輸入販売の売り上げで技術開発に挑む【AMC】
技術開発で起業した場合、直面する課題のひとつが資金調達だろう。優れた技術を持ちながら、収入源がないために開発がとん挫してしまうケースも少なくない。AMCの社長は、技術開発と並行し中国製品の輸入販売を行なうことで、開発資金を確保している。
「技術開発での起業には"開発資金""人脈"のほかに"焦らないこと"が重要。開発が進まないときは焦りがちだが、中途半端なものを出せば逆効果になる」と語る水野雅社長 |
株式会社AMC 代表取締役社長 水野 雅(みずの・まさし) 1950年2月生まれ。大阪府出身。大学卒業後、工業用刃物の加工メーカーに就職。製造部門に勤務した後、営業を経験。その後、技術開発部門で新技術開発に取り組み、2003年に退職し、AMCを設立。 |
工業用刃物の表面硬化処理技術で起業

AMCが販売する刃物。会社員時代自らが立ち上げた中国からの工業用刃物類の輸入販売事業が現在の技術開発の重要な資金となっている
- ――「工業用刃物の表面硬化処理技術の開発」で起業されたとのことですが、具体的にどのような技術なのでしょうか。
- この技術は、工業用刃物に使われる鋼の表面をより細かい組織に変えることで、硬度や強度を高めるというものです。金属表面の結晶を微細化するのは、従来、10ミクロンとか20ミクロンのレベルでしたが、我々はナノのレベルまで細かくしました。
- これにより、刃物の硬度を20~30%アップすることができるため、工具の寿命が長くなります。さらに、工具の中に入るレアメタルの量も減らせるため、省資源化にもつながります。
- ――なぜ技術開発で起業されたのでしょうか。
- 起業する前は工業用刃物の加工メーカーで技術開発に取り組んでいました。厳しい時代になり、研究開発費もなかなか出なくなってきて、このままではいいところまできた技術の開発が続けられなくなるかもしれないという危機感を持ったことから、独立して自分でやってみようと思ったわけです。
- ――53歳での起業は勇気がいったのではないですか。
- 上司には「53歳で新しいことをするのはしんどいぞ。やめとけ」と言われましたが、外部の知り合いに相談すると「それは面白い、ぜひやるべきだ」と応援してくれたので、思い切って独立することにしたのです。
- ――起業までの準備期間はどれくらいですか。
- 会社を辞める1年くらい前から準備しました。大阪府や大阪市の起業支援のサービスに相談に行ったり、本を読んだりしながら準備を進めました。会社設立の資金は、自己資金に加え、知り合いも出資してくれました。また、前の勤務先の会社も出資や研究施設の使用などで起業に協力してくれました。
工具の輸入販売で研究開発費を捻出
- ――研究開発事業は製品化までの収入源が必要になります。御社ではどのように調達されたのでしょう。
- ひとつは、助成金です。「中小企業創造法」や「中小ものづくり高度化法」など、さまざまな助成事業に認定されることで、助成金を得ることができました。
- もうひとつは、中国からの工業用刃物の輸入販売事業による売り上げです。実は、この事業は私が会社員時代に立ち上げたもので、退職する際、「ほかに担当できる人もいないので持っていってほしい」と言われたことから引き取ったのです。当初は事業規模も小さかったのですが、最近は退職時の5~6倍にまで成長し、技術開発を支える重要な収入源となっているのです。
- ――では、起業以来、順調に進んでこられたわけですね。
- 創業した年こそ赤字でしたが、翌年からはずっと黒字を実現しており、これまで金銭的な心配はありませんでした。ただ、すべてが順風満帆だったというわけでもないのです。
- 実用化できる可能性が高いからと、独立してまで開発を続けた技術が、起業から3年ほどで実用化をあきらめざるを得なくなったのです。顕微鏡で見ると問題はないのに、いざ試作品を作ってみると、どうも理論通りの結果が出ない。実用化はできないという結論になってしまったのです。
- ――技術開発企業を設立したのに、それができなくなったのですね。
- そうです。このままでは、工具の輸入販売会社になってしまうと焦り、いろんなところに相談しました。その結果、大阪府立産業技術総合研究所のある研究者が「こんな技術があるよ」と紹介してくれ、それをお蔵入りしかけていた技術に加えたところ、これまでにない技術が開発できる可能性が見えてきたのです。
営業の経験が起業後に生きた
- ――そうした相談先は、会社に勤務していた時代に開拓されたものなのでしょうか。
- ええ。会社勤めの頃からいろんな講習会などに出かけ知識を増やすとともに、研究者などの知り合いを増やしてきました。こうした人脈がピンチを救ってくれた。つくづく"いろんな知り合いがいてよかった"と思いましたね。
- ――工具の輸入販売にしても、人脈にしても、会社員時代に培ったものが起業後重要な役割を果たしているわけですね。
- そうです。前の会社では入社後に製造部門に配属されたものの、その後営業部門に異動になりました。工学部出身の技術者としては、営業への異動は不本意でした。しかし、実際営業を経験してみると、どんな製品やどんな技術が求められているかがわかり、後に技術開発をするうえで大変役に立ちました。また、営業に異動になったからこそ、輸入販売という事業も立ち上げられたのだと思います。
- 外部の講習会などで知識や人脈を積極的に増やすことができたのも、いろんな人に会う営業を経験したからこそでしょう。技術一本でやっていれば、高い技術力は身に付くかもしれませんが、どうしても世間が狭くなる。いろんな経験をすることは技術者としても重要だと思いますね。
フィルム製造用工具や医療用刃物製造を目指す
- ――新たに取り組まれた技術の開発は、現在どこまで進んでいるのでしょうか。
- 技術的に固まってきたので、研究の段階から、試作品を作る段階へと移りつつあり、商品化に近いところまできているといえます。この4月には、大阪市立工業研究所内に研究室を開設し、開発のスピードをさらに高めていく計画です。それに合わせ、開発スタッフも2名採用する予定です。
- ――将来の事業展望を教えてください。
- 現在開発中の技術は、液晶フィルムや太陽電池フィルムなどのフィルム製造に必要な工具の分野での活用を狙っています。また、医療用のメスやハサミなど、鋭利な刃物の製造も考えています。企業の形態としては、開発に特化するのではなく、お客さんのニーズに応えられるファブレスメーカーの方向を目指したいと考えています。
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