいのでその方法を教えてほしい"という相談が多数寄せられたことから、本気で開業する意志のある人たちを厳選してバー開業のノウハウを教えることにしたのです。このほか、演奏をする場所がないアマチュアのミュージシャンなどに、店をライブの場として提供することなども考えています。
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